好き嫌いや先入観に基づき人を色眼鏡で見ていた自分に気づいた話
長くなるけど、職場の話。
職場である、就労支援施設にはスタッフが何人かいる。私がそこでバイトをし始めて、思うようになったことがある。
それは、無意識のうちに人は先入観に基づいて物事を見て、その先入観が正しいという方向に解釈しようとする、ということだ。
私はしばらく一緒に働くようになり、スタッフのうち責任者Aさんの人間観が独特なことに気が付いた。
極端に言うと「利用者は皆、信用できない」「利用者は皆、何もできない」という前提に立っているのではないか?という風に私には見えた。
どうしてそう思ったかというと、一つ一つの出来事に対する捉え方がAさんと私とでは全然真逆で、どうしてそうなのかを聞いたときに、大元の人間観が全然違っていたのだった。
*1 仕事を持ち帰る利用者Bさん*
ある軽作業について、「家でやってきます」と持ち帰る利用者Bさんがいる。けれど実際はBさんが家で仕事をしてきた結果としての成果物を提出したことは一度もないという。
私の捉え方としては、「そもそもここは、精神疾患や発達障害などで一般企業で就労することが難しい人がその訓練を兼ねて働く施設。なので、Bさんも施設では明るくふるまっているけれど、家に帰ると仕事や子育てで疲れてつい寝てしまうなど、きちんと成果物を出せないことも当然ありうるだろう。」
「もしキッチリ成果物も提出できたり、進捗を報告出来るのなら、Bさんの明るさと若さならとっくに一般企業に再就職しているだろう」と思い、「お家での作業は進んでますか?」「寝込んだりしんどかったり体調に異変は無かったですか?」「少しづつでもいいんで出来たものは、持ってきてくださいね」といった程度の声掛けにとどめ、敢えて深追いはしていない。
一方Aさんは「利用者のBさんはその持ち帰った仕事の成果物をメルカリで勝手に売っている。」「Bさんは手癖が悪いから職場にある物も勝手に持って帰って売ったりしている可能性もある。Bさんが帰るときには目を光らせておくように」との指示を私たちスタッフに出す。
また、私がBさんからの仕事に対する提案を受けた時、他のスタッフとの間では「受け入れても問題ない。むしろ前向きで良い傾向」と結論づいた内容でも、Aさんは、Bさんからの提案と聞いた瞬間、取りつくしまがないほど一刀両断に却下し、結局代替案を検討する余地も無いまま打ち合わせを終わらせてしまった。
不思議に思って、私が「素朴な疑問なんですが、ちなみにこれまで実際にBさんに依頼したものがメルカリで売られてたりBさんが勝手に商品を持ち帰るのを目撃するような事実があったんですか?」と聞いてみるとAさんは「無い」言い、伝聞だとも言っていた。
正直、Bさんが会社の物を横流しして売っているかどうかは分からない。
でも、仮に売れてもそこまで高額になるとは考え難いし、施設の仕組みとして必ずしも商売で収益を上げる必要がなく、施設利用者が減る事の方がよっぽど施設の収益に影響を及ぼすことを踏まえると、証拠がない状況でBさんを追い詰めることはお互いにとってメリットが無い。
ならば引き続きBさんを信じて普通に接しながら、もし万が一横流し現場を見つけたらその時に「どうしてBさんはそういう行動に及んでしまうのか」をBさんと一緒に内省する方向に持って行く方がよほど建設的だと私は思うし、それが出来る関係性を維持することが今は大事だと考えている。
*2 スマホばかりで働かず、文句ばかりの利用者Cさん*
中年男性のCさんは私がここ数週間担当するようになった利用者さんで、Aさんからの説明では「スマホばっかり見てスタッフ用のお茶を勝手によく飲み、2階での仕事を頼めば膝が痛いから階段を登れないと断り、軽作業を依頼すると腰が痛いから無理と言い、パソコン入力を依頼するとパソコンは分からないと言い、ハサミで紙を切る程度のことを依頼しても、仕事が雑過ぎて成果物は使い物にならなくて捨てるしかない。
なので頼める仕事が無くて、結局スマホを見たりお茶を飲んで時間を潰し、それでも暇なのでスタッフがミーティングしたり他の作業者さんに対応するのにチャチャを入れて邪魔したりしてどうしようもない、」と聞いていた。
