受け継がれてきた品種を守る「種の図書館」(上)
種の図書館がドイツ各地で出来ていると知ったのは昨年のことー。
ただいずこもミュンヘンからはかなり遠い。いいな、いいな、ウチの近くにも出来ないかなと羨んでいたら、インターネットで見つけた「ミュンヘンのギージングに種の図書館オープン」のお知らせ。はやる気持ちに押されるようにその翌日にはミュンヘン中心部にあるギージング図書館に出向いていました。
◎種の図書館ってなに?
え?なになに?種の図書館ってなにかって?
まずはその説明からいきましょう。種の図書館は昔から作られてきた野菜の品種を保護する動きを後押ししようというものです。昔ながらの品種はその土地の人たちが風土に合ったものを選抜する形で育ててきました。収穫したものからさらに種を採取し、それを翌年にまた蒔く。親と同じ形質が子供に受け継がれるので固定種と呼ばれます。
ただその多くは数少ない農家で細々と作られていたりするだけなので消滅の危機にさらされています。そこで固定種を広くいろんな人の手で種と味の多様性を守っていこうではないかというのが種の図書館。種を貸し出しし、借りた人はその種から野菜を育てて、収穫した野菜から採取した種を再び種の図書館に返すという仕組みです。
種がクルクルと循環する場は図書館。なので、種の図書館という看板に偽りなしです。音頭をとっているのは野菜や果物など有用植物の多様性を守ることを目的とした非営利団体VEN。この団体が各地にいる協力者と連携して種を提供しています。
◎トマトと豆の種を借りる
さてギージングの図書館に入ってみましょう。
種の図書館は上の階ですよという表示。階段を上がると貸し出しカウンターの横に種の袋と案内パンフレット置かれています。カウンターに座っていた女性の手があいたのを見計らって、もらっていいかと聞くと「トマトと豆しか残っていないけどどうぞ。朝はサラダとかいろいろな種があったんだけどねえ」とのこと。本を借りるのと違って登録する必要はなし。
トマトと豆の種の入った袋を手に取りました。
何種類かあったトマトから、選んだのは”Balkonstar”(ベランダの星)と”Arkardia”(アルカディア)の2種類。「トマト研究者」を名乗る種の提供者からの品種の説明書きによると
おおっ!ベランダ族の我が家にもってこいではないですか。
どれどれアルカディアはどうかな?
おおーー。なんとそそられる文言。
それにヴィキペディアによれば、アルカディアとは理想郷の代名詞でもあるとか。我が家の猫の額ほどのベランダが理想郷に変身するような妄想にまでかられるじゃ、あーりませんか。
この種を提供した人のトマト愛がひしひしと伝わってきました。
◎豆は「セコイアの君」
テンションがあがったところで豆に移動。品種名は「セコイヤ」、イタリア産で色は茶、形は丸、楕円と記されているのみ。あれ、それだけ?
トマトで盛り上がった気分が幾分、だだ下がっちゃいましたよ。
いやいや、待て待て。コンマリメソッドじゃないけどトキメキが大事よ!と気持ちを持ち直してちょっと考える。
よし!このお豆さんを「セコイヤの君」に改名だ。たかがネーミング、されど愛しの君とあれば日々の逢瀬も待ち遠しく、甲斐甲斐しくお世話をやきたくなるというものではないかしらん。
同じく図書館に種を取りに来ていた若い女性は「近くでクラインガルテン(小型菜園)を借りているので」と言って6袋くらい持って帰っていました。住宅が高騰しているミュンヘンでは庭付きの家なぞ夢のまた夢。
クラインガルテンは大人気で、アーバンガーデニングという言葉が流行っています。きっと図書館から旅立った種の多くはクラインガルテンで育つのでしょう。
◎種を蒔く
持ち帰った種入りの袋を開けると中には蒔く時期や注意書きのメモも入っていました。豆は直播きとあったのですが、鳥に食べられてはかなわんと「セコイヤの君」はあらかじめポットで室内で育てることに。ぎゅっと土に豆を押し込んで、トマトはふんわりと土をかけてやる。水をたっぷり注いでやったらあとは芽が出るのを待つばかりになりました。
そして4日後。2日ほど目を離していたすきにセコイヤの君が弾けるように芽を出ていました。なんかまるで風呂から上がったばかりのオヤジが素っ裸で仁王立ちで立っているかのような…あのうお願いしたキャラとちょっと違うんですけど。
いや豆たるものはこれぐらい元気がないといけないですよね。ハイ。
ただこの弾けキャラ全開のセコイヤの君も10粒まいて芽を出したのは6粒のみ。趣味の園芸なら上出来でしょうが、プロの農家だと低い発芽率はきっと悩ましいはず。この弱点は固定種が消える原因の一つでもあります。
種の図書館を通じて少しずつ当世種事情も見えてきて
このプロジェクトは私の今夏の学びの場のような感じになってきました。攻める年齢を過ぎた大人の自由研究。守備なら任せろ!代々受け継がれてきた人類の宝を共に守ってみせますぜ、と誓った春です。
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