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ウソじゃない、僕は見たんだ。

 そろそろ小学校は夏休に入る頃だと思う。

 バラ色の夏休みの前に先生から配られる通知表を親に見せなければならないと言う気の重い行事もある。

 私は算数でつまづくことが多く、良くて3調子が悪いと2という体たらくだった。

 熱心な指導をする先生が担任になった時は居残りで勉強会が開かれたものである。

 その日の小テストで基準の点数に届かなかった子を集めてひたすら問題集を解かせるというなかなか地味にしんどい時間だった。

 参加するメンツは大体いつも同じで運動バカの子や授業中に彫刻刀で机に穴を彫ることに夢中で何も聞いていない子たちに混じって勉強会に強制参加していた。

 私は授業はそれはもう熱心に聞いてノートもまじめにとっていたのだが算数のセンスが無くて悲惨な状況だった。

 ほぼ毎日開かれる勉強会のおかげで放課後に遊びに行くことが出来ずにそれがストレスだった。

 一度兄に算数を習ったことがあるが説明下手で私がまごまごしているとすぐにキレるのでアテにしないことにした。

 当時はまだ塾に行っていなかったので勉強の仕方もいまいちわからなかった。

 そんなあまり芳しくない状況で勉強会に参加するのが本当に心底嫌だった。

 ある日テストでまた悲惨な点数を取ってしまい居残りが確定したのであ~あ嫌だなぁと思っていた。

 そんな時に友達が体育館にお化けが出ると言う何とも興味のあるネタを仕込んできた。

 何でもステージ脇の天井から髪の長い唇が真っ赤な妖怪が降りてくると言う話で早速現場に駆け付けた。

 時間は夕方の四時くらいでステージ脇は西日で赤く染まっており何とも言えない雰囲気だった。

 どうせ見間違えだろうとタカを括って妖怪を見たという天井を見上げてみた。
 
 すると普段は閉じてあるはずの天井の板がずれており、そこで得体のしれないものがのそりのそりと動いていた。

 うひゃぁ、出たぁと叫んで友達とその場を離れて教室に戻ってランドセルを引っ掴んで学校を飛び出した。

 それからあれは何だったのかを熱っぽく語って家に帰った。

 ただいま~と言うと玄関で母が物凄い形相で立っていた。

 あんた!勉強会サボったんだってね!先生から電話があったよと言うや否や私のほっぺたを思いっきりつねった。

 イテテ、痛いよ母ちゃんと止めてもらおうとしたが勉強会をサボったことが許せないらしくなかなか離してくれなかった。

 後でお父さんに言うからねと死の宣告をされて目の前が真っ暗になった。

 その日の夜に父から苛烈な事情聴取があったのは言うまでもない。

 こちらもまさかお化けを見たから逃げてきたとも言えずひたすらだんまりを決め込んだ。

 結局先生に謝罪の手紙を書けと父が言うのでその通りに先生にごめんなさいの手紙を書いた。

 算数の勉強会はそれからも何事もなかったかのように続いた。

 あのお化け騒ぎは何だったのだろうと思う。

 でもこれだけは言いたい。
 
 私はそのお化けと目が合ったのである。

 どうです、ちょっと怖いでしょと思いながら昨日の晩御飯のお話を少しだけ。

 昨日は妻が友達とご飯を食べに行ったので実家にお呼ばれしてきた。

 手ぶらだと何なのでアイスを買っていった。

 実家に行くと父は麻雀のテレビ中継を熱心に観ていた。

 母は忙しそうに台所でご飯の支度をしていた。

 ああ、いつものこの光景が貴重なんだよなと思ったら少し泣きそうになったので気を取り直してお風呂を借りた。

 実家のお風呂は洗い場がやたらと広く四畳半位ある。

 湯船も大きいので何だか旅館とかに来たような気分になる。

 しっかりと汗を流して髪を乾かしてお風呂から上がった。

 ちょうど兄が帰ってきており、近所に住んでいる弟もやってきていた。

 ほら乾杯するぞと父が言うので、皆さんの健康をとか適当な事を言ってビールをクビリ。

 風呂上りなので暴力的に美味い。

 昨日の献立は豪勢に焼き肉。

 しかも鶏、豚、牛の三大肉連合。

 ホットプレートに適当にお肉を並べていたら弟から兄ちゃんそんなやり方じゃダメダメとトングを取り上げられた。

 空いてるスペースで野菜を焼こうと置いたら邪魔になるとこれまた叱られてしまった。

 弟は口は悪いが裏表のない人間なので何を言われても気にならない。

 牛肉を焼くのは元ステーキ店勤務の兄に任せた。

 さすがに昔取った杵柄で抜群の焼き加減で仕上げてくれたので美味しく頂くことが出来た。

 昨日は久しぶりに両親と兄弟だけのオリジナル家族だった。

 父はこういった団らんが好きなので楽しそうだった。

 一つ昔と違う事があるとすればみんなの食べる量で母が用意してくれた大量のお肉が結構余ってしまった。

 弟が、ふぅもうそんなに食えんねと言っていたのが印象的だった。
  
 私はそれが少し寂しくて何だぃ、俺はまだまだいけるぞと言って追加でお肉を焼いてバクバク食べた。

 大食漢の兄はマイペースで誰よりもたくさん食べていた。

 育った環境が同じ兄弟でも三者三様だなぁと思った。

 お腹いっぱいでご馳走様をして洗い物をみんなで片付けた。
 
 それからコーヒーを飲みながらアイスを食べた。

 後はいつものように余った食材を分けてもらって帰宅した。

 妻はまだ帰っていなかったので着替えて先に休んだ。

 家族仲がまあまあいいので実家に行くと楽しい。
 
 父が畑で採れたプチトマトをジャムにすると言っていたのでそれをまた貰いに行きたいと思う。

 そういえば、昨日ご飯の時に学校のお化けの話をしたが父も母も覚えていなかった。

 はて、あれはマボロシだったのだろうか?

 あのぬらぬらと光るマナコは今でも私の脳裏に張り付いているのだが…。

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