見出し画像

輪廻の呪后:~第二幕~虚柩の霊 Chapter.3

 意識の深淵から目覚めると、見知らぬ天井が出迎えた。
「……此処は」
 朦朧もうろうとした判断力はんだんりょくに、アンドリュー・アルターナは状況把握をいる。
(自宅のモルタル材質ではない……もっと重厚な石材建築だ。
しかし、時代錯誤な前時代性には無いな。素材は、おそらく大理石か……衛生的な艶を与えられた表面は研磨した形跡)
 視界を滑らせれば、きらびやかな輝きに吊るされた黄金のシャンデリアが文化的な賛美を謳っていた。
(……人工的だな。だが、何処・・だ?)
 分析の最中に、甘い微香が鼻をくすぐる。
 気付いてはいた。
 覚醒の少し前から撫でられていた香りだ。
「あら、お目覚め?」
 現状の対応には不釣り合いな朗々に呼ばれ、ベッドに半身を起こす。
 左手の応接空間でテーブルにくつろぐ歓待者は、見知った顔であった。
「メディア?」
「はぁ~い★」
 やはり場違いな飄々ひょうひょうがヒラヒラと掌を振る。
 警戒心皆無にショコラケーキを茶とする振る舞いは、その弛緩に深刻な雰囲気を否定してきた。
 いなあるいは実力に裏打ちされた自信であろうか。
 いずれにせよ道理で甘い微香に目覚めをくすぐられたわけだ。
「此処は?」
「領事館。ああ、安心して? 他国じゃなくてエジプトの・・・・・だから」
「……死んだ・・・と思ったが?」
「でしょうね。死んだ・・・もの」
 軽く流すかのように指先のチョコかすをしゃぶり拭う。
「どういう事だ?」
生き返らせた・・・・・・
「何?」
「心配しなくていいわよ。別に〈デッド〉でも〈ゾンビ〉でもない。私の〈蘇生魔法〉──つまり〝生前そのまま〟の蘇生だから。どちらかと言えば『復活』と呼んだ方が解り易いかもね……この闇暦あんれきでは。どうしても『蘇生』とか『再生』だと〈アンデッド〉の方が連想されちゃうし」
 怪訝けげんに曇る眉根。
 そのけにも似た視線を、メディアはえた肩竦かたすくめでいなした。
「不思議そうね? いいわ、種明かし。実は監視させてもらっていたの。ずっと〈遠隔知覚魔法〉によってね」
 そう告げて指差すのはアンドリューの胸元。
 思い当たって現物を引き出す。
「……林檎か?」
「そ★ 貴方あなたが死んだ事を真っ先に察知出来たのも、それが有ったため。すぐさま〈転移魔法〉で運んだってワケ」
「何故だ?」
「死なれちゃ困るのよ。きたい事もあるし」
きたい?」
 追及された途端とたん、魔女の雰囲気が一転いってんしてスゥと引き締まる。
どうやって死んだ・・・・・・・・?」
「何?」
それ・・知りたい・・・・
 何ともあきれ果てた要求もあったものだ……と、アンドリューは鼻を吹かす。
 よもや生き返らせた相手に対して、最も苦しく忘却したい瞬間を述懐じゅっかいさせようとは。
 が、異論は無い。
 彼自身にしても、あの瞬間・・・・は改めて考察を要するものであったからだ。
「ワシを殺した・・・のは、娘──エレンだ」
「それ、から?」
「ほう?」
 さすがに叡知の探求者たる〈魔女〉といったところか。その鋭い洞察力どうさつりょくには素直に感嘆する。
貴方あなたの死因……内部から臓器を握り潰されていた。それも膨大な剛力でね。だけど、外傷は何ひとつ見受けられない。つまり体内で直接的に〝ちから〟が発生したという事。貴方あなたの娘さん〈超能力者〉だったかしら? それとも〈魔女〉?」
 露骨な茶化しに、自嘲的な苦笑を振る。
「いいや。極めて〝普通の娘〟だよ。だが……」思い起こすにアンドリューの険しさが顔を覗かせた。「あの瞬間・・・・に関しては違うな。アレ・・は〈魔性・・〉だ」

