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あなたは、自分の作品の「コア・ベネフィット」を理解していますか?|『ダービースタリオン』に学ぶテクニック

自分の作品の「売り」を理解しよう!!


あなたは、ご自身の作品の「売り」を理解していますか?

「売り」というのは、「読者・鑑賞者があなたの作品を手に取る理由」のことです。

マーケティングの言葉を使えば、「コア・ベネフィット」


もしも、あなたが「売り」を理解していなければ……ちょっとマズイかも。

というのも、「売り」はあなたが作品を作ったり、加筆修正したりする際の指針となるものだからです。


例えば、「普段はポンコツだが、いざとなると最高にカッコいい主人公!この主人公こそがオレの作品の『売り』だぜ!」と決めたとしましょう。

この場合、あなたがすべきことは、

▶ そもそもみんなは、どんなキャラ・セリフ・シーンを見て『カッコいい』と感じるのだろう?人気作を研究してみよう。

▶ 主人公のカッコよさを引き立てるためには、どんなサブキャラが必要だろう?どんな世界観なら主人公のカッコよさが際立つだろう?

▶ よし、ここで一度原稿を友だちに見てもらおう。主人公がカッコいいキャラだと理解してもらえるかチェックしたいからね。

……などなど。

つまり、あなたのすべての行動が「どうすれば、主人公をもっとカッコよくできるだろう?」という一点に集約されるのです。

ブレない。迷わない。無駄に悩むことがない。


対して、あなたがご自身の作品の「売り」を理解していない場合には、あなたの行動はブレブレになるでしょう。「このシーンは本当にいるのかな?」などと次々と疑問が浮かんでくる。

当然、作品もあやふやなものになるでしょう。そして最終的にあなたは呆然とする「これ、何が面白いんだ……?」。


「作品を作り始める前に『売り』を明確にすべし!そして、そこに向かって突き進むべし!」というわけです。


「競馬」の何が面白いのか?


ところで……みなさん、「ダービースタリオン」シリーズ(以下、ダビスタ)というゲームをご存知でしょうか?

90年代に大ブームを起こした競馬シミュレーションゲームです。


その「ダビスタ」の開発者・薗部博之氏が以下のようにおっしゃっています。


(初代「ダビスタ」を開発するにあたり)競馬の面白さの何をフィーチャーしたらいいかと考えて、僕は競馬を最も面白くしているのは「実況」だろうと思ったんです。だから、そこから作ったということです。というのも、僕がずっと競馬で興奮していた場所は、競馬場というよりテレビの前だったんですよ。実際、競馬というものの盛り上がりは、テレビの実況による部分が相当にあると思いませんか。


<引用元>

▶ 電ファミニコゲーマー編集部「ゲームの企画書(2) 小説にも映画にも不可能な体験」より引用。


▶ 同書は以下の記事(無料で読めます)を加筆修正し、書籍化したものです。

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「競馬の面白さ = テレビの競馬実況」と看破した薗部氏は、その後1年間(!)、競馬実況の研究に没頭したそうです。


「『ダビスタ』の売り」は何か?


上述の通り、「ダビスタ」は競馬シミュレーションゲームです。

しかし「競馬シミュレーションゲーム」と一口に言っても、様々なタイプが考えられます。

例えば、

▶ プレイヤーは騎手になり、「馬と共に大地を駆け回ること」を楽しむゲーム

▶ プレイヤーは騎手になり、「ライバル騎手との熱い戦い」を楽しむゲーム

▶ プレイヤーは馬主になり、「適切な調教師を選んだり、調教師と相談して出馬するレースを決め、大富豪を目指すこと」を楽しむゲーム

▶ プレイヤーは調教師・厩務員になり、「馬を調教すること」を楽しむゲーム

▶ プレイヤーは客になり、「実際に競馬場にいるかのような雰囲気」を楽しむゲーム

……などなど。


しかし薗部氏は、「競馬の面白さ = テレビの競馬実況」と定義した。

そして、「『テレビの競馬実況』の世界で、自分が育てた馬を走らせることができる」というゲームを開発した。

「ダビスタ」では、プレイヤーは、アナウンサーの熱い実況をバックに自身の馬を走らせることができる……これこそが「『ダビスタ』の売り」です。


「『パワプロ』の売り」は何か?


いま申し上げたことは、「ダビスタ」のみならず他のゲームにもあてはまるようです。

例えば、「実況パワフルプロ野球」(以下、パワプロ)の開発者・豊原浩司氏は、以下のようにおっしゃっています。


やっぱり、僕らも「観る野球」を再現していると思いますからね。「テレビで観る」とか「ラジオで聴く」とかの体験がベースにあるんですよ。


<引用元>

▶ 電ファミニコゲーマー編集部「ゲームの企画書(3) 「ゲームする」という行為の本質」より引用。


▶ 同書は以下の記事(無料で読めます)を加筆修正し、書籍化したものです。

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つまり「パワプロ」は、「『テレビ中継・ラジオ中継』の世界で、野球をすることができる」というゲーム。これこそが「『パワプロ』の売り」です。

「ダビスタ」同様、「現実世界(現実の競馬、現実の野球)」をトレースしようとは考えていないのです。


「自分の作品の『売り』」をもう一段階掘り下げてみる


さて、ここまでご説明してきたことを踏まえて、改めて考えてみましょう。

あなたの作品の「売り」は何ですか?


例えば、「主人公らが繰り広げる熱い戦い!これが『売り』だ!」と決めたとしましょう。

なるほど。よくわかりました。

しかしですね、その「熱い戦い」というのは、具体的には何を指しているのでしょうか?


あなたが読者・鑑賞者に味わってもらいたいのは、例えば「現実の戦い」、つまり、格闘家や兵士が感じる興奮や緊張、恐怖でしょうか?

一例を挙げれば、映画「プライベート・ライアン」。


冒頭20分間の戦闘シーン(オマハ・ビーチ上陸作戦)は極めて生々しいことで有名ですが……あれは鑑賞者に「現実の兵士が感じる恐怖や混乱」を疑似体験させることを意図しているように感じられます。

あなたが目指すのはこのタイプでしょうか?


それとも、あなたが読者・鑑賞者に伝えたいのは「テレビで格闘技を鑑賞している時の楽しさ」でしょうか?

気の合う友だちと集まって、「やっちまえ!」「そこだ、ぶん殴れ!」「もっと足を使え!足だ!」とワイワイ騒ぎながら鑑賞するのは、じつに楽しいものですよね。

あなたが目指しているのは、あの楽しさを再現することですか?


……とまぁこんな具合に、「売り」を考える時には、「熱い戦闘シーンが『売り』です」というレベルにとどまることなく、「読者・鑑賞者に何を提供したいのか?/どんな気持ちになってほしいのか?」という観点から、もう一段階掘り下げることが重要だと思うのです。

そこまでいけば、あなたの行動にブレはなくなるでしょう。もう迷わない。無駄に悩むこともない。

「ダビスタ」の薗部氏が競馬実況を徹底研究したように、あなたも後は突き進むだけです。


「もう一段階掘り下げる」、ぜひ試してみてくださいねー!!


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 最後までお読みいただきありがとうございました。みなさんの今後の創作・制作のお役に立てば幸いです。

(担当:三葉)

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