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『星の王子さま』


目が悪くなった。

子どもの頃、当たり前に見えていたものが見えなくなった。

でも、見えないからこそ見えるものがあったり。

コンタクトレンズを外した裸ん坊の目で
夜景のネオンや光をぼうっと眺めるのが好きだ。

ゆらゆら揺れて掠れて伸びて、
夜景の一部になった気分。

きれいなものの一部になれるのは心地いい。

駅からの帰り道、わざとコンタクトを外したりする。


あの何もしっかり見えない感じ。

もどかしいはずのそれがなぜあんなにも心地よいのだろう。

この世は見えすぎると良くないことで溢れているのかもしれない。

あれもこれも全部
見えて、触れられて、聴こえて、感じる。

それがあたかもえらいことのような

当たり前に素晴らしいことのような

そんなふうに刷り込まれて思い込んで

くだらない固定概念を知らず知らずのうちに作り上げてきてしまったのかもしれない。


なんでも見えているような気になって
大事なことは何も見えていなかったり

なんでも触れられているような気になって
本当に大切なものは指の隙間からこぼれ落ちていたり

勝手に寄り添った気になって
心をすり減らしていただけかもしれない。

視覚も、聴覚も、嗅覚も、触覚も、
なんでも。


なんでも得たような、理解したような

そんな気になってしまうから恐ろしい。

全部見たい聴きたい触れたい感じたい。

だから、本当に大切なものを取りこぼすのだ。

『心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目に見えないんだよ。』

あの頃理解できなかった、星の王子さまの一節。


大切なものを失って、この言葉の本質に
ようやく気づくことができた。


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