 頭に血が昇ったとはいえ、軽率な愚行であったと後悔する。
 娘に手を上げたのは初めての事であった。
「エレン? おい、エレン! しっかりしろ!」
 返事が無い。
 というよりも、反応が無い。
 平手打ちに倒れ崩れたエレンは、そのまま床へと横臥に伏し、昏睡したかのように無反応であった。
「まさか頭を?」
 焦燥に案ずる……が、そうした形跡は無い。
 その場は家具の配置から離れており、角にぶつける心配は無い。
 しかし、すぐさま連鎖的に生じた懸念けねん脳震盪のうしんとうである。
 そもそもエレンはインドア派だ。
 ともすれば、活動的な義姉に比べて身体的には弱い。
 平手打ちの衝撃が……あるいは倒れた際の打ち所が悪ければ、それも有り得るだろう。
「おい、エレン!」
 強い語気に呼び掛ける。
 軽卒に揺さぶりはしない。
 容態悪化を危惧すればこそ。
「どうする? い……医者を……いや、そんな者が何処に?」
 この闇暦あんれきいて、医者は貴重な存在だ。
 金銭的な問題ではない。
 この時代にて珍しい高給職に就いているのだから、そうした要素は潤沢に満たしている。
 問題なのは絶対数・・・だ。
 稚技程度のひよっこやペテン上等のやぶなら吐いて捨てるほどいるが、信頼性の高い〈医者〉は稀有けうである。
「どうする……いや、とりあえずは頭を冷やして……そうだ、氷を!」
 不慣れな応急処置に模索没頭する中で、ゆらりと背後で起き上がった気配に気付けなかった。
「イムリスはすでに帰宅してしまった。他の使用人達も同様か。此処は私だけで何とかするしか……」
 思索を投げ掛ける床面に、自分の影が微かに膨らんだ。
 いや、異なる影・・・・が重なったのである。
 そこでようやくアンドリューは気が付いた。
 背後へと振り向けば、そこにはたたずむ娘の姿。
「エレン! おお、大事だいじ無かったか!」
 安堵に駆け寄ろうとする……が、次の瞬間、足が止まった!
 本能が制した!
 得体知れない慄然が肉体を支配した!
(……違う)
 根拠無き否定!
(違う!)
 不確かな予感!
「エ……エレン?」
 呼び掛けるも反応は無い。
 ただ白き幽鬼のように在るだけであった。
 意識が失せているワケではない。
 確実に自我を覚醒し、そして、こちらを視認している。
 氷のような冷たい蔑視べっしであった。
 煉獄のごとき熱い念であった。
 だから、悟るのだ!
 目の前にいる娘は、ではない!
 エレンではない・・・・・・・
「だ……誰だ! オマエ・・・は?」

 眼差まなざしは語る。

 ──羽虫の分際でわれさまたげるか。

 瞳は告げる。

 ──何よりも、実の娘に害を為すか・・・・・・・・・

 そして、かざす掌が弾劾する!

 ──父親の分際で・・・・・・

 念が光る!
 途端とたん、彼の内側に圧が生じた!
「グッ? ぁ……ぁ……っ?」
 不快な異質感が存在している!
 内在する!
 膨張していく!
 臓腑ぞうふを圧し潰さんと!
 苦悶に抗い見定めれば、それ・・は眼前の手そのものにも思えた。
「グァ……ァ……キ……キサマ・・・は?」

