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標識の悪魔

この何ら変哲もない街には悪魔が潜んでいる。

己を「法」と称し、人混みに紛れて悪さをする。

誰かを誘拐する、暴力を振るう、金品を奪う、心を操る、そんな行き過ぎた悪さはしない。

なんならこの街の住人の方が、側から見れば行き過ぎた悪さをしているようにも見える。

彼はいつも「止まれ」の標識に化けて人々を困らせる。

まるで子供の悪戯のようで、悪魔という表現がお世辞と言わんばかりだ。

やたら急いでる人の近くに行っては、自ら標識となり一瞬歩みを遅らせる。

止まった者は「こんなところに標識なんてあっただろうか。」と疑うが後は気にしない。

誰も傷つきはしないが、ほんの少しばかりの違和感を人に残してまた次の標的を飛んで探しに行く。

飛んでは道ゆく人の歩みを止めさせて、己が誰よりも「力」が強いと心の昂りを見せる。

これを繰り返し、人々をあざ笑う。

身近にある変化に気づかず、歩みを無駄に早くしている人間が、「法」という名の文化には逆らえない。

その光景を何度見ていても、彼は飽きないという。

自分は全てを止められるが、誰も自分の悪行を止められない。

彼は毎日のように人々の前に顔を出しては、心の中でこう呟くのだ。

「私の力は誰にも止められない。」と。


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