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松下幸之助と『経営の技法』#60

4/15の金言
 新たな創造を生み出す柔軟な心は、素直な心になるところから養われてくる。

4/15の概要
 松下幸之助氏は、以下のように話しています。
 人間は現状に安んじ、現状で事足れりとする傾向があるが、時は刻々と流れ、日は移り変わっている。だから、人間も日に新たな時の流れに相応じた新しいものの考え方なり生き方といったものを次々に創造していくことが大切であり、それで昨日より今日、今日よりも明日といった望ましい進歩向上の姿を生み出していく。
 けれども、新しいものの創造は、簡単ではない。現状を固定したものと考えず、日に新たに変化していくものととらえる柔軟な心から、新たな創造が生まれてくる。柔軟な心は、素直な心になるところから養われてくる。素直な心になれば、現状にとらわれなくなり、常に何が正しいか、何が望ましいかがおのずと考えられ、スムーズに見極められていく。

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 松下幸之助氏は、個人の問題として話していますが、経営者が株主からの負託=「儲ける」に応えるためのツールである会社経営の観点から検討しましょう。
 ここでは、会社が社会の変化に合わせてついていけるように、会社の柔軟性を維持する方法が論じられている、と評価できます。そこで、氏は素直な心→柔軟な心→見極め、という関係を説明しています。他方、克服すべき問題は、現状に安住しようとする人間の傾向です。
 すなわち、変化に対応できず、硬直化した組織を、柔軟にするために、ポイントとなるのは、企業文化、従業員の意識、組織体系、人事制度、など組織論全般に広がっていきます。その中でも、特に「素直な心」「柔軟な心」を、個人の問題としてではなく組織の問題として見た場合には、どのように解釈できるでしょうか。
 それは、社会の変化に接する場所(多くの場合現場)の感度を高め、現場からの情報伝達が遮られないようにすることです。
 これは、リスク管理の観点から「リスクセンサー機能」として論じられるもので、『経営の技法』でも、特に強調されているのが、この「リスクセンサー機能」を担うのは、全従業員である、という点です。これは、会社組織を人体に例えた場合、体の表面には神経網が張り巡らされており、それが機能するからこそ、例えば蚊に刺されたことや、風が吹いていることを感じることができ、これだけの感度があるからこそ、人体に迫りくるリスクを感じることができるのです。
 その代わり、現場の全従業員が感じるべきリスクは、難しいものでなく、それぞれの現場業務に応じたシンプルなもので十分です。
 そして、この「リスクセンサー機能」をビジネスチャンスに関する情報についても応用すれば良いのです。
 具体的にどのように全従業員の感度を高め、伝達の精度を上げるか、については様々なことが考えられますが、現場の声を面倒くさがらずに拾い上げるべき業務を管理職に明確に与え、人事考課上もそれを適切に評価する、というところから始めてみてはいかがでしょうか。経験を積み自信もついてきた管理職が、自分の経験を超えた事象に対する拒否反応を示す場合が多いように思われるからです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係から見た場合、経営者が現場の硬直化を促進するのではなく、むしろ現場の柔軟性を高める能力に長けている点を、経営者選考の際の1つのポイントにすべきことがわかります。まずは、トップが現状に安住しない姿勢を見せなければ、(それだけでは不十分ですが)現場や現場の変化を阻害する者たちは、変わる必要性を感じないからです。
 さらに、それを組織化し、ルール化し、運用を徹底できる指導力が重要になります。

3.おわりに
 社会の変化が、現在ほど激しい時代はないでしょう。横並びが最高の戦略だった時代ではなく、海外の企業と戦わなければならない現状では、社会の変化をいち早く感じ取って、商品やサービスだけでなく会社や従業員自身が変化できないと生き残れない時代です。
 社会の変化を読み取る専門家がいても良いでしょうが、現場従業員もそれぞれの現場で何かを感じているはずです。そこで感じていることを会社の財産として活かすことを考える、という見方をすれば、(会社が)素直な心を持ち(リスクセンサー機能)、柔軟な心を持つ(リスクコントロール機能)という松下幸之助氏の言葉は、時代を読むための専門家を雇ったり、コンサルタントに高い報酬を払うのとは違う方法を示している、と考えられるのです。
 どう思いますか?

※ 「法と経営学」の観点から、松下幸之助を読み解いてみます。
 テキストは、「運命を生かす」(PHP研究所)。日めくりカレンダーのように、一日一言紹介されています。その一言ずつを、該当する日付ごとに、読み解いていきます。


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