Pflanzenjäger

ミュンヘン在住の庭師(マイスター)です。植物にまつわる物語と植物を追いかけています。 …

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ミュンヘン在住の庭師(マイスター)です。植物にまつわる物語と植物を追いかけています。 instagram: plants_and_life18

最近の記事

あなたの愛が重かった・・・アメリカタニワタリノキ嬢の独白

別れを決意したのは、ほかでもないの、あなたの愛が重かったから。 出会ったのはいつのことだったかしら。あまりに昔のことで確かな日付は覚えていないけれどこう始まったのよね。「ちょっと肩をかしてくれないかな」って。 下に住んでいるってご近所さんのよしみで困っているなら、私で役に立てるのだったら、みたいな軽い気持ちだったのよ。 それから肩だけの関係がどんどん進んで、私の居住空間までグイグイ入ってきたんだったわ。 いえ、嫌ではなかったの。だってセイヨウキヅタのあなたは素敵だったん

    • プラハの春〜柳の枝を編んだポムラースカ(鞭)

      イースター(復活祭)のお休みを利用して訪れたプラハ。市内各地でイースターマーケットが開かれていた。屋台にはウサギ、鳥、羊、そしてカラフルな花々をモチーフにしたお菓子や飾りがこれでもかとばかりに並んでいる。 うーーー、たまらん。 卵も手芸品もどれもこれも可愛くって財布のヒモがゆるゆるになりそうになる。いかん、自制しろと理性が訴えるけど、せっかくの旅行じゃん、やっぱりなにかを連れて帰りたいじゃないの、と物色している時に屋台の中にリボンで飾られた枝に目がとまった。 あらこれは

      • 雑草と鬼~早春編~

        3月に入ると植物が一斉に芽吹き始める。見上げれば満開の黄色いセイヨウサンシュシュや白いマグノリア。視線を下に向ければクロッカスやプリムラ。 深呼吸しながら思う。 ああ、春だなあ。 きたるシーズンに向けて宿根草をきり戻したり、雑草を駆除して畑や花壇の準備をしてやらなければならない。 「雑草」なんて書くと、植物愛好者の皆様からは「雑草なんて植物はありませんよ」とお𠮟りを受けてしまうかもしれない。 いや、ごもっとも。 でも、人間が本来育ってほしいと思っている植物の横にど

        • 朝ドラ『らんまん』のセリフが気になって深掘りしてみた

          昨年のNHK朝ドラは植物学者、牧野富太郎の生涯をモデルにした『らんまん』だった。 植物関係だけど牧野富太郎は有名だし、noteに書くこともないでしょう、と夏に帰省した時に見ていた時にかるーい気持ちで流していた。 ところがだ……。 事件は「オーギョーチ」の週に起きた。 苦難も乗り越え、台湾で植物採集にあたった主人公、槙野万太郎。「愛玉子(オーギョーチ)」という名の植物を持ち帰り、それを使った手作りのゼリーを家族に振るまう。その一方、大学の研究室では画工、野宮と助手、波多野

        あなたの愛が重かった・・・アメリカタニワタリノキ嬢の独白

          石は何個?の龍安寺石庭

          年間を通して観光客で賑わう京都も1月の半ばはちょっと人が少なめ。借景の枝垂れ桜が咲く頃ならば人でごった返す龍安寺も縁側に腰を下ろして何を気にすることもなくこころゆくまで石庭を味わうことができる。 そんな中、制服を着た中学生5人の一団がやってきた。先導役をつとめるのはタクシーの運転手さんとおぼしき男性。 「さあ、石はいくつある?」(運ちゃん) 純朴そうな生徒たちが数をかぞえては「14」「15」とそれぞれ答えを返す。 「隠れてるのもあるからまあ、15ってところだな」と運

