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人材求めています。

 三月も残り一週間、もう四月の足音が聞こえてきそうである。

 社会人の人は新年度直前で人事異動や異動で環境が変わる人も多いと思う。
 
 学生も進学で新しい場所に飛び込む時期で期待と不安が入り混じっていると思う。

 そんな春のドキドキの季節に思い出すことが一つある。
 
 それは高校生の時に自衛隊の勧誘を受けたことである。

 三年生に進学して少し経った頃に自宅にいきなり勧誘のおじさんがやってきた。

 何のアポもなしに急に来たらしく、その時家にいた母が応対したが物腰は低いもののねっちりと説明を受けたらしい。

 その日帰宅して晩御飯を食べているとその話題になり戦争経験者の祖父が厳しい顔をしてやめておけと一言だけ言ったのをよく覚えている。

 その頃の私はプロレスラーに憧れていたので体を鍛えていた。

 学校のトレーニング場でベンチプレスで130キロを余裕で上げていたのでそれなりにマッチョだった。

 休日も走りこんだり公営のジムに行って重いバーベルを担いでいた。

 そんな私の存在をどこで知ったのか謎だった。

 当時の私の部活は卓球部で筋トレ命だったのでほぼ幽霊部員だった。

 運動選手としては全くの無名な私だったがしばらくして二度目の勧誘があった。

 その時も私は不在だったので母が相手をした。

 やんわりと断ったらしいが相手はなかなか諦めなかった。

 今度は息子さんにお会いしたいですと言って帰っていったそうで、うへぇ迷惑だなと思った。

 私は暴力は嫌いで縦社会の根性で物事を進めていくスタイルは何よりも苦手であった。

 もう来ないといいなと思っていたら夏休みに訪ねてこられた。

 クルーカットの背の高いおじさんでやたらピシッとしていた。

 この時は私が家にいたので仕方なく応対した。

 やぁ、やっと会えたねと言ってそのおじさんはニコリとほほ笑んだ。

 そしていきなり君、戦車に乗りたくないか?と切り出した。

 それから自衛隊に入ると資格がたくさん取れるから将来役に立つぞぉと自信たっぷりに語った。

 戦車に乗れるというのが殺し文句なのだろうが私には一つも響かなかった。

 大体一時間くらい玄関先で話を聞いたがとても暑い日で飼い犬がずっと
吠えていたのをよく覚えている。

 その時にきっぱりとお断りをしたのだが秋になっても冬になってもそのおじさんは家にやってきた。

 最後の方は母とおじさんが仲良くなってあんた自衛隊もいいんじゃないと私に言う始末だった。

 それでも一ミリもその気がなかったのでおじさんに会うたびに面倒くさいと思っていた。

 結局断り続けて私の自衛隊入りは幻になった。

 もしも入隊していたら今頃は全く違う人生を歩んでいたと思う。

 妻とも結婚していないだろうし除隊後にはトラックの運転手をしていたかもしれない。

 人生にもしもは無いが不思議な気持ちになる。

 そんなことを思いながら昨日の晩御飯は何を食べたっけと思いだしてみる。

 昨日は買い物に行かないで家にあるもので済ませた。

 冷凍庫にあった豚バラ肉を解凍。

 玉ねぎをくし切り、ごぼうをささがきにする。

 フライパンに油を敷いて熱していく。

 豚バラ肉を色が変わるまで炒める。

 そこに玉ねぎとごぼうを入れてしんなりするまで火を通す。

 そこに水を入れて醤油、白だし、塩、砂糖、日本酒を入れる。

 煮詰まると辛くなるので気持ち薄味でコトコト。

 煮汁が半分くらいになったら溶き卵を回し入れてフタをして蒸らす。

 二十秒くらいしたらふたを開けてお皿に盛りつける。

 これで豚肉の柳川風の出来上がり。

 副菜はキャベツを使う。

 キャベツを八分の一に切って油を敷いたフライパンで軽く焦げ目がつくまで両面をしっかり焼いていく。

 仕上げにバター一欠けと醤油を鍋肌から回しかけてキャベツステーキの完成。

 汁物は玉ねぎのすまし汁。

 ようし晩御飯の完成とフンと鼻息を鳴らして妻を呼ぶ。

 昨日のお酒は私はハイボール、妻はレモンサワー。

 グラスをチーンと合わせて乾杯。

 キュッキュッと飲むとウイスキーの香ばしさが嬉しい。
 
 温かくなってきたので冷たいお酒が美味しい。

 つまみはキャベツステーキ。

 一枚ずつ剥がして口に運ぶとバター醤油の甘辛い味が口に広がる。

 ううん、何だかお祭り屋台の味みたいだなぁと思ってパクパク。

 二杯目のハイボールを作って豚肉の柳川風を食べてみる。

 ごぼうの土由来の味が豚肉と良いコンビネーションでなかなかイケル。

 玉ねぎの甘い味もいいアクセントになって健闘している。

 卵が全体をまろやかにまとめているのでバランスがいい。

 これは簡単だけど良いものだなとチビチビとつまんだ。

 合い間にすまし汁を飲んでお酒が進む。

 妻もごぼうが美味しいと言ってモグモグしていた。

 二人であっという間に完食した。

 量はそれほど作らなかったのでちょうど腹八分目だった。

 いやはや、野菜の美味しい時期になってきたなと思う晩御飯だった。

 さぁて今日は何を食べようかな。

 木曜日だとあそこのスーパーが特売だな。

 たまには贅沢しちゃう?

 いやいや節約節約。

 とっぴんぱらりのぷぅ。

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