松下幸之助と『経営の技法』#25

 「法と経営学」の観点から、松下幸之助を読み解いてみます。
 テキストは、「運命を生かす」(PHP研究所)。日めくりカレンダーのように、一日一言紹介されています。その一言ずつを、該当する日付ごとに、読み解いていきます。

1.3/11の金言
 楽々と働いて、なお素晴らしい成果をあげる。そうした働き方をお互いにもっと工夫したい。

2.3/11の概要
 松下幸之助氏は、以下のように話しています。
 人より一時間余計に働く努力、勤勉は、尊い。
 同じく、人よりも一時間少なく働いて、今まで以上の成果を上げることも尊い。工夫、創意、額に汗のない涼しい姿も、称えるべきであり、お互いもっと工夫したい。そこから社会の繁栄も生まれてくる。

3.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 まず、リスク管理です。
 会社の従業員が、より多く働いて努力することには、どのようなリスクが考えられるでしょうか。これが恒常的になると、生産性が低く競争力が低い、人材確保が難しくなる、その結果、事業を継続できなくなる、等の危険が近づいてくるでしょう。
 つまり、リスクセンサー機能から見れば、従業員の勤務時間が、会社の健康状態を図る一つのパラメーターであること、さらに、従業員の勤務時間が伸び始めた場合には、その原因や悪影響を適切に考慮して原因分析を行うべきことがわかります。
 また、リスクコントロール機能から見れば、労働時間が長くなると事業に悪影響が出る、と予測される場合には、労働時間を減らすための工夫を日ごろから行うべきこと、そのためには、長時間働くことを是とするのではなく、要領よく働くことを是とする社風、人事考課、ビジネスプロセスの工夫、等の環境を整えるべきこと、がわかります。
 このことは、経営の観点から見ても同じことです。
 というのも、単にリスクを減らすだけでなく、会社の体制を強くすることで競争力を高めることになり、それがさらなるチャレンジを可能にするからです。

4.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家としては、従業員の労働時間も重要な経営指標であると理解している経営者を選び、または、そのようになるよう働きかけることが重要になります。
 同時に、経営者が労働者を働かせるだけで、労働効率を高めようとしない場合には、企業価値を中長期的に低下させる危険を株主も理解しておくべきでしょう。経営者の経営効率を測定する指標としても、労働時間の動向を活用できるのです。

5.おわりに
 昭和の古い時代にありがちな、勤勉さだけを強調するのではなく、むしろ効率性を高める工夫を評価する発想は、少し驚きでしたが、そのような工夫を推奨するところが、松下幸之助氏を、経営の神様たらしめた理由の1つかもしれません。
 どう思いますか?


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