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「アフォーダンス」を知るには、ジャッキー映画が手っ取り早い!

 大学生の頃、アフォーダンスに目がなかった。教室のいたるところに目をくばり、木々の揺れを眺め、ときには石を持ち上げてみたりした。認知科学のゼミに属していたし、学校自体が「デザインを知れ」って雰囲気だったから。
 卒業してからは、そんなこと気にもしてなかったんだけど、つい先日、ジャッキー映画を観ていたら「こんなにアフォーダンスを理解するのに適した映画はない! ってか、もはやジャッキーはアフォーダンスそのものだ!」と、ふと思った。後半はワケわからないけど。
 今回は、そんな話。アフォーダンスを理解するにはジャッキー映画が手っ取り早いぜ。

アホみたいに踊り狂う話じゃないよ

 「アフォーダンスとは何か」って、いまさら僕が偉そうに語る話ではないと思うから、オススメの本の紹介をしておこう。やっぱり提唱者であるジェームズ・J・ギブソンの著書をすすめたいところだけど、けっこう難しいものが多い。正直、僕もそんなにしっかり読み込んだわけじゃない。僕が読みまくったのは、日本のアフォーダンスのゴッドファーザー・佐々木正人氏(僕は勝手にそう呼んでる)の著書の数々だ。
 ちなみに、僕が高校生の頃に初めて買ったアフォーダンスに関する本は、これだった。117ページしかないし、あっという間に読み終えちゃう。

 この本がアフォーダンスという考え方をていねいに説明している、いわばエントリー向けの本だとすると、この本を読んだあとにぜひ読んでもらいたいのが『知覚はおわらない-アフォーダンスへの招待』だ。この本では「スポーツ」や「演劇」といったものを題材にしながら、アフォーダンスという視点から世界を楽しむ方法を教えてくれる。

 特に好きだった話を引用しておこう。「そうやって世界を見ると楽しいな」と思わせてくれた話だ。

これは半分冗談で、半分本当なんですが、腰が悪くて街をカートを使って歩いているおばあさんがいますね。そのおばあさんの様子をずっと見ていると、本当に絶妙にルートを選んでいる。道の段差とか傾斜とか障害物の問題や、これは盲人の移動にも共通するのですが、壁とどれくらい距離をとるかということがあって、絶妙にルートを選んでいるんです。
(佐々木正人『知覚はおわらない-アフォーダンスへの招待』)

 とりあえずこの2冊を読んでみれば、アフォーダンスって何か、なんとなく理解できると思う。

僕らは、あらゆるものから可能性を選んでいる

 アフォーダンスが分からないままでは、ジャッキー映画をオススメできない。いろんなひとが分かりやすい例を出してるから、サクッと拝借しよう。こんなときは、松岡正剛氏に限る。

ここに一枚の紙がある。摘まむには紙のほうに手を伸ばして、親指と人差指のあいだをちょっと狭める。その紙を折ったり引きちぎったりするには両手が必要だ。その紙が不要な紙ならくしゃくしゃ丸めて捨てたくなる。
 紙はわれわれに何かを与えているのである。イメージをもたらしているだけではない。われわれに動作を促しているのだ。その何かを与えているということを「アフォード」(afford)という。「~ができる」「~を与える」という意味だ。紙はわれわれにさまざまなアフォードをしているわけである。われわれが何をしなくとも紙はいろいろなアフォードの可能性をもっている。
 そのようなアフォードの可能性がいろいろあることを、この紙には「アフォーダンス」(affordance)があるということにする。そういう用語で、対象がもつアフォードの可能性をよぼうと決めたのはジェームズ・ギブソンである。
(1079夜『アフォーダンス』佐々木正人|松岡正剛の千夜千冊』)

 先ほど紹介した『アフォーダンス-新しい認知の理論』についてのまとめ。ぶっちゃけ、千夜千冊を読むと、読んでないのに読んだ気になっちゃうからコワいよね。まぁ、いいや。

その道はドラゴンへの道か?アフォーダンスへの道か?

 ここからが本題だ(いつも前置きが長い)。
 アフォーダンスとは何か、ぼんやりとは分かってもらえたと思うけど、ジャッキー・チェンの映画を観るのが何よりも手っ取り早いという話。
 ジャッキー映画の見所といえば? 派手なカンフー? エンドロールのNG集? 下手ウマなジャッキーの歌? コミカルな演出? 違う。ジャッキー映画で注目すべきは「椅子(イス)アクション」だ!
 ジャッキー映画では、とにかくイスが大活躍する。僕なんかは、敵が現れた時にイスがあるだけで「おっ、きたきた」とよだれ必至だ。

(イス『ヤング・マスター』より)

イスは「座る」だけじゃない!

 目の前にイスが置いてあったら、どうする? まぁ「座る」よね、ふつう。でも、例えばこんな経験はないだろうか? 何かものを書きたいけれどテーブルがない。床は汚れてなさそうだし、床に座って、イスをテーブル代わりに使った。あるよね? つまり、僕らは状況によって「座る」以外の使い方を見出すことができるということ。
 これ、まさに「アフォーダンス」だよね。イスの座面がもっている「平ら」「固さ」という要素や、床から座面の「高さ」と自分の座高の「高さ」という要素、座面の「面積」と紙の「面積」という要素なんかを知覚し、瞬時に「ものを書くのに使える」と判断している。
 ジャッキーはどう使うか? もちろん「座る」ためにも使う。でも、それだけじゃない。ジャッキー映画では、イスが「武器」になったり「防具」になったり「ボケの小道具」になったりする。

ジャッキーの知覚は高解像度!

(ソファ『ライジング・ドラゴン』より)

 映画の見所としてはイスを使ったアクションだけど、「アフォーダンス」の視点でいうと、イス以外のアクションシーンも面白い。いや、ふつうに観ても超面白いんだけど、そういう視点で観てみるとより一層面白い。
 他のアクション映画と違い、ジャッキーは積極的に小物を活用する。それも、「なんでそんなものがそこに?」といった物ではなく、そこにあって然るべき小物を使う。これはおそらく、ジャッキーが影響を受けているバスター・キートンをはじめとする無声コメディ映画が「シチュエーション」を使って笑いを生み出していたことにも関係しているだろう。

(ショッピングカート『レッド・ブロンクス』より)

 そこにあるものを、ありふれたものを、武器にする。それも、ただ投げつけたりするのではなく、「なるほど、そう使うのか!」という使い方をする。

(ハンガーラック『ポリス・ストーリー』より)

 ジャッキーの小物の使い方には、僕らが気づいていなかった(というよりも無視してしまっていた)「小物の捉え方」がある。それは「モノ」のもつ要素を捉える知覚が、とんでもなく高解像度だからできるのだろう。そのモノがもつ「硬度」や「重さ」「軽さ」「形状」「テクスチャ」「材質」などなど。僕には書ききれないほど細かい要素を感じとり、新たな使い方を発見している。さすがです、ジャッキー。

ジャッキー映画を観たくなったでしょ?

  ここまで読んでみて、いかが? ジャッキー映画が観たくなったでしょ? まだアフォーダンスが分からない? もっとアフォーダンスに関するオススメの本を教えて? そんなことどうでも良いよ。

 とにかく僕は、ジャッキー映画をオススメしたかっただけだから。 

END

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