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わたしの本棚149夜~「夜に星を放つ」

 芥川賞は文藝春秋で、直木賞はオール読物で、選評を参考にしながら読むのですが、今年は、近所のママ友さんが、「夜に星を放つ」を直木賞発表時に購入して読み終わり、早々に貸してくれました。読書家の彼女からは、「いい話だけど、短編集で、直木賞としては物足りないかな」というメッセージつきでした。

☆「夜に星を放つ」 窪美澄著  文藝春秋 1400円+税

 連作ではなく、独立した5編の短編集です。コロナ禍を描いた「真夜中のアボガド」が最初に、以下、十六歳の真のひと夏の経験を描いた「銀色のアンタレス」、いじめられ子が交通事故で亡くなった母親の幽霊と同居する「真珠屋スピカ」、離婚した主人公がシングルマザーと出会い触れ合う「湿りの海」と続き、最後にはまたコロナ禍の「星の随に」でした。

 「湿りの海」の他は星座が出てくるし、死の世界を意識させました。どの作品も身近な人の喪失を描いてハッピーエンドではないのですが、後味は悪くなく、人生の哀歓を感じさせてくれました。わたしが最も好きなのは、「星の随に」で、小学校4年生の主人公想が新しい母親渚さんと弟海くんにとけこもうとしながら、元の母親への思慕も募らせる心情描写は、思わず涙ぐみました。「だけどね、どんなにつらくても生きていればいいこともあるから」という同じマンションの老婆左喜子さんのベタなセリフも刺さりました。

 小学校4年生の男の子(星の随に)、女子中学生(真珠屋スピカ)、
33歳の独身女性(真夜中のアボガド)、16歳の男の子(銀色アンタレス)、37歳のバツイチ男性(湿りの海)といろんな世代の主人公たちの家族や愛しい人の喪失と再生の物語であり、面白く読みました。

 5人の主人公それぞれに事情を抱え、共感ばかりではないけれど、夜空の星々をみるたびに物語が思い出されそうな短編集でした。(次号のオール読物で、選考委員の先生方、この作品をどんなふうに評されているのかな、とそれもまた楽しみな作品でした。)

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