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【前回のお話】

(942字・この記事を読む所要時間:約2分 ※1分あたり400字で計算)

 鏡の前で何度も何度も身だしなみをチェック。

 カバンの中に履歴書と筆記用具がきちんと入っているか。
 忘れ物はないか。

 一つ一つ念入りに確認した後、グイとドアノブを回した。


 心が躍っていた。


 (いざ、人生の第二章の始まりだぁ!)

 ーーなんてふざけたことを考えながら、玄関の外に出た。


 晴天。

 初夏の日差しが異様にまぶしく、それが私を更にワクワクさせた。


 今日の用事は2つ。
 アルバイトの面接、それと、S教授との面談だ。

 まだ使い慣れていない日本の電車におどおどと乗り、色とりどりに流れゆく一軒家の屋根を窓辺から眺め、新鮮さで胸がいっぱいだった。


 前職に務めていた時も来日はしていたが、全てが慌ただし過ぎた。
 一切の余裕を与えられず、日常が全て会社に奪われていた。
 ひたすら仕事、仕事、仕事の毎日だった。

 ゆっくり日本を味わう余裕なんかなかったのだ。

 けど、今こうして一人静かに電車に揺られていると、「私は確かにまた日本に来たのだ」と実感出来る。


 日本語の車内アナウンス。
 明るくて整然とした町並み。
 ガタンゴトンと伝わってくる線路の響き。


 この新たなフィールドで、私は自分の人生を立て直すのだ。


 まずはアルバイトの面接へ。
 応募した仕事は、倉庫での検品作業だ。

 正直、時給はそんなに高くない。しばらくは切り詰めて生活しないといけないだろう。
 けれど、これにはちゃんと私の考えがあった。

 経済面で考えると、接客業とかの方が断然条件は良い。
 だが、なんせ当時の私は非常にコミュニケーション力が不足していた。

 加えて小心者で、些細なことでも異様に緊張したりあがってしまう。
 正直、体調もまだ不安定なままだった。

 たとえ無事面接に受かっても、ストレスで倒れることは火を見るよりも明らかだ。
 いきなり無茶な挑戦で失敗して自己嫌悪に陥るぐらいなら、まずは無難なことから少しずつ成功体験を積み上げ、自信感を育てるべきだろう。

 そして、徐々にこなれてきてから次のステップへ進めば良い。


 商店街の一角にひっそりと佇むこぢんまりとしたビルに入り、こつこつと階段を上がった2階の一室に、その会場があった。

 予想していた「面接」とは随分と違った。
 教室のような部屋にデスクと椅子がぱらぱらと並べられており、複数人で一斉にスタッフの案内を聞く。

 いわば「説明会」のようなものだったーー

(つづく)

📚さあ、どんな展開が待っているのカナ!?


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