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2020年7月の記事一覧

銚子、カレーボール

銚子に行くのは、高速を降りてからが長い。佐原香取インターで降りて利根川沿いをいく道、途中で橋をわたり茨城に入り、また千葉に戻る道、または潮来終点まで行き、ひたすら茨城側から銚子大橋を目指して千葉に入る道。私は潮来派だった。なぜなら、四車線で道沿いにいろいろな店があったから。 千葉県ルートは一車線で、前に遅い車がいると大名行列のようにつながってしまう。あのいらいらはかなり度合いの高いいらいらだ。なので、潮来。 だが、千葉ルートで行くと途中「プれンティ」という黄色い洋食屋が出

コリントゲーム

まおちゃんのコリントゲーム 夏休みの工作セット 板に釘を打ち付けたのはお母さん ひとつ釘を打つと別の釘が抜けてしまう かなづちがだんだん大きくなる 重たく 打ち付けた釘を調整するのはお父さん 釘方向の少しの違いで面白くもつまらなくもなる 曲げ様 箱に色を丁寧に塗って行き着き先に おみくじを割り当てたのはまおちゃん 大吉 吉 小吉 凶 入る確率が大きい部分に吉をふりなよ お母さんに言われたのでそうするがまおちゃんはひそかに別のことをおもって おみくじを割り振っていた それは夏休

プロ仕様

プロ仕様 プロ仕様とかプロモデルと言われる道具に惹かれる。 幼い頃、家の玄関で何かの書類をちゃちゃっと揃えて、判子を押していくその郵便局員の透き通った判子のケースにあこがれた。判子をブラシで二三回しゃしゃっと擦って書類に判子を押してぺりっとはがして控えを差し出す。その一連の動きに淀みなく、羨望の目で局員を見ていた。何じっと見ているの、といわれ、母親の後ろに隠れる。書類の人はさっと来てさっと帰る。 あとは、改札の切符を切る鋏。あれもプロの仕事道具とあこがれたものだ。切符を

つぎねぷ

1 マウスウォッシャーという機械がある。タンクに水をいれて細いノズルから高圧水が吹き出す。それで口の中を洗い流す仕組みとなっている。歯の間や歯茎のポケットを集中的に噴射するのだが、これが実に気持ちいい、というか尾籠な話だが、そこを噴射するとえもいわれぬ独特の腐敗臭のような、樟脳のような体に住み着いた悪菌のこじ剥がされるにおいが鼻に抜け、それが浄化されているという実感として思われることで快感が得られるというわけだ。 ところで、藤井貞和という国文学者兼詩人がいる。その人の古い詩集

海浜工業地帯輪行

海浜工業地帯輪行 誰かに会う予定で自転車を走らせていたが、誰かが誰も思い当たらず、急に寂しさと焦燥感に襲われた。コンクリートの壁沿いを走っているのだが、ちょうど頭の高さに砂浜と海があり、夜というのに確かにうっすらと明るさのある群青の水面では子供たちが顔を出したり潜ったりしている。沖から泳いでくる人の姿も。 海の中に何か、大きな塔のような物が立っていて、斜めに、エスカレーターが海面まで延びている。泳ぎ疲れた人はそのエスカレーターに乗って塔の中へと上っていくのだが、その形はい

古本屋巡り

古本屋巡り しばらく古本巡りをしていない。ネットに頼って出歩かなくなってしまった。お茶の水、早稲田、中央線沿線、たまにはそのすべてを一日かけて回ったりもした。 早稲田の古本屋街は通りに古本屋が点在して整然とした本屋もあれば、雑誌類が雑然と積まれているところもあった。ひとつひとつパラフィン紙に包まれた純文学の、たしか、平野書店、大切に本を扱っていたがそれほど高くなかったと記憶している。大変な手間だろうな、と思った。 私は、現代詩集など読みあさっていて、早稲田は結構扱いがあ

学級崩壊

学級崩壊 学級崩壊など、昔にもあった。金八先生で、腐ったみかんの加藤が放送室を占拠する前、その状態は私の級に訪れた。 小学四年。初め、初老の厳格そうな先生が我々の担任となったのだが、一週間もしたあたりで何故か担任が新卒の女性教師に代わった。それから、生徒は全く言うことを聞かなくなり、あまつさえその教師に暴力を振るい始める。 そこからは日々、阿鼻叫喚の四年三組、校門を抜け出して繁華街に出かけてしまう生徒、授業中にゴム鞠で野球を始める生徒、寝る生徒、しゃべる生徒、私たちのほ

