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怪奇捜査官ベル〜恐怖の猟犬使い〜

※この小説には過激な暴力描写が含まれる事がございます。また、登場人物、場所、団体などは全てフィクションです。

私はベル・ワース警部。雨止まぬ町と言われている「レインタウン」で警官をしている。自分でいうのもなんだが腕は確かだと自負している。しかしどういう訳か私は奇妙な事件に関わる事が多い。話せば頭を打ったか、それともファンタジーを語っているのか、皆そう馬鹿にするが興味が有ればいつでも私の体験を話そう。想像絶する表現を使う事があるから、心臓が弱いなら聞かない方がいい。雨止まぬ町なのに今日は晴れだ。ゆっくりしていくといい、美味しいコーヒーがあるんだ。


相変わらずの雨模様。レインタウンは雨の日が多く、同時に憂鬱だ。このじめじめとした空気は、人の心に水をさす。事件だ、それもまた奇怪な。ある日の朝、酒屋の近くの道路で人が倒れていると通報があったとの連絡があった。私は遺体の確認をしにレインタウンの遺体安置所にひとりで赴く。安置所に入ると、係員には「また来たのか?」と言われたよ。たしかに、警察の中でも私がトップで来るのは間違いない。私が首を突っ込む事件は、大抵遺体が通常とは違うからだ。


安置所内で私は遺体を確認する。台に置かれた男性の遺体はかなり綺麗だ、ひとつの部分を除いて。首だ、首の3分の1ほどがない状態だ。刃物で切られた後ではない。もぎ取った、引きちぎった、いや、綺麗に削がれたという表現が正しそうだ。傷からしてたった一撃で仕留められた感じがする。実は先程「また来たのか?」という言葉には、私が事件に首を突っ込むせいで頻繁に来るという他にもう一つ理由があった。実は一昨日も、同じような遺体を見ている。若い男性の、それも同じような大きさの傷を。男性もまた首にこのような痕があった。どうやら、今回の事件も骨が折れそうだ。


私は古い事件資料を署内で漁っていた。人間というものは変わった生き物で、同じことを繰り返す生き物だ。それ故に、過去と現在でも似た事例の事件も意外と多く存在する。若い警官たちから「暇つぶしですか?」とからかわれたが、意外にも捜査に協力してくれる。そして1人の若い警官がある資料を発見した。50年前、とある猟犬が老人を咬み殺すという事件だ。ぼやけてはいるが写真もある。そうか、あの傷が人間の仕業であるという証拠はない。もしかしたらこういった別の要因での死なのかもしれない。私はその写真を観察したが、安置所で見た傷は正直なところ綺麗な致命傷という言葉が合っていた。だが、この写真では凶暴な犬に無惨に殺された、そんな感じだ。この写真のように、色んなところに傷があるのとは訳が違うのだ。考えたら人間以外の仕業なんて滅多にない事だ。交通事故も、火災も、元を辿れば人が干渉して引き起こされるものだ。仮に人以外の犯人がいたとして、これほどまでに綺麗な一撃を人間相手に出来るのだろうか。街の真ん中で、しかも大人を。そんな生き物がいたらそもそも大騒ぎだろう。だが今回の一件、もし人間の仕業じゃなかったら。長年の勘なのか、それとも自分自身の奇妙な事件に関わってしまう不安なのかはわからないが、私はあえて曲がった情報を調べてみようと思った。


捜査をはじめて2日、一向に進展しない。それもそうだ、首の致命傷がいったい何で付いたのか判明しないことには犯人を洗い出せない。他の部署の連中はお手上げ状態でドーナツを食べてくつろいでやがる。そんな怠惰が飽和している中、私は署内でコーヒーを飲み私は過去の事件資料をもう一度見返していた。例の犬のような事件もそうだが、他の動物による死因もかなりある事がわかる。動物園の虎が暴れて飼育員が頭から食われたとか、水族館でサメが飼育員を腹から食いちぎるとか。挙句の果てには猫カフェの猫が爪で客の目を裂き失明させるなど、予想以上に侮れない程の数がある。だが、資料にある被害者の写真には荒々しい傷が多い。今回のような綺麗な傷ではない。サメにトラに猫にサイ、ワニ、鷲もあるのか。しかも皆不慮の事故という処理に落ち着いている。その時だ、違和感を感じたのは。私は前に若い警官が見つけた犬の事件の資料を見返す。50年前、猟犬が老人を噛み殺した事件。犯人はダルマン・ダーズという男、当時の年齢は35歳。自分の飼っていた猟犬にわざと歩行者を襲わせ死に至らしめたため、判決は無期懲役となっている。この部分だ、違和感を感じたのは。「ダーズ」の部分、なぜだ、まるで何回も見ているようだ。そうだ、トラの部分だ。動物園の飼育員の名前にジョウジ・ダーズという男の名があった。水族館の方にも、猫カフェの方にも!偶然か?動物の事件に関する資料は多くあったが、10個以上の事件の周りにこの男の名がある。偶然なのか?いや、まさか、そんな。ダルマン、ジョウジの職業は、動物の訓練士だった。私が急いでこの2人を調べると、家族である事が判明した。ジョウジは、ダルマンの息子であり訓練士。私は、一つの確信に至ってしまったのかもしれない。