          石は何個?の龍安寺石庭

          梅の名所、湯島天神で菅原道真公と語らう

          日本の冬は受験シーズンです。大学のセンター試験があった翌日に学問の神様、菅原道真公を祀る湯島天神を訪れました。今年は暖冬といえど風は冷たく、春の気配を感じようと梅の名所でもあるこの場所に出かけることにしました。 鳥居をくぐると、友達と連れだって、または親と一緒の制服姿の女の子など平日にも関わらずお参りする人でにぎわっていました。梅はどこに、と心はせくけれど、いや私にはそれより先に大事な使命をはたさねばならないのでした。 本堂の前に立ってまずは軽く一礼。お賽銭を入れて、ガ

          梅の名所、湯島天神で菅原道真公と語らう

          木漏れ日と当たり前の日々

          ミュンヘンでウィム•ベンダ一ス監督、役所広司主演の映画「パーフェクトディズ」を見たのは2023年が間もなく終わろうとしている時だった。 作品は渋谷のトイレ清掃を生業とする主人公、平山の日常と時折起きる出来事で構成される。それはほんの小さくささやかな世界。ただそんな中にも喜びや心の揺れがあって、映画ではそんな時々をすくいとりながらゆっくりと進行していく。 東京の風景に懐かしさをおぼえ、石川さゆりや三浦友和がドイツ語を話すのを不思議な気持ちで見ていた私。随所に監督の日本に寄せ

          木漏れ日と当たり前の日々

          欧州黒松の処世訓七箇条

          あーあ。なんてこったい。ちょっと雪が多く降ったと思ったら、その重みを支えられなくなって、挙げ句の果てに転んじまうなんて全く情けない。恥ずかしくってご先祖様に顔向けできねえ。はあ(ため息)。 ま、こうやって寝っ転がっていられるのももうわずか。残されたこの機会を利用してこれまで培った拙者の処世訓でも披露しておこうか。 え?偉そうにお前は何者だって?これは失礼。 名乗るほどのものではござらんが、姓は欧州、名は黒松(ヨーロッパクロマツ、学名 Pinus nigra)。どうぞお見知

          欧州黒松の処世訓七箇条

          ピクルスの塩水が凍結防止剤に大変身

          師走に入った途端、南ドイツは大雪に見舞われました。 私の住むミュンヘンでは観測史上初の積雪45cmで、公共交通機関はほぼストップし、町はしばしマヒ状態に陥りました。 雪そのものは珍しくもなにもありませんが、ここ数年はパーッと降ることはあっても道路に雪が残るということもあまりなかったから、まあ大変。 そのうえ雪がやんだ後は夜の気温がマイナス11度を記録し、凍った歩道で滑ってけがする人が続出したせいで救急車の音がひっきりなしに鳴り響いていました。あまりにけが人が多いので、ミ

          ピクルスの塩水が凍結防止剤に大変身

          春の雨のように、柔らかな風のように... ハーバリスト、ジュリエット・デ・バイラクリ・レヴィ

          ハーバリスト、獣医、アフガン犬のブリーダー、ハーブの知識を求める旅人、ジプシーの友人であり庇護者、作家、詩人………….ジュリエット・デ・バイラクリ・レヴィ(1911~2009)の肩書を数え上げたらきりがありません。 ハーブ療法の先駆者である彼女の存在を偶然に手に入れた本のおかげで知りました。 ミュンヘンの街角にはそこかしこに、不要になった本を提供したり、自由に持っていけるような本棚があります。その一つで彼女の「タバコなしでよりよい喫煙を」というタイトルのミニブックを見つけ

          春の雨のように、柔らかな風のように... ハーバリスト、ジュリエット・デ・バイラクリ・レヴィ

          ドイツの食を探れ、試食探検隊がいく ~サツマイモ編

          A隊員……20代の若手男子。好きなドイツの食べ物はケバブとカリーヴルストとガッツリ系。 B隊長……50代男子。人生の半分近くをドイツで過ごす。こよなくドイツビールを愛している。このごろ食が細くなってきたのを実感する日々。 A隊員:B隊長、新しい指令が届きましたよ。何でサツマイモなんでしょうね B隊長:ドイツではサツマイモが流行りの野菜としてもてはやされてるようだ。ほら、統計をみてみろ。2010年の輸入量は2466tだったが2020年はなんと48.000tとなっておる。