 ──失せろ。

 握り閉じる掌。
 赤は弾けた。

「なるほど……ね」
 一頻ひとしきりの顛末てんまつを聞いたメディアは、べにと熟れた唇に白指を甘噛みしつつ考察を巡らせる。
が起こっている?」
「結論から言うわね。貴方あなたの娘──エレン・アルターナは憑依ひょういされた」
「何だと?」
 感情露呈かんじょうろていにベッドから腰を浮かすアンドリュー。
 あの厳格にしては珍しい。
 普段は沈着を旨としているのに……冷淡とも取れるほどに。
 ともあれ持ち前の冷静さを欠かれては、確実な論議も怪しくなる。
 メディアは慌ててフォローを添えた。
「ああ……と、誤解しないで? 少なくとも、その瞬間は・・・・・……よ? だけど──」引き締まる声音。「──おそらく以前から接触の兆候・・・・・はあったはず。因果性としてね」
「何者だ? いったい何処の〈怪物〉が?」
「心当りはあるはずでしょう……貴方あなたなら」
 確信めいた口調くちょうに示唆され、ようやく考古学者は特定する。
「まさか……〈呪后じゅごう〉?」
 重々しいうなずきに肯定する魔女。
「古代に消滅した〈呪后じゅごう〉の魂は、再生のタイミングを待っていた……悠久たる時代ときの流れをね。そして、その条件に触れられた事で、微睡まどろんでいた魂が再胎動を始めたと思われる」
「条件だと?」
「おそらく、件の〈古文書パピルス〉の発掘」
「たかが〈古文書パピルス一枚いちまいだぞ! 遺体ミイラでもなければ墓碑でもない! たかが記録書一枚いちまいだ!」
「アチラさんにしてみれば関係無いわね。肝心なのは〝刺激してしまった・・・・・・・・〟という事実・・の方……仮に〝軽く〟でもね」
 絶望を実感したアンドリューは、ドサリとベッドに腰を落とした。
 苦悩のままに顔を覆うと、吐露とこぼれるのは痛々しい悲嘆。
「どうすればいい」
復活・・を未然に阻止する──それしかないわね。アレ・・が復活したら、それこそ世の混沌に拍車が掛かる……洒落にならないほど大きな拍車がね」
「そうではない!」
 くすぶる激情が暴発した!
 あくまでも現実的な魔女の分析に!
「エレンだ! どうやったら娘を救える!」
現状いまは無事よ」
「何?」
「これも〈遠隔知覚魔法〉による情報……とは言っても、貴方の・・・とは別物だけど。貴方のは〝いつでも〟〝何処でも〟安否を知覚できる受動型魔法──だからマジックアイテムを介する必要がある。対して、いま現在エレンを見ている・・・・のは私自身の意思で〈魔術〉を行使しなければ発動しない──つまり能動型魔法ね」
「……何を目論もくろんでいる?」
「何が?」
「いまさらとぼけるな! 貴様からコレ・・を授けられたのは、スペインで初めて会った時だ! この現職・・・・を交換条件に『片時も手放すな』と強いられてな! あの頃から、この流れ・・・・を予想していたとでも言うのか!」
「そうよ?」
「なっ?」
「いずれ、こうなる・・・・とは予測していた。だって、そのため・・・・貴方あなたへと接触したようなものですもの」
「この〈魔女・・〉め! 総て貴様の姦計かんけいか!」
「まさか? あくまでも〝何か〟が起きた際の保険。私が貴方あなたに接触したのは、候補・・の中で一番いちばん有能だと見定めたからなのよ」
「候補?」
「あの頃は幾人いくにんもの〈考古学者〉を品定めしていたのよ。やがて訪れるであろう〈呪后じゅごう〉の再生に深く関わるであろう人材を……ね」
それ・・が、私だと?」
「そ。宿星ほしが示していた。貴方あなた一番いちばん深く関わる・・・・・……と」
「……甦らせる気か」
「逆。阻止したい」と、紅茶すすりの一息ひといき。「だから・・・、わざわざ〈エジプト考古学博物館〉の責任者に推した。後押しした。領地内で研究してもらった方が逐一ちくいち情報も貰えるし、何か・・が生じた際にも迅速に対応可能だから。私達〈ギリシア勇軍〉にしてみれば、善い事尽くしのベター案ってトコ。そして、事実起きた・・・・・。あんな古文書パピルスに携わっている以上、どこで〈災厄〉に見舞われるか判らない。未然に防ぐための事前策」
「娘が犠牲になった!」
