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3歳児の気遣い

「誕生日おめでと~う!」

満面の笑みを浮かべ、
綺麗な包装紙に包まれたプレゼントを抱えた母は
僕の方にゆっくりと歩み寄ってきた。
3歳の誕生日。
食卓には母が腕によりをかけて作った料理の数々が並べられ、
生クリームがたっぷりとかかったイチゴのバースデーケーキには
3本のロウソクが立っていた。
父はそんな誕生日パーティーの様子をビデオカメラで撮影しており、
和やかな雰囲気を記録しようとレンズを覗きながら
各々にピントを合わせていた。

「はい、誕生日プレゼント。」

母から手渡された包みを嬉しそうに受け取り、

「ありがとう。」

と大きな声で答える僕。
受け取るや否やすぐさまプレゼントの包装紙を破ると箱を開け、
プレゼントの中身を確認した。

「わぁ~~~っ!くちゅや~~!
やったぁ~~、くちゅや~~~!
ありがと~~。」

プレゼントは赤と白でデザインされたスニーカーだった。

以前、僕の元に両親が撮りためていたホームビデオをDVDにしたものが
10数枚送られてきた。
5歳ぐらいまでの幼少期の僕が記録されていて、
『懐かしいな』なんて思いながら見ていたのだが、
上記のシーンを見た時に、その時の僕の感情が一瞬で一気に思い出された。
その時の僕は、両親には本当に申し訳ないのだけれど
靴のプレゼントなんて全然嬉しくなかったのだ。
むしろ箱を開けて、中身が靴だと分かった瞬間
『え~~、靴って。。』とがっかりしたのを覚えている。
当時、戦隊物の【電撃戦隊チェンジマン】が大好きで、
プレゼントは絶対にチェンジマンの変身セットだと思っていた。

それが、、靴って。。なんでやねん。。

今思えばなんて贅沢なと思うのだが、
その時はそう思ってしまったのだから仕方がない。
ただ、この時僕がとった行動はというと上記の通り。
めちゃくちゃに喜びを表現するというものだった。
3歳児なりに
『せっかく二人が選んで買ってくれたプレゼントなのに、
がっかりした顔を見せちゃいけない。
二人が悲しんでしまう。』
と直感的に思ったのだろう。
プレゼントされた靴をしっかりと胸に抱きしめて

「くちゅや~~!くちゅや~~!」

と部屋の中を走り回ったのだ。
35年前の僕。
画面に映る3歳児の胸の内が手に取るように分かっている38歳の僕としては
何とも苦笑いしながら、その映像を見たものだ。

『3歳児の気遣い』か…

大人が思っている以上に子供というのは色々なことを思っているし、考えている。

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