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【時事】「コロナウイルス」と世界のアジア人差別

【世界のアジア人差別】

「まるでアジア系全員が保菌者扱い」 新型肺炎で人種差別相次ぐ (AFP通信)

新型ウイルスで拡散するアジア人嫌悪、繰り返される差別の歴史 (AFP通信)

今回のコロナ騒動が、世界各所で存在しているアジア人蔑視に拍車をかけている旨の報道を散見するようになった。ヨルダンを含むアラブ地域もその一つである。道端を歩いていると「コロナ」と聞こえてきたり、友人の話によるとあからさまに鼻や口を塞ぎながら通り過ぎる人もいたという。
世界を見回すと、アジア人を蔑む傾向のある国や地域があり、ヨルダンを含むアラブ地域もその一つである。

コロナ騒動が起きる以前から、アラブ地域にはアジア人蔑視の傾向はあった。1年8か月のヨルダンでの滞在を通じて、嘲るような態度で罵られたり、投石を受けたりすることも今やそう珍しいことでもなくなった。
しかし、その差別の対象はアジア人のなかでも「中国人」と「フィリピン人」を対象にしたものが多い。
私たちが米国人と英国人、インド人とネパール人、ヨルダン人とイラク人を見分けることが難しいように、相手からすれば目の前にいるアジア人が日本人か中国人かなど皆目見当がつかない。そのため、アジア地域で人口的に大きなプレゼンスを占めている「中国人」として、私たちは嘲笑されているわけだ。

それでは、なぜこれらの国の人たちが偏見の眼に晒されるのか。

まず中国に関しては、中国人の食をはじめとした変わった習慣を蔑んでいること、そして中国当局が国内のウイグル人(ムスリム)を徹底的に弾圧しており、同じイスラームを信仰する同胞へのそうした暴力に対して敵視していることが大きな要因である。
中国当局による、新疆ウイグル自治区での暴虐は国際社会が問題視しており、イングランド・プレミアリーグ強豪のアーセナルに所属するメスト・エジル選手が当局の行いを批判したことが話題になった。その後、当局は同選手の発言は「フェイクニュース」だとして批判し、中国中央テレビ(CCTV)は予定していたアーセナル戦の放送を中止、国内で販売されているサッカーゲームからも同選手が消されることになった。

アーセナルのエジル選手、ツイッターでウイグル人弾圧への沈黙を批判 (AFP通信)

そして意外にも思われるかもしれないが、フィリピン人も蔑視の対象となっている。国内での就業機会が少ないことから、世界に多くの出稼ぎ労働者の送り出しているフィリピンだが、湾岸諸国をはじめとした中東に渡る人も多く、現地では日常的にフィリピン人の姿を目にすることができる。男性は建設労働者、女性は現地人に雇われて家政婦として働いており、基本的には家族を祖国に置いて本人だけが中東に渡ってきている。
実は、その家政婦として勤めている女性たちが、一部の悪質な雇い主らによって暴力にさらされたり、売春を強要されたりしている。イスラームでは、売春のような行いを汚らわしいものと示していることから、彼女らはそうした宗教的な理由も相まって侮蔑の対象になっているようである(本当に蔑まれるべきはどちらなのか)。

母国で暮らしている家族を養うために、異国の地で働く彼女らは非常に弱い立ち位置にある。逆らえば暴力にさらされ、すぐさま職を追われることにもつながりかねない。2016年には、クウェートでフィリピン人の家政婦が雇用主夫婦から日常的に暴力を受け、果てには惨殺されるという事件も起きている。そうしたことから、彼女たちはしばしば「現代の奴隷」とまで呼ばれている。言うまでもないが、中東に渡るすべてのフィリピン人がこうした扱いを受けていて、すべての雇用主が悪質というわけではない。

【語学学校でのひとこま】

世界では長らく、差別撤廃の声や運動が繰り広げられたが、なぜ未だにこのような差別や偏見が飛び交っているのか。

先日、私が通っている語学学校で「コロナウィルス」の話題になった。英語のセッションで、米国人の講師と日本人の私を除いて、他の受講生(15名ほど)は全員ヨルダン人である。以下、討論の一部を抜粋した。

「これは実際にヨルダンで起きた話です。最近、ここヨルダンではアジア人が『コロナ』と侮辱され始めています。それと似たようなことが世界で起きているというニュースも最近読みましたが、私たちは断固主張します。『決してアジア人はウィルスではありません』」

(教室内騒然)

受講生A「それって本当にヨルダン人だったの?」
受講生B「でも、それって冗談だったんじゃないですか。私はその人がただ冗談のつもりで言ったんだと思います」
講師「それでは、一つ例を挙げましょう。例えば、皆さんが米国に一人で渡ったとして、こう言われたとします。『おまえはテロリストだ!』どういった気分になりますか?冗談だとしてもそうした発言は安易にするべきではないと私は思いますが」

(教室内沈黙)

「そのとおり、私たちはたとえそれが冗談だったとしても、決して受け入れることはありません」

上の例から導き出される差別意識の原因の一つとして「共感能力の乏しさ」が挙げられる。これは「モラル」「知性」といった言葉にも置き換えられるかもしれない。
他の原因として貧富の差を挙げる人もいるだろう。それも否定はしないが、現に、日本のような国でも、特定の個人や所属集団を徹底的に攻撃するヘイト集団がいる。こうした人種差別が途上国でも発展した国でも起きていることを鑑みれば、そこに貧富の違いは大きく影響を及ぼさないのではないかと私は考えている。

私が勤務している職場の同僚たちに同様のアジア人蔑視の話題をふっても「そんな差別はヨルダンにない」「気にすることではない」とあしらわれてしまう。それに加えて、上で述べた先日のディスカッションでの一コマを考慮すると、本人たちはそれを差別だとも思っていないし、ただの冗談まがいでやっている部分もあると思う。
しかし、彼らは「テロリスト」の例を出された途端にぐうの音も出なくなってしまった。

【終わらない差別】

残念ながら、今回のコロナ騒動が落ち着いたとしても、世界にはびこるアジア人差別がやむことはないだろう。彼らはそれを差別だとも思っておらず、大半の人間は冗談程度、からかい程度にしか捉えていない。世界中、無数に存在する人そのような人たちを、すべて反差別主義者に仕立て上げることも現実的ではない。

最後に所感として。
私は、人間が存在する限りこの世界から差別や争いがなくなることはないと思っている。
人間は誰しも比べたがるし、人よりも勝っていたいと思う。自分よりも劣っている人を見ると安心するし、自分よりも上にいる人がいればその位置から引きずり降ろしてやろうと目論む。人類の歴史はこうした出来事の連続で、現世でも国、組織、個人間と、規模の大きさとは無関係に存在する。

地球上から人類が消滅するそのとき、世界のあらゆる問題は完全に解決されるのかもしれない。

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