          ドイツの食を探れ、試食探検隊がいく ~サツマイモ編

          ドイツにおけるサツマイモの位置づけについて考察してみた

          今年1月マイスターの資格を取るために通っていた学校の授業でのこと。付加価値税がテーマだった。 (先生)植物や野菜にかかる付加価値税の税率は? (複数の生徒)7%。園芸用品とか加工食品は19%です。 その時、同じ列に座っていたKくんが「でもサツマイモは19%なんだよな」と隣の男子と語らっているのを私は聞き逃さなかった。 授業が終わって近くのスーパーでサツマイモを買ってレシートを見たら、たしかに19%。Kくんは24歳にしてお父さんから会社を引き継いで菊の生産をしているだけでな

          ドイツにおけるサツマイモの位置づけについて考察してみた

          日本とドイツの架け橋、シーボルトゆかりの地を巡る(長崎・鳴滝塾篇)

          2023年はシーボルトが来日して200年目にあたります。 遠い昔の出来事のように語られるけれど、200年前なら意外と最近じゃない、と感じるのは自分が年を取ったせい?それに日本の植物はもちろん日本という国が世界に紹介されてからはまだ時は浅いのだというのも改めて実感します。 鎖国していた日本で外国人がとどまることを許されていたのは長崎に人工的に作られた面積約1.5 haの扇形の出島のみ。オランダ商館医として日本にやってきたシーボルトはかなり腕がたつ医者であると評判だったため特

          日本とドイツの架け橋、シーボルトゆかりの地を巡る(長崎・鳴滝塾篇)

          ニシンと思うな、米と思え @小樽市鰊御殿

          8月下旬に海を見下ろす丘に立つ「小樽市鰊御殿」を訪ねた。御殿の正体は「番屋」と称される宿泊施設で、江戸から昭和初期にかけて北海道沿岸部で盛んだったニシン漁の網元とヤン衆(東北からの出稼ぎ漁師)が寝泊まりした場所だ。 この番屋はもともと小樽市から約80キロ離れた泊村の網元、田中福松氏が明治30年(1887年)に建てたもので、昭和33年(1958年)にこの地に移築された。丘を降りたところにある「にしん街道」沿いにも何軒か祝津の番屋があるが、ここが最も大きく、当時の様子を残す番屋

          ニシンと思うな、米と思え @小樽市鰊御殿

          ハーブタバコをくゆらせる

          ここで時計の針を8ヶ月ほど前に巻き戻そう。 〇 8ヶ月前(2022年12月下旬) 昨年12月の下旬、私は資格取得のための受験勉強のまっただ中にいた。年末年始は受験生のふんばりどころ、と自分に言い聞かせ。きっちり2週間、ドイツで勉強しながら年越しすることに決めた。 勉強すること自体は抵抗はなかった。が、腹立たしいのは本来ならばそれこそ勉学にいそしむべき我が家の15歳の息子がダラダラと過ごしていたこと。いつも落第すれすれの成績のくせになんで何もしようとせんのか。。。イライラ

          ハーブタバコをくゆらせる

          ジャングルトラム、出発進行!

          ここはドイツ南西部に位置するマンハイム。この町に6月の12日間、「ジャングルトラム」が運行することになりました。 運転手 「いの一番に植物のみなさまにご乗車いただきます。ちょっと狭いかもしれませんが、それぞれにぴったりの場所をご用意しましたから押し合わなくても。。。」 運転手さんの言葉が終わらないそばから「お姉さま、早く早くぅ」という声とともにティランジア3姉妹が足取り軽くタラップを駆け上がって天井の特等席におさまりました。ふわん、ふわん、風に吹かれてとっても気持ちよさそ

          ジャングルトラム、出発進行!