秋川上流

秋川上流 夏になると水辺が恋しい。子供たちが小さい時分は秋川渓谷へ行った。いつだったか、行こうとしていた前日に大雨が降った時があり、電話で管理者に問い合わせたところ、来るのは来られるが、大水で遊ぶことは出来ないだろう、と返答された。と、ここまではいいが、そのあと、何でこんな大雨の後に来ようとしているのかわからない、と言われた。そちらは地元ですからわからない、と思うかもしれないが、こちらは年に一度しか行かない渓流のことなど、様子が分からないから聞いているのだ、と思った。これぞ

あきやまさんへの手紙

あきやまさま このような提唱者冥利に尽きるお言葉の数々をいただき ありがとうございます 当初 私が思い描いていたことをすべて言い尽くしていただきました 自由詩 特に現代詩は 自由に見えて割と窮屈な世界です こういう言葉は手あかがついている こんな言い回しは紋切り型だ こんなものを書いたらバカにされる…まあ これは私が勝手にそう思っているだけかも…それが 一つ型を作っただけで こんなにじゆうになれるという 私にとっては新鮮な驚きで となれば いろいろな方に見ていただきたく始めた

頼まれもせず書く

頼まれもせず書く だいたい朝の九時くらいから書き始める。頼まれもしないのに。 書き始めると頭は霞み目は細くなる。覚醒するどころか、意識が濁り、疲労感が降りてくる。何か義務感に苛まれ、頼まれもせずに書いている。別に、ほとばしる物を押さえきれず書かずにいられないと言うことは全くなく。別にぼんやりしていてもいいものを。 誰かに読んではもらいたい。せっかく書いているものだから。 しかし、読まれることがないかも知れない。おそらく、20年前なら手段は限られていた。当時、個人誌とい

やる気のない古物や

うちはやる気のない古物やですのでね とりあえず開いたスペースには何でもおきますのでね 主力は楽器や本ですけどね、たいしたものはありませんよ 掘り出し物なんか期待しないでね ワイヤーを渡してそこに糸巻き引っ掛けているだけだからギター取るときは気をつけてね ウクレレなんかウクレレのなる木みたくなっているから取ったらちゃんと元に戻してね 埃はブロアで吹き飛ばすだけだから 手ぇ汚れるよ 何しろまったくやる気がないからね ブロアでウクレレの木を吹くと カタカタ鳴るよこれでもみんな四五十

江戸川の釣り

江戸川の釣り ひと夏、江戸川の釣りにはまったことがある。市川の江戸川は河口にあり、海の魚が上ってくる。あえて、誰もねらっていないそれを釣る。ボラ、ハゼ、セイゴ。とくにセイゴにかけては研究した。ハゼはおもりを赤くして、餌を川底に着くように仕掛ければ釣れる。というより割合どんな仕掛けでも釣れる。もっと海の方に下れば200や300行くらしい。 セイゴは違う。水に漂っている餌が好きなのだ。そのため、おもりの上少し糸をつないでに天秤をつけ、あるていど川底から餌が浮くように仕掛けてみ

江戸川の釣り2

江戸川の釣り2 ある夏、江戸川の釣りにはまって毎週末、金曜夜、土曜、日曜と釣りに費やしていた。台風があると、水は茶色く濁り、中国の川のようにコーヒー牛乳の色になる。川上からいろいろなものの残骸が流れてきて水面がうるさくなる。こう言うときにはあれ、が釣れるといわれている。 いつものように二刀流で竿を出していた。ややあって短い方の竿が倒れた。倒れた、と思い竿を持ち上げると重い。明らかに生き物の力が竿に伝わっている。何かかかったな、と思い、リールを巻き上げる。なかなかの力だ。カ

見たライブ

見たライブ ひととき伝でライブのチケットが手に入る時期があった。いろいろな日本のバンドを見た。ブルーハーツ、ゴーバンズ、エコーズ、爆風スランプ、ドクトル梅津バンド、チャクラ、四人囃子。そしてRCサクセション。思いつくまま。 ブルーハーツはドラムの人がとてつもなく早いエイトビートですごかった。四人囃子は今は亡き有明エムザ? だったかものすごく場違いな感じの会場で、観客の年齢層が高かったのを覚えている。音楽会、といった感じの落ち着いたライブ。テクニックを味わうといった感じで。