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「いつ化け物に変身してしまうかわからぬ『恐怖』」や、「化け物に変身しないように24時間365日気を使わねばならぬ『不自由さ』」に苦しむ

ブルース「待って!やっぱりダメだ!」
ベティ「こういう興奮もダメなのね……」

映画「インクレディブル・ハルク」


◆概要

ヒーローものでは、【特別なパワーや能力を得る代償として、強烈な副作用・反動を負う】という展開を見かけることがある。

【「いつ化け物に変身してしまうかわからぬ『恐怖』」や、「化け物に変身しないように24時間365日気を使わねばならぬ『不自由さ』」に苦しむ】はその一例。


◆事例研究

◇事例:映画「インクレディブル・ハルク」

▶1

本作の主人公は、ブルース(男性、40歳頃)。

彼は天才的な研究者だった。

ところがある日、とある実験を行うにあたって自ら被検者に立候補。自身に「超人血清」を投与し、さらに「ガンマ線」を浴びせた。すると……嗚呼、実験は大失敗!「心拍数が1分間に200回を超えると『ハルク』に変身する」という体質になってしまった。


なお「ハルク」とは、

・特徴1:筋骨隆々の大男。猛烈に強く、銃撃にすら傷つくことがない。つまり、ほぼ無敵である。

・特徴2:変身中、ブルースの人格や理性はほとんど失われる

・特徴3:というわけで一度ハルクに変身すると大暴れ、敵味方の区別なくすべてをぶちのめしてしまうのだった(ただし、特別大切に想っている人のことだけは認識できるらしい。また、その人を守るためならいつも以上のパワーを発揮できるようだ)。


つまりブルースは、「超人ハルクに変身できる」という能力と引き換えに、

・代償1:「いつ変身して人びとを傷つけてしまうかわからない」という恐怖

・代償2:「意図せずして変身してしまわぬように、24時間365日、心拍数が200回を超えないように気を使い続けなければならない」という不自由さ

……を負ったわけだ。


▶2

作中、ブルースは心拍数が200回を超えないように常に気を張り続け、不自由な生活を送っている

例えば、

・【例1】腕時計型の心拍計を常時身に着けている:心拍数が上昇してくると、ピピピピピとアラームが鳴る。ブルースは、常に心拍数を意識して生活しているのだ。

・【例2】武術の達人からヨガの呼吸法や瞑想法を習う:①常に平常心でいるために、そして②万が一心拍数が上がってしまった場合にもスムースに落ち着きを取り戻すために、彼は武術の達人に師事している。なお作中には、ヨガの呼吸・瞑想を使って心拍数を下げるシーンが複数回登場する。

・【例3】しょっちゅう休憩が必要:物語前半、敵に追われて逃げるシーンがあるのだが、ブルースは「走って逃げる → すぐに物陰に潜んで息を整える→しばらくしたら、また走り出す → またまた物陰に潜んで息を整える」を繰り返す。そう、心拍数が上昇しすぎないようにたびたび休憩が必要なのだ。

・【例4】言いたいことも言えない、したいこともできない:ブルースは強い正義感の持ち主だ。悪漢に絡まれて困っている人を見かけたりしようものならぜひ助けてやりたいところだが……嗚呼、そうもいかぬ!だって心拍数を低く保つにはとにかくトラブルを避け、ひっそりと暮らすのが正解なのだから。彼は心を痛め、苦しそうな表情を浮かべ、そして見て見ぬふりをする(が、結局放っておくことができずに助けてしまい、その結果ハルクに変身することになるのだが)。

・【例5】移動手段も制限される:ニューヨークを訪問した時のこと。地下鉄で移動するのが便利だが……いや、ダメだ!ニューヨークの地下鉄は治安が悪い。何があるかわからぬ。また、密室ゆえに万が一トラブルに巻き込まれた時に逃げ場がない。非常に危険だ。というわけでブルースは地下鉄を諦め、タクシーで移動する(ところがそのタクシーの運転手がとんでもない奴だった!ひどく乱暴な運転をするのだ。そのせいでブルースの心拍数はぐんぐん上昇し……)。

・【例6】性交もできない:ブルースには恋人がいる。ベティだ。2人はゆえあって長年離れ離れになっていたが物語中盤に再会、愛が燃え上がった。かくしてロマンチックな雰囲気の中、2人は性交に及ぼうとする。……が、その時だった。「ピッ、ピッ、ピッ、ピピピピピ!」。心拍計のアラームである。ブルースは慌てて言った「待って!やっぱりダメだ!」。ベティは何とも言えぬ顔になり「こういう興奮もダメなのね……」。


▶3

なお、上記の例1-4はシリアスなタッチで描かれている。

多くの鑑賞者はこれらのシーン・描写を通じてブルースの生きづらさや悲哀を理解し、「こりゃ大変だ」「かわいそうに」と彼に同情したはずだ。


一方、例5-6は比較的コメディタッチで描かれている。

つまり、【超人的なパワーや能力と引き換えに、強烈な副作用・反動・生きづらさを負う】というとどうしてもシリアスなシーン・描写をイメージしがちだが、例5-6のように面白おかしく描くことも可能なのだ。

……というか、ちょくちょくコメディタッチのシーン・描写を挟んでいかないと、ヒーローの生きづらさや悲哀ばかりが目立ち、見ていて息苦しい作品になってしまうだろう。


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