後日、私はある日とある公園に赴いた。この辺りでよく犬を何頭か引き連れて散歩している大柄の男がいるとの情報を得たからだ。ジョウジを見たことはないが、ダルマンの過去の写真からして彼も大柄である可能性が高い。親子は似るというもの。そして、人通りのない公園の端の方で1人を数匹撫で回している男がいた。私はそっと声をかける。


ジョウジ・ダーズさんですか?


するとその大柄の男は振り向き、ほんの少しだけ笑顔で「そうです。」と答えた。優しそうに見えて、どこか強そう。そういった感じだ。何よりダルマンそっくりだ。うっかりダルマンと呼びそうになるほどに。ここからだ、私はこの男から確信を得ねばならない。今は怪しいというだけでこの男が犯人だという確信はない。私の推理では、彼が犯人で凶器は飼っている犬そのもの。彼は犬を訓練して人を殺せるほどまでに成長させている。馬鹿げているかもしれないが、私は彼にあってとてつもない違和感に襲われた、彼が犯人ではないかと思ってしまうほどに。先程まで洒落あっていた犬たちが見ているもの、それは私の顔なのだ。普通なら、もっと構って欲しいと飼い主を見るはず。なのに、何故4頭いる犬全てが私の方をずっと凝視するのだろうか。しかもこの犬たち、目に異様なまでに力がある。しかし、あくまでもまだ想像に過ぎない。側から見ればこんな捜査、ファンタジーに等しいからな。だからこそ、違和感なきファンタジーで終わらせておきたいのだ。私は警官という事は伏せて、新聞記者という事にして偽の取材を始めた。道行く先で出会った犬好きの人たちへのインタビュー、内容は正直どうでもいい。しかし、ジョウジはそれに笑顔で対応してくれた。これで何がわかるのかって?私はジョウジだけから確信を得るつもりはない。私は、この犬たちからも確信を得たいのだ、この凶器らしきものたちから。人通りそれっぽい質問を終えて、私は謝辞を述べる。


ダルマンさん、ありがとうございました。では、私はこれにて失礼致します。


周りに人は我々しかいない。もう夕方だ。曇り空からわずかに夕焼けが見える。その夕焼けが見えたと同時に、私の後ろからタタタタと軽い何か音が近づいてくる。それが消えたと思った瞬間、私は体をのけぞらせてそれを避ける。やはりな、攻撃してきたか。私が襲ってきた何かに振り向くと、そこにはジョウジが先程まで可愛がっていた犬が、普通とは思えない表情と牙を私に向けていた。犬はジョウジの元に戻り、他の犬やジョウジも私に怒りの表情を向けていた。