「それは、まったくの予想外だったわ」一応の謝罪を示すも、そこに反省の色はうかがえない。あくまでもドライな分析だけを染めていた。「それでも、いまはまだしたる深刻性に無い。エレンは憑依から解かれて健常状態には戻っている。まぁ、心身共に疲弊はしているけれど……。あの憑依は、あくまでも一時的なもの。おそらくエレンの意識がトんだのが直接的原因ね。そして……エレンを救おうと行動を起こしている者もいる。案外、それが希望かもね」
「何? 誰だ?」
「ヴァレリア・アルターナ」
「ヴァレリア! ヴァレリアだと!」
 再び興奮に立ち上がるアンドリュー!
 思いがけない名前を聞かされた!
 腹に据え兼ねる名だ!
 寛容な堪忍すらも、とうに捨て去った!
 最早、積年のいきどおりしか呼び起こさない!
「そもそもアイツだ! 家を飛び出していながら! 絶縁に在りながら! いまさらヒョコヒョコと現れた! しかも、よりによってエレンの前に! そして、心を掻き乱した! そうか……きっとアイツだ! アイツが災厄わざわいを運んで来たに違いない! その流れ・・を! でなければ、エレンが私に歯向かうワケが無い! あのエレンが・・・・・・!」
 憤慨ふんがいしきりの荒れように、メディアは軽く皮肉をはさむ。
「エレンとはエライ違いね?」
「当然だ! アイツは勘当した身だ!」
「同じでしょう?」
「同じ? いいや、違う! エレンこそ、私の娘・・・だ! あんな恩知らずの勘当者、とっくに〝〟などと思うてはおらん!」
「ふぅん?」と、冷ややかな監察。
 軽い探りだ。
 彼の人間性と逆鱗を見極めるための……。
 さりながら、それ以上踏み込む気は無い。
 他人ひとさまの家庭内情など些事さじだ。
 こちらの思惑に沿って上手く動いてくれれば、それでいい。
 それよりも最優先すべきは……。
「とりあえず今後の指針ね。まずエレンを完全に救うには、現段階の内に〈呪后じゅごうの魂〉を再封印する必要がある。復活を未然に防ぐしかない」
「再封印? 消滅とかは出来んのか?」
「無理ね。紀元前〈ギリシア勇軍〉は幾度いくどか交えた事がある……けれど、殺した・・・と思えば、何事も無かったかのように復活してしまう。毎回ね」
「不死身……というワケか。それでは打つ手無しではないのか?」
「だから、現状いま封印・・。いつ解かれるかも判らない微睡まどろみの闇へと封じ込める」
「消極的な事だな」
 淡く共感をふくんだ揶揄に「それしかないもの」と肩竦すくめの同調。
「それで? 具体的には?」
呪后じゅごうの魂が眠る場所を特定するのが前提。何せ〝忌まれし存在〟だから王族墓跡ピラミッドなんか無い。かと言って、こちらには手掛かりは無し」
「ふむ?」渋くらしたアンドリューは、持ち前の考察力こうさつりょくを巡らせた。「……共同埋葬の可能性はあるな」
「共同埋葬?」
「あくまでも仮説の域だが〝懇意こんいの人物によって共同埋葬に隠蔽いんぺいされた〟というケースは考えられる。仮にも〈王族ファラオ〉であり、してや〝エジプト史実からも抹消されるほどの忌避対象〟だ。言い換えれば、あらゆる意味で畏れ多い・・・・。むしろ、だからこそ・・・・・形式ばかりとはいえ埋葬はしたくもなろう? 障らぬ神に……というヤツだ」
「ふぅん? ナイル河へ流したとかは?」
「あそこは神聖な意味合いを持ち、ともすれば〈再生観念〉にも通じておる。ナイル川上流──ルクソール西岸付近だが──は〝死者の住まう地〟とされ、隔てた下流が〝生者せいじゃの住まう地〟だ。現在主観に据えられているピラミッド乱立地〈王家の谷〉は、当然ながら、この〝死者の住まう地〟に据えられている。そうした〝死生観念の霊的聖地〟であるがゆえに〝再生を望まれぬ忌避存在〟をナイル川へと遺棄埋葬するなど有り得んよ。最重視されたのは〝再生させぬがゆえの埋葬〟だ」
「早い話が、体裁をつくろった封印・・?」
「実もふたもなく言えばな」
「となると、やはり王墓か。そうなると〝誰〟のか……よね」
「第十八王朝ゆかりには間違いなかろうよ。有力なのは、やはり古文書パピルスが発掘された〝ツタンカーメン〟辺りか。あるいは、もっと権限の高い先代〝アクエンアテン〟〝ネフェルティティ〟……」
「ヴァレリア・アルターナは〝ツタンカーメン〟に白羽の矢を立てたみたいね」
 不快な名を織り込まれ、アンドリューは「フン」と鼻を吹かした。