私は「とは言えチャチャを入れて勝手に参加してくるのはきっと寂しくて、構って欲しくて居場所を感じられていない事の裏返しなのだろうし、本心は自分も他の利用者同様に何かを任せて欲しいのではないか?」と思った。なので、Cさんに対しては引継ぎの内容は一旦横に置いておき、まずは一人でパソコンに取り組める部屋に案内し、簡単なパソコン入力を依頼した。そして手が止まったりスマホを取り出したり、他に気が散りかけそうな時には声をかけて操作方法を伝えたり、作業を続行してもらえるよう接した。
そうこうしているうち、Cさんは実は昔パソコン教室に通ったことがあったものの、途中でついていけなくなってドロップアウトした経験があることを語りだした。
それを聞き、私はCさんはパソコンに興味がある。無いのは自信だと思ったので、何度も繰り返しパソコン操作を伝え、遠慮なく何度も質問してくれと言うと、Cさんは覚えた事をスマホにメモって家で復習する様になり、私は施設の案内表示やマニュアル、在庫表の入力など、シンプルで皆の目に触れる物を中心に作成を依頼した。そして今ではCさんはパソコン入力の担当として毎日通所してくれている
*3 亡夫の悲しみが癒えないスタッフDさん*
別の投稿にも書いた事がある、私と少し後にスタッフとして加わった年配の女性スタッフのDさん。Dさんは去年夫を亡くし、いまだ情緒不安定。「家に一人でいると今にも夫の後を追って死んでしまいそうで危なっかしい。なので外に引っ張り出してあげたい」と思った近所の人が、偶然スタッフの知り合いだったことから一緒に働くことになったという経緯がある。
けれどDさんは、「息子が遠方に就職をしたことの喪失感」を口にした利用者さんに、「生きてるだけマシ」「私の方が断然ツライ」などと言ったり、突然夫の事を思い出して利用者さんの前で泣き出して、利用者さんがそのスタッフDさんをフォローするなど、とてもスタッフとして利用者を受け止められる心の状態ではない。(寧ろ個人的には速やかな病院への受診を勧めたいぐらい。)
そして何より、Dさん的には近所の人から勧められて来ただけで、自分の意志で働きたくて施設に来ているわけではないので、肩書こそスタッフなものの、実際は新米の利用者としてスタッフだけでなく利用者にもやたらめったら甘えたりマウントを取りにいったり、「私の方がもっと不幸なんだからあなたはもっと頑張れ」などととハッパをかけてしまう。それにやたらせっかちなので、一緒にいる利用者が、「自分はトロイ」「自分は弱い」と凹んだりしてしまう。しかもなまじ肩書きはスタッフなので、Dさんの影響を間に受けた利用者が、まだまだそんな回復状態ではないのに触発されて突然就活やら習い事を始めたりして、何かと混乱が生じてしまって、その対応にも追われている。
そんな具合なので私としては同じスタッフとしてDさんにどう接したらいいのか分からず戸惑っていたし、利用者に迷惑をかけている現状を踏まえると、正直言えばもう少しメンタルを立て直してからスタッフになって欲しかった。もっとストレートに言えば「今はスタッフではなく、自分を癒すことに専念して欲しい」というのが本音だった。
一緒にシフトに入ると実際はDさんも利用者の一人として振る舞ってくるので、こちらもその様に接しざるを得ず、結果私自身もキャパオーバーになって利用者さんに対してその分手薄になるのが毎回不本意で、私は毎回悔しくて帰りの電車で1人反省会をしてしまうし、それなのにDさんが私と同じ時給を貰っていることに正直モヤモヤもする。率直に言って私はスタッフDさんに対してイライラや苦手意識を抱えていたと思う。
*BさんとDさんのまさかの化学反応*
ところがある日、ひょんな事からスタッフDさんと利用者Bさんが一緒に手芸をすることになった。もともとせっかちで、普段から利用者をやたらと急かすCさんは、手芸が得意らしく手芸をすると手際がとてもいい。
その様子を見て、利用者BさんはCさんを「手芸のカリスマだ!」と言い始め、「是非手芸を教えてほしい」と言い始めた。という事で、仕事に対する改善案を出しても理由なく却下されてモチベーションを完全に無くしていたBさんのモチベーションは、Cさんと出会ったことで突如爆上がりした!
