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季節外れのサンタクロース

今年の春、俺は社会人になった。営業職の俺は覚えることばかりで目まぐるしい毎日を送り、今後の不安がゴールデンウィーク前に襲いかかる。そんなある日の昼下がり、缶コーヒーを片手に公園のベンチに座り、眉間にシワを寄せ今にでも何かを投げ出したいと思う俺の前に、呼吸をやたら乱した青い服のサンタクロースが現れた。

「えっと、ヤマニシ・ケンタくんでいいかな!?遅くなってごめんね!プレゼントを持ってきたよ!!」

一体なんの冗談だろうと思った。笑うとか怒るとかそういう感情は何もない。ただこの状況をどうしようかとコーヒーをベンチに置いた。そしてその場に立ち上がり、ため息ひとつした後サンタに話しかける。

「俺は確かにヤマニシ・ケンタだけど、あんた変態じゃないよな?」

「違うよ!正真正銘のサンタクロースだよ!免許もある、今年更新したばかりだ!実は書類のミスがあって、過去に大量のおもちゃが配られていない事実が発覚して今持ってきたんだよ!本当にごめんよ!12年前はサンタ界の中でもずさんな管理の時期だったから、、、!」

「とりあえず夢を壊す発言をやめろよ。俺22歳だし、ていうか今4月だぞ。せめて12月にやれよ。」

「気づいたのがつい最近だったもんで!受け取ってない子が20人近くもいるんだ!だけど渡しに行っても誰も受け取ってくれないし、警察に追われるし、町の皆んなは変な目で私を見るんだよ!」

「良かった、皆んな正常な判断だ。あんたな、サンタクロースは架空の存在なんだよ。だからいくら走り回ったところで受け取るやつなんていないよ。それに、12年前のプレゼントなんか覚えてるやついるのか?俺だって何を頼んだか覚えてないし。あと気になってたんだけど、あんたなんで服の色青なの?普通赤だろ。」

「え?サンタ業界じゃ何色着ても問題ないよ。もしかしてこの地方、赤がトレンドなの!?」

「お前の業界がどんなもんなのか知らないけど、多分未来永劫、サンタの服は赤がトレンドだ。てかサンタって信じてもらえないのそのせいじゃない?」

「じ、じゃあ赤色の服を買って、、、!」

「あ、ごめん言い方悪かった。トレンド取り入れてもサンタって信じてもらいないわ。」


結局、なぜか俺は公園のベンチでプレゼントを持った青いサンタと2人で缶コーヒーを飲んでいる。子供はこっちを凝視してるし、その親御さんたちは俺たちから必死に子供達を遠ざけている。

「君、そんなしかめっ面だと子供が怖がるよ?」

「俺に視線を向けてるやつ0人だぞ。てかサンタが缶コーヒー飲むなよ。」

「サンタだって、カフェインが欲しくなる生き物なんだよ。」

「あんた発言が気持ち暗いんだよ。そもそもさ、そのプレゼントが配られなかったのはあんたのせいなの?」

「いやぁ、私はサンタになってから配り忘れなんて一度もなかったよ。ただ先輩がちょっとやらかした感じでね、、、。皆んなは放っておこうとしたらしいんだけど、それが許せなくて私ひとりで対処してるんだ。」

「そのさ、あんまり俺が言える立場じゃないのはわかってるけど、同僚たちの言うことは正しいと思うよ。いいじゃん、貰えなかったやつらはもう何を頼んだか忘れてんだから、、、。」

「良くない!!」

サンタは真面目で優しそうな表情を一転させた。

「例え忘れたとしても、届かなかった事実は一生心の片隅に残るものなんだよ。人は子供でいられる時間の方がはるかに短い。例え誰かのミスであったとしても気づいたサンタが動かなきゃ、誰がクリスマスの傷を癒せるというんだ、、、。」

12年前か、その年のクリスマスはあまり覚えていない。いや、このサンタの言うとおり俺は訳あって思い出さないよう、心の片隅にねじ込んだのかもしれない。クソ真面目なサンタに触発されたのか、12年前の俺が何を頼んだのか見てみたくなった。

「なぁ、俺宛のプレゼントくれよ。」

「え!?受け取ってくれるのかい!?」

「せっかくだから、昔を懐かしむ程度に受け取ってやるよ。」

「ケ、ケンタくん!じゃあこれ、君宛のプレゼントだよ!」

俺はサンタから小さなプレゼント箱をもらうと、サンタは変なことを言ってきた。

「君は、本当にいい子だな。」

そう言うとサンタはまた無謀にも配り忘れたプレゼントを届ける為に走り去っていった。騒がしいサンタが消え、俺はその場でプレゼントを開けた。中に入っていたのは、小さなオルゴールだった。そうだ、12年前のクリスマスシーズン、母さんが病気で入院してたんだ。ひどくやつれてて、少しでも元気づけてあげようとオルゴールをサンタに頼んだ。でも、オルゴールが届くことはなかった。忘れていたのはきっと、12年前はクリスマス関連の行事も何もしていなかったからだ。それ以来、サンタにプレゼントを頼むことはなかった。小学高学年になるから割り切ったのか、母さんがその後すぐに死んじゃってサンタを恨んだからなのかわからない。だけど今、届いた事実があるなら、俺がやるべき事はひとつだ。俺はオルゴールのネジをゆっくりと回し手のひらにのせた。オルゴールの音色は公園に流れ、今度は俺が若干冷ややかな目で見られた。この際どうでもいいけど。


母さん、クソ真面目なサンタクロースから季節外れのプレゼントだ。ちゃんと届いたかい。俺は頼んでないけど「元気」を貰ったよ。


〜季節外れのサンタクロース〜



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