アレ・・がそうしたというのであれば、おそらく最有力さいゆうりょくと見て間違いないだろうさ。そうした素地にいては鼻が利く」
「あら? 認めてはいるのね?」
「人間性は認めておらんが〝考古学者〟としては疑う非は無い。そもそも、そうした知識と考察力こうさつりょくは、私が授けたのだしな」
「ふぅん? 英才教育って事?」
「そのために引き取ったのだ。行く行くは、私の片腕になってもらうべくな。それを……!」
 沸き立つ怨恨を抑え込むべく、アンドリューは卓上の水差しを取る。
 一方いっぽうでメディアは会話から拾った情報から推察を補完するのであった。
(なるほどね。引き取った・・・・・という事は、それまで疎遠に生きてきたという事……おそらくは〝異母姉妹〟といったところかしら? そして、出て行った・・・・・。親子不和を抱えたままでね。原因は……大方、その〝英才教育〟とやらかしら? 彼の言動から人格を見るに、相当かたよっている。とすれば、それ・・以外に関心は無いワケだから、当然、原因もそれ・・よね)
 黙想を紅茶に乗せて飲み込む。
「確かに〝ツタンカーメン〟は、かなり有力な候補ではあるな。発掘調査対象ではあったが、見落としたものがあるやもしれん。件の古文書パピルスも、そこで発見したのだしな」
「関係性は? その〝ツタンカーメン〟と〈呪后じゅごう〉との?」
 この追求には苦々しく首を振るしかない。
いまだに解ってはおらんよ。その解析に追われる最中でコレだ」
「御愁傷様」と、軽くおどけて紅茶に潤す。
 一間ひとま──。
 黙考ややあって、メディアは指針を定めた。
「本腰を入れるなら、やはり〝ツタンカーメンの王墓〟ね。その他の王墓は、警備竜牙戦士スパルトイに探索させるとして……本隊は、そこへ向かう」
「本隊?」
 怪訝けげんの値踏みを浴びつつ、魔女は席を離れて壁掛けのショールを羽織る。
「ふふ~ん ♪  わ・た・し★」
ひとりでか?」
「そ★」
 何処吹く風の楽観に塗り直す口紅ルージュ
「頼れる少数精鋭も在ったものだ。それこそ竜牙戦士スパルトイを引き連れんのか?」
「もちろん多少は率いるわよ? けれど本意気となれば、一騎当千の〈かなめ〉は必要となる。もしも〈呪后じゅごう〉と遭遇した場合は一戦いっせん交える羽目となるしね……雑兵じゃ太刀打ち出来ないわよ。そして〈ギリシア勇軍〉自体は動かしたくない。内情のゴタつきが表沙汰になれば、それこそ他国からして侵攻の好機とにらまれるもの」
「……私も行く」
「うん?」
「私も連れてい行け。現場での即興的な遺跡分析に関しては、オマエ達よりも優れている。いや、必要・・だろうよ? オマエ達には?」
「あら、嬉しい同伴だこと。モテる女は罪だわね」
「ふん、最初ハナから目論もくろんでいただろうが」
 魔女は温和につくろって苦笑にがわらう。
(さすがに御見通しですか)
 現代賢者侮りがたし……と、内心賛美を噛んだ。
 実際のところ、彼の固執的探求心は指をくわえて看過など出来まい。
 無論、父親としての心配に駆り立てられている面もあるが、結局のところ動機として大きいのはそれ・・だ。
 彼自身も無自覚な深層心理だとは思うが……。
 何よりも〝ヴァレリア・アルターナ〟の存在が駆り立てる。
 この嫌悪対象にしてライバルである娘に、先を越されたくはないのだろう。
 前人未到の大発見を……。
 さりながら同時にメディアは、エレンに対するアンドリューのスタンスに杞憂きゆうを覚えるのである。
(娘……か。はたしてそれ・・は、どういう想い・・・・・・なのかしら? 純然に〝父親〟として? それとも、あるいはヴァレリア・アルターナで果たせなかった──)
 その憐憫れんびんが、どちら・・・へと向けられたものか……いにしえの賢者をもってしても判らない。
 と──「興味深い話だな」──不意に割り込んだ第三者の声に、部屋の入口いりぐちへと注視を傾けた。
 不敵な背凭せもたれに全てを聞いていたのは、エジプト領主・ペルセウスであった。


私の作品・キャラクター・世界観を気に入って下さった読者様で、もしも創作活動支援をして頂ける方がいらしたらサポートをして下さると大変助かります。 サポートは有り難く創作活動資金として役立たせて頂こうと考えております。 恐縮ですが宜しければ御願い致します。