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月イチ三題噺

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ほぼ毎月、月に1度、短めの三題噺を更新しています。
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幻想にゆらめく

幻想にゆらめく

露に濡れた砂利を踏みしめる。ざり、ざり。鈍い雑音が、それでも前進していると知らしめていた。夏の初め、雨上がり、青々と背の高い夏草が微かに凪いでいた。生の匂いに噎せ返りそうだ。頼りない足下に、サンダルで来たのは失敗だったと思った。わ、と時折小さく驚く声がする。お気に入りらしい白いスニーカーは既に汚れてしまっている。スニーカーでこうならまあ、どっちでも変わんないか。精々数十分、灘らかな路を往く。小さな

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例えばいま、淡い色に溺死するような

例えばいま、淡い色に溺死するような

「お茶にでもしようか?」
昨日と同じように戸棚を開ければ、やっぱり昨日と同じように目が合った。昨日と違って返事はなかった。笑顔みたいな、何か言いたげな、少し泣きそうな、曖昧な顔をしていた。まるで耽美だ、と遠くの方で思った。窓際、閉じられたなにかの本、白磁みたいにすらりとした指は、きっと美しい。「お砂糖は3つね」。しってるよ、とは言わなかった。ぼくより少しだけ甘党なのも、やっぱりいつもと変わりは無い

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つなぐはいのちの

つなぐはいのちの

生成のシーツが昼過ぎの陽光に浸されて、淡い波を作っている。

「起きろ、いつまで寝てんだ」
少し低めの声が耳に心地いい。ぼす、と飛んできた生成のクッションを寸前で受け止めて、ベッドサイドの時計に目を遣ると、午後2時を少し過ぎた頃を指していた。
「しまった、寝すぎた」
「だから言ったろ、あれで終わりにして寝ようって。お前がもう1本見るって譲んないから」
あー、映画ね。テーブルの上にはだらしなく、ポテ

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青が破裂する

青が破裂する

  破裂しそうな青に、ディーゼルの音と融けてしまいそうだと思った。

  厭になってしまうくらいに、よく晴れた日だった。全く校則通りに、横の折り目を識らないスカートの裾が、塩味の少ない海風に微かに翻っていた。こつ、こつ、こつ。3年履いた安物のローファーの踵が、些かひ弱に、けれど確かに乾いたアスファルトを踏む音が、人気の少ない田舎道に響いた。その跡は当然残るはずもなく、歩いた轍はその傍から蒸発してい

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