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銚子、カレーボール


銚子に行くのは、高速を降りてからが長い。佐原香取インターで降りて利根川沿いをいく道、途中で橋をわたり茨城に入り、また千葉に戻る道、または潮来終点まで行き、ひたすら茨城側から銚子大橋を目指して千葉に入る道。私は潮来派だった。なぜなら、四車線で道沿いにいろいろな店があったから。

千葉県ルートは一車線で、前に遅い車がいると大名行列のようにつながってしまう。あのいらいらはかなり度合いの高いいらいらだ。なので、潮来。

だが、千葉ルートで行くと途中「プれンティ」という黄色い洋食屋が出てくる。田圃の中にぽつんとあるのに結構繁盛している。値段は千円前後だがそれなりに量が多い。とくにジャンボパフェは大ジョッキてんこ盛りのフルーツパフェで大抵の目撃者は目を丸くする。味は濃いめ。気取った店ではない。店名の一文字がひらがなの理由を聞いたが、すっかり忘れた。しかし、良く聞かれると店の人は言っていた。

潮来ルートは中古車屋、古物屋、ブックオフ、ラーメン屋、コンビニ、百均、ガソリンスタンドなどがある。しかし、いい気になってとばすと捕まる。晴れた平日は要注意だ。どちらを通ってものどかな田舎。今となってはすこし懐かしい。

イヤになるくらい長い高速からの道のりを経て、銚子に至る。

何か、雨風にさらされて、色が抜け落ちたシャツのような色目の町。申し訳ないが私にはそのような印象。

古い町なので、町中は道が細い。山があり、谷があり、風車とキャベツ畑と醤油工場。灯台と漁港。漁港の方へ行くとアスファルトに光る物がぽつぽつと落ちている。鯖や鰯だ。運ぶときにこぼれ落ちる。拾って十分食べられる。拾われなければ海鳥が食べる。引かれたら地面とタイヤで擂り身になる。それはさすがに食べられない。

魚嫌いの私でも、練り物は辛うじて食べられる。銚子といえば知る人ぞ知る、嘉平屋の「カレーボール」。私は知る人ではなかったので、知ったのはここ十年のことだ。いわゆる揚げボールなのだが、こまかいタマネギが入っている。すこし甘めのカレー味で、一つ七十円。大きさはゴルフボール大か。これは食べた人のだいたい八割はおいしいという。魚嫌いの私もときおり食べたいと思う。銚子に行くと三回に一回は買う。その頻度なのは割合、仕事で頻繁に行っていたから。

もう一つ、ここのところ有名になってきた「ぬれせん」という食べ物があるが、どっぷりと煎餅を醤油にひたして、へなへなになった餅のようなものだ。過度に湿気た煎餅。しょっぱい。で、腹に溜まる。二枚も食べるとあとで水がほしくてたまらなくなる。血圧に悪そうだ。しかし、最近は、味にもバリエーションが増えて、「うすむらさき」という薄味のものもある。が、私のおすすめは「甘じょうゆ」という砂糖醤油風味のぬれせんだ。ちなみに砂糖醤油というのを初めて知ったのは大人になってから、永井龍男の著作で知った。

甘醤油ぬれせんは割り下に浸したようなもので、ノーマル、うちむらさき、甘じょうゆと並べると一番減りが早いのが甘じょうゆだった。銚子電鉄というローカル鉄道の「仲ノ町」という駅にいくと半端品が安く売っている。濡れ具合がうすく、物によっては単なる湿気た煎餅なのだが、たっぷり一袋五百円だ。きちんと濡れたものは店に並ぶ。たっぷり濡れて、並んでいる。

銚子にも津波はきた。漁船が防波堤にぶつかる映像もテレビで見た。しかし、大きな被害の話は聞かなかった。むしろ、風が強い町だ。いつも風が吹いている。しかし、海流の影響で気候は変動が少ない。冬でもまず雪にはならない。夏も涼しい。

しかし、このままでは銚子市はいずれなくなるそうだ。消えゆく自治体の候補の一つ。銚子大橋から見える銚子の町はもやに霞んだ印象がある。雨でも晴れでも、タマネギの薄皮で包まれたように町全体が膜の向こうにあるような気がする場所であった。

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