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「旅立つ息子へ」~涙さそう父から息子への愛情~

☆旅立つ息子へ(ニル・ベルクマン監督、イタリア・イスラエル合作映画)

 深田監督が、「日本のミニシアターほど、全世界の映画が観られる国も少ない」と以前、出町座での舞台挨拶のおりに、おっしゃっていました。ミニシアターに感謝です。以前観たイラン映画のなかには、政治情勢やイスラム教を知っていると理解が深まるものもありましたが、この映画は、全世界普遍の、父と子の愛情物語でした。


 息子のために人生を捧げる父親と息子の自立を描いた作品。自閉症の息子ウリを演じたノアム・インベルは、本当かと思うほどの演技で圧倒されました。二人の逃避行は、笑いあり涙ありで、親子の情愛に心揺さぶられましたし、ラストは案外、あっけない方法で収束し、そうだよね、と妙に納得してしまいました。

1.あらすじ

 愛する息子ウリのために人生を捧げてきた父アハロンは、田舎町で2人だけの世界を楽しんできました。しかし、別居中の妻タマラは自閉症スペクトラムを抱える息子の将来を心配し、全寮制の支援施設への入所を決めます。定収入のないアハロンは養育不適合と判断され、裁判所の決定に従うしかないのです。入所の日、ウリは大好きな父との別れにパニックを起こしてしまいます。アハロンは決意します。「息子は自分が守る―」こうして2人の無謀な逃避行が始まります~<公式HPより>

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2.チャップリンのスキなウリ

 イスラエルが舞台ですが、政治情勢、宗教は出てこず、海の青さ、森林の緑が綺麗な街として描かれています。ゆっくりとしたテンポで、二人のほほえましい温かい会話(時折、妻の攻撃的な話し方がありますが)で、語られていきます。

  自閉症スペクトラムのウリと父親アハロンは、どこに出かけるのも、何をするのも一緒です。ウリは何かを決めなきゃいけない時や、確認したい時には、いつもアハロンに聞きます。「ボク、星型パスタ好き?」「好きだよ」とアハロンが答えてくれるのです。

 別居中の妻は、ウリの将来を心配して、アハロンが老いる前に施設への入所を強く勧めます。妻の言い分は正しく、裁判所からの指示もあり、アハロンは施設にウリを連れてゆく決意をするのですが、途中、ウリがパニック状態になり・・・2人の逃避行の旅が始まります。

 ホテル代金がなくなったアハロンは、友人や弟を頼っていきます。
そこで、アハロンの過去が明かされていきます。アハロンという人物の造詣がわかり、間違ったことが嫌いな頑固だけど憎めない、世渡りの下手な不器用な性格がわかります。ウリが大好きなチャップリンの『キッド』が、いろんな場面で登場し、エピソードを豊かにします。

 逃避行中、アハロンはウリの意外な面をみたり、世間の冷たさを知ります。思春期のウリは、水着の女性に興味を持ったり、弟の妻の裸を盗みしたり。列車内で嫌な顔されたり、アイスクリーム屋さんから罵倒されたり。

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3.ラスト数分

 この作品、ラストのアハロンの表情が凄くいいです。少ない台詞ながら、心に残る表情で、物語に広がりをもたせてくれます。アハロン役のシャイ・アヴィヴィさん、上手いです。そして、一方的に守る、庇護するとばかり思っていたウリとの関係が、実は、守られていたのは、庇護されていたのは、アハロンの方だったのでは・・・。子育てが終えたわたしも、最近、子どもから学んでいたなあ、守られていたなあ、と思うことよくあります。だから、この感覚わかります。子育てや年老いた家族や障害のある家族を守らなければ、と勇んでいながら、彼らが消えてしまってから、寂寥にさいなまれてしまうこと。最近の学びでもありました。

 人間関係、特に父と障害のある息子という関係のふたりを、息子の自立を通して、微妙な塩梅で清々しく、時にユーモアを交えて描いた、温かな涙をさそう佳作でした。

*画像は、映画comさん、公式ホームページから借りました。

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