見出し画像

ピクルスの塩水が凍結防止剤に大変身


 師走に入った途端、南ドイツは大雪に見舞われました。

大雪の後、玄関を出たらこんな状態。。。

私の住むミュンヘンでは観測史上初の積雪45cmで、公共交通機関はほぼストップし、町はしばしマヒ状態に陥りました。
雪そのものは珍しくもなにもありませんが、ここ数年はパーッと降ることはあっても道路に雪が残るということもあまりなかったから、まあ大変。

そのうえ雪がやんだ後は夜の気温がマイナス11度を記録し、凍った歩道で滑ってけがする人が続出したせいで救急車の音がひっきりなしに鳴り響いていました。あまりにけが人が多いので、ミュンヘン市長が特例として「歩道に塩をまいてよし」というお達しを出したほどです。

除雪車が大活躍

ミュンヘンをはじめドイツの多くの自治体でまき塩が禁止されているのは、雪解け水や雨で塩が地面に染み込み、街路樹や道路脇の植栽の根っこを痛める塩害の危険性があるからです。なので「塩は必要なだけ、できるだけ少なく」をモットーに、代替として細かい砂利をまくのが常です。とはいえ塩は効果が高く、価格も安いとあってどの自治体も凍結防止対策に塩抜きというわけにはいきません。

そんな中、凍結防止にピクルスを作る際に活用した塩水を再利用するユニークなアイデアを採用している自治体があります。
❄❄❄❄❄❄☃️☃️☃️❄❄❄❄❄❄❄❄⛄⛄⛄

ディンゴルフィングは人口約2万人を抱え、ミュンヘンから北東に約106キロ、ローカル列車で一時間ちょいの町です。

駅を出るとすぐ、左側に広がるのは自動車メーカーBMW の工場。BMWの欧州最大の生産拠点です。そしてディンゴルフィングには種まき機など農業用機械のから始まって1966年にBMWに吸収されるまでスクーターや伝説的存在の自動車、ゴッゴモビルを製造したハンス・グラース社がありました。ドイツの自動車の歴史がつまった町なのです。

ハンス•グラース氏を讃える銅像


でも今回のテーマの舞台は駅の左側ではなくて右側にある工場群。

デベライ社の工場

ここに拠点を構えるのはマスタードやソース、ドレッシングといった商品で知られるデベライ社(Develey)です。創業者ヨハン・コンラート・デベライが1854年にバイエルン名物白ソーセージに欠かせない甘口のマスタードを考案したことで知られています。

会社の発展とともに他のブランドも傘下におくようになって、赤ビーツやセロリといった野菜を酢漬けにした保存食も商品のラインアップに加わりました。そしてピクルスは主力商品の一つ。つながった生産面積としてはヨーロッパ最大といわれるキュウリ畑が工場近辺にあり、そこでとれたキュウリが使われます。

キツツキ印のピクルスもデベライ社の製品

ディンゴルフィングの工場では大口の顧客用(例えばマクドナルド)のピクルスを作っていて年間1万7000トンのキュウリがピクルスとして加工されます。

マクドナルドのハンバーガーでピクルスをチェック。
1枚じゃなくってもっとのっけて欲しい。。。。。


夏に収穫されたキュウリは塩水の入った約1000個のサイロに保管されるのだそうです。(タイトル画像の巨大ドラム缶がサイロ) そしてキュウリがピクルスの加工に回された後、それまで塩水は用済みとして社内の下水処理場で処分されていました。それが塩水がどうやって凍結防止剤に化けるのかというと、

1.不純物をフィルターで濾過して純粋に水と塩の状態にする。
2.塩の割合が21%になるよう塩を追加で投入する。

のだそうです。

再利用のおかげで年間180tのまき塩を節約することができたとか。
捨てるはずのものに価値を見いだした、しなやかな発想は従業員から出されました。「これだけで環境保全ができるとは思わないが、正しい方向への第一歩だと思う」とデべライ社のHPにはあります。

工場の窓3にはってあるキュウリのキャラ。手をふってます

 世界各地で異常気象が原因の自然災害が起き、荒ぶる地球を見ると、どうなっちまってるんだ!?と時にどうしようもない不安に駆られます。心を落ち着かせることができる一番の対処療法は自分でアクションを起こすことしかないのでしょう。

ピクルスの塩水を再利用するような社会を動かす斬新なアイデアは私には残念ながらない。けれど身の回りでできることはあるはず、すぐには捨てないことが私にできる第一歩だー。そう決意してこのごろは冬の夜なべ仕事としてチクチクと靴下の穴をかがっています。

ディンゴルフィングの町を流れるイザール川


 
 

いただいたサポートは旅の資金にさせていただきます。よろしくお願いします。😊