見出し画像

江戸川の釣り

江戸川の釣り

ひと夏、江戸川の釣りにはまったことがある。市川の江戸川は河口にあり、海の魚が上ってくる。あえて、誰もねらっていないそれを釣る。ボラ、ハゼ、セイゴ。とくにセイゴにかけては研究した。ハゼはおもりを赤くして、餌を川底に着くように仕掛ければ釣れる。というより割合どんな仕掛けでも釣れる。もっと海の方に下れば200や300行くらしい。

セイゴは違う。水に漂っている餌が好きなのだ。そのため、おもりの上少し糸をつないでに天秤をつけ、あるていど川底から餌が浮くように仕掛けてみたところ、これがぴったりきた。入れ食いとはいかないが、そこそこ退屈しない程度には釣れる。ほんの10センチほどの魚体だが、美しい銀色をしている。そして、引きが強い。成魚のスズキとなると、暴れに暴れてえらで糸を切ってしまうらしい。ルアーで狙えるのでシーバスなどと呼ばれているが、その呼び方はどうかと思う。海のブラックバスという意味で言っているのだろうが、江戸前のスズキだ。ちょっと違うのではないか。

セイゴでもいい引きをする。当時は釣り場のすぐ近くまで車で入れた。草いきれが立ち上るなか、遠投用の大きめの竿と近くをねらう遊び用の小竿の二刀流で、餌は青イソメをつかう。イソメは噛みついてくる。針につけて投げる。

夏の空は青く、対岸の首都がかすんで見える。水辺は心持ち涼しい気もする。竿をたてて、ドアを開けた運転席にもたれて当たりを待っている。独身だった。週末に予定はほとんどなかった。地震もセシウムもなかった。当時は煙草も吸っていた。川の風に煙草のけむりがすっとすり切れるように消えてゆく。そうそう当たりはこない。かすかなラジオと岸辺に寄せる波立つ水の音だけが聞こえている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?