貴様、やはり記者ではなかったな。


私の作戦はうまくいった。さて、ここで問題だ。何故ジョウジは私を記者でないと見抜いたのか。それは、私が1番最初に言ったことが原因だ。私は彼の名前を呼んだ。道行く人たちへのインタビューをするはずの人間が、真っ先に彼の名前を呼んだのだ。そして最後にわざと、私はダルマンと彼を呼んだ。その名前を知る人なんて、警察以外にいないだろうから。彼がそう確信したから私を攻撃してきたんだ、慣れたように、犬に命令を出して。私を始末して捜査させないつもりだったのだろう。だが、基本首筋に飛んでくるとわかってる攻撃ならしゃがめばどうという事はない。私はジョウジに拳銃を向ける。だが、ジョウジは4頭のうちの1頭に私を襲わせる。私は木の枝を投げつけ、近くの林に逃げ込む。自然の多い公園だから多くの木が生い茂り噛みつけを避けるのに丁度いい。だが、そんな考えもすぐに打ち砕かられる。私が別の木々に回り込もうとした瞬間、横からジョウジの犬が1頭噛み付いてくる。私はしゃがんで回避するが、噛みつかれた後ろの木が事件の被害者と同じようにくり抜かれていた。この犬たち、もはや殺戮兵器ではないか。もし回避できなかったら、噛みつかれた部位とお別れをしなければならないのはこれでわかった。私は拳銃を握りしめ、今目の前にくる猟犬に向けて銃を向ける。本来であれば撃ちたくはなかったが、相手がこちらの首を狙うのなら話は別。私はゆっくりと引き金を引き、運良く猟犬の眉間に銃弾を撃ち込んだ、はずだったが、少し怯んだだけでまたこちらに襲いかかってくる。どうしてだ、確実に撃ち込んだはずなのに。私は転がりながらも犬からの攻撃を避ける。私は撃ち抜いた犬の眉間をよくみると、きららと光る何かがあった。鉄板だ、この犬、鉄板が体の中に。まさか、銃やナイフへの対策もされているというのか?ジョウジ、とんでもない化け物を生み出していたな。犬はもう一度襲いかかってくるが、私は次に大きく口を開いたその中を撃ち抜いた。すると犬はギャンと吠えた後横たわった。血を流してるところからして、どうやら口内までは改造されてはいないらしい。これで後3頭を仕留めなければならない。銃弾は残り4発、だがそう簡単に口内を狙えるだろうか。それに、敵は犬だけではない、ジョウジも恐らくこちらへやってくる。彼の体格も私以上、武器を持っている可能性もある。私は木の上に登り作戦を練る。どうやら、敵は私を見つけられていないようだ。役に立ちそうなものは、リボルバー銃、手錠、スマホ、警棒、そしてコート。応援を呼びたいが、それすらも許さない状況だ。せめて犬の数を減らさなければ。すると、ジョウジの犬たちと目があってしまった。こちらを睨んでいるが、彼らもこちらまで登っては来れないようだ。木に噛み付いて折ってくることも可能なのだろうが、それをしないところをみると相当訓練されていることがわかる。木に近づけば地の利があるのは私の方、狙い撃ちされるのを理解しているから奴らは来ないのだ。ん、なんだ?やつら、帰って行くぞ。いや、まさか。犬たちは思い切り走り一斉に飛びかかってくる。ものすごい跳躍力だ、本当にこちらまで来るとは。私はコートを投げつけ目眩しをし、木から飛び降りる。足に思い切り振動が伝わり痛みを伴ったが、もはやそれどころではない。私はコートの中でもがく犬の1頭に思いきり警棒を振り骨を砕く。いくら鉄板で覆われていても、金属製の警棒は骨や肉に損傷を負わせるのは容易だ。警棒の衝撃は鉄板を通り越して、犬を瀕死にまで追いやった。この感触、命を守るためとはいえ好きになれるはずがない。あと2頭、すでにコートから脱出してこちらを茂みから狙っているのか。私は別の木の裏に隠れて銃と警棒を握りしめる。すると後ろの方から犬の足跡と人の足跡が聞こえてくる。恐らくジョウジだ。予想通り、悪魔の声が聞こえてくる。


あなたは優秀な警官だ。しかし、私にはそれを超える才能がある。父も、あなたも、私の前では無力。


随分と強気な発言だが、認めざるを得ない。どうやら親子揃って兵器を育てるブリーダーだったとは。さて、ここで問題だ。私が今とるべき最善の行動はどれだ。

①今と同じように犬を優先的に倒し、その後ジョウジを確保する。

②犬に指示を出すジョウジを先に何らかの方法で行動不能にする。

③ひたすら逃げて応援を呼ぶ。


私はかなり迷っている。正直③は厳しい。スマホは手元にあるが、応援を呼んでも時間がかかる。出来れば②を選びたいところだが、確定でない部分があるから下手に出来ない。仮に②を選んでジョウジを気絶させて犬が私への攻撃を止めなかったら。そう考えると踏み出せない。だが、①も正直厳しい部分がある。ジョウジはまだ、犬を使ってしか攻撃していない。万が一奴も拳銃を持っていたら、私はこれ以上銃を使えない。もし弾切れを悟られたら、犬を殺せてもジョウジに殺される。ダメだ、他に方法はないのか。せめて、弾が1発でも残ってくれる防衛手段を考えねば。コートはすでに使ってしまった、もう目眩しは出来ない。リボルバー銃、手錠、スマホ、そして警棒。待てよ、まだこの手が残ってるじゃないか!私は木を離れてひたすら走り出す。当然ながらジョウジ達もこちらに向かってくる。私は急いで茂みの中に隠れる。すると、私のスマホからアラームが鳴り出す。ジョウジの犬たちがそのアラーム目掛けて飛び込んでいく。私のいない、隣の茂みに。ジョウジも犬達の方へ駆け寄り辺りを見廻している。私は、そんな彼らに向けて銃口を向けゆっくりと引き金を引く。銃弾は犬の膝に当たり、犬は吠えながら倒れる。やはり関節に金属を埋め込むのは無理だったようだな。さて、私が何をしたか教えると、ただ隣の茂みにスマホを投げただけだ。数秒後にアラームが鳴るようにセットして。要するに彼らが勝手に音のなる方へ走っていったという訳だ。だが、効果はあった。これで奴らの戦力は半分以下になった。するとジョウジは涙を流してこちらに振り向いてくる。


そこだな、ポリ公、、、!貴様は確実に殺す!