そして明るいBさんのテンションにのまれて、亡くなった旦那さんの話を挟む間がないので、スタッフDさんも仕事中に泣かなくなった。そうしてスタッフDさんは無事、職場に居場所を見出すことに成功した。
*前職を辞めた時、私が新しい職場でやりたいと思ったこと*
その様子を見て私はハッとした。私は、無意識のうちに心の中でDさんのことを切り捨てていたのだとその時初めて気づいた。実際はDさんの活かし方はちゃんと残っていたのに、である。
私はこれまでのDさんの振る舞いを見て無意識のうちに「スタッフDさんには危なっかしくて利用者さんを任せられない」という前提でDさんと接していた。だから私にはDさんの活かし方やスタッフとしてのDさんとの接し方が分からず戸惑っていたし、私がDさんの可能性を信じていなかったから、Dさんと私との関係も避けられがちで、なかなか信頼関係が築けなかったのだとその時思った。
私は元々は完璧主義で基本的に仕事にも責任感を持って取り組む。でもだからこそ逆に自分にも他人にも厳しい所があって、昔から仕事場に来て仕事をしない人、習い事の会場に来て学び以外の目的を達成しようとする人、部活にきて部活をやらない人へどう接したらいいのか分からないので、ずっと苦手としてきた。
けれど誰にでも家族の死というライフイベントはいつかは訪れるものだし、Dさんは私には出来ない手芸が出来る。そしてBさんのモチベーションを上げることにも成功した。
だから結局は相性の問題で、少なくとも今この瞬間、スタッフDさんは利用者Bさんといる時間はポジティブなやりとりが出来ている。しばらくはそれで様子を見たらいい。そしてお互いに癒されて二人ともが元気になれば最高だ。
✳︎私の初心✳︎
私は前の会社を辞めた時に、強くこう思った。
今度働く時はチームワークを大事にしたい。劣等感で足の引っ張り合う組織はもう一生分経験し尽くした。だからこれからは、みんなそれぞれ得意なことや長所を生かし、「手伝って」「助けて」とお願いしあって自己肯定感を高めていける空気を醸成していけるよう、振舞いたい、と。
BさんとDさんのやりとりを見ていて、私は自分が初心を忘れそうになっていたことに気が付いて思わず恥ずかしくなった。
*Aさんも実は・・・*
Aさんはもともと人間関係のトラブルが原因で今のところに3月から異動してきた。しかし今の職場でも既に複数の利用者と喧嘩別れになっていて、利用者が辞めたがる、或いは辞める、理由をつけて来なくなる、或いはAさんとは働けませんと言ってくることが、1カ月で5人以上いる。
更にAさんは、「利用者にやらせると、勝手にマクロをいじったりするかもしれないから触らせたくない」という理由から、利用者に仕事を任せない、もしくは任せるふりをして既に完了している古い仕事を『練習』と称して何度も繰り返し行わせる。なのでせっかく私が利用者にパソコン操作や仕事の進め方を伝え、利用者がやる気を出しかけていても、永遠に『練習』を繰り返すうち、次第にモチベーションが下がり、飽きてぼーっとし始める。その上、実際には仕事は次々届くので、結局は利用者が全員帰った後に、パソコンが分かるスタッフ(つまり、私かAさん)が残ってやる、もしくは昼間に利用者に関わる事なくひたすら事務作業に専念するするしかなくて、それでもさばききれずに仕事が溜まり続けるという悪循環が起こっていた。
けれど、初心を忘れていた自分を振り返った時、私は人間観が独特だと感じていたAさんと同じ事を、無意識のうちに自分もDさんに対してやっていたのだな、と思った。
きっとAさんもこれまでこの仕事をしてきたり、生きてきた中できっと何か色々あったり、異動してきて責任のある役職について気負いがあるなどAさんなりの事情があって、きっとそういうネガティブ色眼鏡に基づいて世界を見ているのだろう。
とは言え、信用できない人に囲まれ働くことは心にとって本当にしんどい。一年前、「君は俺を陥れようとしているんだろう!」という謎の被害妄想に取りつかれた上司から連日会議室に呼び出されて激詰めされていた経験を持つ私には、自分を信用していない人や、自分が信用できない人と一緒に働くことがどれだけ疲れるか、嫌というほど分かる。だからきっとAさんも、Aさんなりの苦しみを今、抱えているのだろうと推察する。
だからいつかAさんもリーダーとしてもっと利用者を信じ、仕事を任せて、仕事を溜めずに回していけるようになったら良いなと思うし、私は私で引き続き、利用者さんの可能性を伸ばしながら出来る範囲でやれることを地道にやってこうと思っている。
『お互いに、切り捨てたり、切り捨てられたりすることがない、やさしい空気を醸し出していきたい。』そんな初心を忘れることなく、力むことなく、出しゃばりすぎることなく、無理や自己犠牲する事なく、でも都合よくいいなりになるだけでもなく。そのちょうどいいバランスを探っていきたい。
引き続き、まずは元気な挨拶と笑顔から。
明日もやることやって、ゆるーく、ゆるくやっていこう。うん。
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