夏の自由研究2021 ~かのベーグルは今でも輝いているか~

離れて暮らす家族や友人とオンラインで話していると、NYはどんな街なの?と聞かれることがあります。そんなとき、私は元気よくこう答えるのです。

「ベーグルが美味しいよ!」

渡米してすぐに食べたベーグルがあまりに美味しかったことから、ベーグルをめぐる私の冒険が始まったのでした。

それから半年ほど。少しずつお店を回って食べる中で、ベーグルや具材の種類を覚えていき、呪文のような注文にもだいぶ慣れました。そういえば、私が最初に覚えたのはベーグルの注文の仕方でした。英語初心者である私が、たどたどしく唱えた呪文で、どうにか希望のベーグルを手にする様子を見た夫は「流れるような注文だねぇ」と目を丸くしていました。食欲は言語を超えるようです。笑。今では、「このお店の、このベーグルが好き」「あのお店では、あの具材をサンドしたい」と、自分の好みやお店の特徴も楽しめるようになりました。

そんな冒険の中で、ふと疑問が生まれたのです。それは、「私が美味しいと当時衝撃を受けたあのベーグルは、いま食べても美味しいのか?」ということ。

NYに着いたばかりで、いつもと違うテンションだったんじゃない?
「ベーグルの本場」というマジックに掛かっていたんじゃない?

衝撃的な美味しさとして記憶に残っている、あのベーグル。今食べてみたら、どんな風に感じるんだろうか。そんな興味と、単純にもう一度食べてみたい気持ちで、再び訪問することにしたのでした。

◇◇◇◇◇◇

その店を初めて訪れたのは、今年の冬、確か朝の8時ころ。店内に、私たち以外に客はおらず、カウンターの向こう側で忙しなく動く店員さんの方が圧倒的に多い状況でした。高い天井の広い店内に、自分のオーダーする声がやたら大きく響いたことを覚えています。

半年ぶりにお店に着いたのは、歩くだけで汗ばむ陽気の夏日、11時少し前。扉を押し足を踏み入れると、ランチには少し早いものの、店の中は賑わい客であふれていました。

前回訪れた際には広くて開放的だと思った店内は狭く感じ、そのギャップにびっくりしました。人が多くて注文するのにどこに並べば良いのか分からず、3人くらいに聞いてやっと並ぶことができました。どうやら、既に注文を済ませ、自分のベーグルが出来上がるのを待っている人が大半だったようで、注文の順番はすぐにやってきました。

この日は、前回食べたのと同じく、シナモンレーズンベーグル(シナモンが入った生地に、レーズンの粒が練り込まれたベーグル)を頼もうと、朝起きたときから決めていました。せっかく来たので何かもう一種類、そうだ、エブリシングベーグル(表面に、胡麻・塩・ガーリックチップ・オニオン・ポピーシードがトッピングされたベーグル)も買って帰ろう。

店員さんにオーダーを伝えると、「これで合っている?」と店員さんがオーダーを復唱して、再確認されました。「うん、合っているよ」と答えて会計を済まし、大勢の人に混じって呼ばれるのを待ちます。

周りを見渡すと、大荷物を背負った観光客らしい人から、仕事の合間だろうスーツ姿の人。カウンターテーブルでは、きゃっきゃとはしゃぎながらベーグルを食べている学生らしいグループ、1人黙々と食べているガタイの良いお兄さんまで。英語以外の言語もチラホラ聞こえました。明るくて活気に満ちた店内は、以前の静かでガランとした様子が信じられないほどでした。

出来上がったベーグルの受け取り番号を伝える店員さんの大声。叫ぶように注文しないとこちらのオーダーも通らない。ああ、きっとこの賑わいが本来のこの店の姿なんだな。ビフォーアフターを目の当たりにして、二度目の訪問だというのに、なんだかジーンときてしまいました。

そんなことを考えていると、自分の番号が呼ばれたので商品を受け取り、さっと店を出ました。店の外で紙袋を覗き、ベーグル2つ+別添えで頼んだクリームチーズが入っていることを確認。今日のお昼が楽しみだ~!

◇◇◇◇◇◇

家に帰り、さっそく紙袋を開けてみます。記憶の中のベーグルも相当大きかったのですが、今見てもやっぱり大きい。円の直径も大きいけれど、思ったよりも高さがあります。こんなに分厚かったとは!

さぁ、軽く温め直したシナモンレーズンベーグルが、本日のメインディッシュです。手でちぎると、ふわふわでもっちりした生地が顔を出します。口に入れると、ふわっと、サクッと、もちっと、やっぱり歯触りがさいこう。レーズンもしっかり入っていて、なんておいしいんだ・・・!!思い出補正なしに、これまで食べた中でもかなり好みのベーグルでした。初恋の人に再開したら、思い出以上にキラキラしていて、もう一度好きになってしまった気分です。

ところで、ちょっとしたハプニングが。紙袋からシナモンレーズンベーグルを取り出し、さてエブリシングベーグル、と思いきや、なんと見たことないベーグルが顔を出しました。慌ててレシートを見返すと、そこにはホールウィートベーグル(全粒粉のベーグル)の文字が。あの店員さん、確認してくれたのに、間違ってるし、かすってもないし・・・

返品に行ける距離でもないし、今までホールウィートベーグルを食べたことがなかったこともあり、食べてみることにしました。これが、とんでもなく美味しかったのです。

自分で選ぶと、自分が見える範囲の冒険に収まりがち。そんな中、ぽーんと降ってきたボールをきっかけに、新しい自分の好みを知ることもあるんですね。あまりの美味しさに、間違われたことを忘れて、心の中であの店員さんに感謝しました。笑。

幸せなことに、新規開拓したいお店もリピートしたいお店も、まだまだたくさんあります。これからも、ベーグルをめぐる冒険は続きます。

☆たくさんの選択肢があっても、つい「いつもの」から選びがち。他者の視点を入れると、思わぬ発見があるのかも。
☆思い出はいつもキレイだけど、今なお輝き続けるベーグル!

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