口調が荒々しくなったのもそうだが、どうやら銃声のせいで居場所がバレてしまったらしい。私は急いで茂みを離れようとしたが、振り向いた瞬間、ジョウジの犬は私の目の前で立ち止まっていた。今まで相手した犬の中で1番大きい。どうやら取り囲まれてしまったようだ。どうする、犬に銃を向けるか、それともジョウジに向けるか。いずれにせよどちらかに立ち向かわなくてはいけないこの状況。ジョウジの方を振り向くと、ジョウジは片手で持てるほどの散弾銃を持っており、こちらにゆっくりと近づいてくる。


ゲームオーバーだポリスメン。どちらに攻撃しても、どちらかが貴様を殺す!撃たれるか、噛まれるか、選べ!


選べ、か。普通の人間ならここで死を待つばかりなんだろうな。だが、このベル・ワースはどうせ死ぬくらいならありとあらゆる可能性を試してから死ぬと、巡査の頃から決めている。


ジョウジ、私は噛まれる方を選んだよ。だが、噛まれるのは私ではないがな!


ジョウジ、お前は重大なミスを犯した!私は近づいてくるジョウジの方へ全力でダッシュする。ジョウジは犬に私を殺すように命令して、自身も散弾銃をこちらに向けてくる。そんな彼に、私は軽く警棒を投げてやった。まるで友人に買ってやったジュースを投げて渡す学生のように。人というものは、キャッチ出来るものはついついキャッチしようとしてしまうものだ。それも、ゆっくりと目の前に投げ込まれたのであれば尚更だ。そして目は、必然的に投げ込まれたそれを意識し対処しようとしてしまう。本能が故に。ジョウジは警棒をキャッチし何をされたかわからない表情をしていたが、私は大柄な彼の股下に滑り込みその場を脱出した。そして、ジョウジの犬は本来なら私の首を噛み切るために飛び込んでくる予定だったが、私が直前で滑り込んでいなくなった今、その対象はジョウジに切り替わる。ジョウジの犬は不覚にもジョウジの胸に噛み付いてしまい、慌てたジョウジは散弾銃で犬を殺してしまう。無理もない、犬の牙が危険なのは育てた本人が1番知っているからな。痛がるジョウジを押さえ込み、私は手錠を彼につけ逮捕する。その後、騒ぎを聞きつけた警官によって事態は収束した。


事件の真相はこうだ。ジョウジ・ダーズは父ダルマン・ダーズと同じように、自身が調教した生き物を使い殺人を行なっていた。取調べによると、本人は自分の才能を人知れず発揮し快楽を得ていたかったと供述。彼の家には訓練された犬が何頭もいて、捕獲するのにかなり時間を要したという。当然、噛まれてもいいように特殊部隊御用達の装備を付けて、しかも麻酔銃を使ってでの捕獲だったがな。今回の件で、ジョウジの余罪を操作しなければならなくなったと署の連中は頭を抱えていたな。だが、私は手伝う事はない。もう十分仕事はしたからな。とにかく、快楽殺人の連鎖は断ち切った。彼らがいなければ、もう動物達も人に牙を向くことはないだろう。だが、気がかりな事がある。公園にいたジョウジの犬だが、どういう訳か3頭の死体だけだったそうだ。つまり、私が膝を撃った奴がまだ街に潜んでいるという事だ。ジョウジの事は署の連中に任せて、私は連日奴を追っている。


事件から数日経ったある日。私が街を歩いていると何かの視線が私を貫いた。路地裏から覗いてくる殺気には覚えがあった。私が近づくと、弱りきったジョウジの犬がそこにいた。うずくまり、足はかなり化膿している。私を睨みつけてはいるが、同時に寂しい顔をしていた。私はそっと彼の頭を撫でる。


許せ、人間の身勝手に君たちを巻き込んだ。


最初は犬を探さなければまた傷つくものが増えると考えていたが、彼の顔を見てその思考は消え去った。彼は忠犬であり、主人を失えばもう生きる理由なんてなかったのだ。こうして、私の目の前で彼はゆっくりと目を閉じその生涯を終えた。私はその後、私が殺めた犬達と共に埋葬し、平和を守る事とは時に犠牲を払わなければならないことをこの歳になってまた思い知らされるのであった。

怪奇捜査官ベル〜恐怖の猟犬使い〜 完







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