見出し画像

カリン・ペーター・ネッツアー監督『私の、息子』風変わりなルーマニア映画



<作品情報>

子離れできない母親と過保護から逃れようともがく息子の苦悩と愛情を描き、2013年ベルリン国際映画祭で金熊賞と国際映画批評家連盟賞をダブル受賞したルーマニア映画。ブカレストで暮らす裕福な女性コルネリアは、30歳を過ぎても自立できずにいる息子バルブに不満を抱きつつも、彼のことが気がかりで仕方がない。そんなある日、バルブが自動車事故を起こし、子どもを死なせてしまう。愛する息子を守るため、自らの財力とコネを使ってあらゆる手段に出るコルネリア。しかし、バルブは母の干渉を激しく拒絶し、自分の殻に閉じこもってしまう。困り果てるコルネリアにバルブの恋人カルメンが打ちあけたのは、母の知らない息子の意外な一面だった。

2013年製作/112分/G/ルーマニア
原題:Pozitia copilului
配給:マジックアワー
劇場公開日:2014年6月21日

https://eiga.com/movie/79659/

<作品評価>

85点(100点満点)
オススメ度 ★★★☆☆

<短評>

おいしい水
原題「Child's Pose(胎児の姿勢)」が示すのは公式サイトによると「子どもが母親の胎内で丸まっている姿勢。親が子を育む愛情が、実は子どもを窒息させていること、親が子供の人格形成に傷跡をあたえているという、現代社会の抱える普遍的なテーマ」を示しているそうです。
ベルリン映画祭ってやっぱり独特ですよね。これも『タッチ・ミー・ノット』や『心と体と』のように面白いか、と言われるとそうは言えないんだけど、興味深く観てしまう魅力があります。
ドラマ性を排し、交通事故で子供をハネてしまった息子をどうにか助けようとする舞台美術家の女性を追いかけるだけの物語です。被害者でも加害者でもない、「加害者の親」という視点がまず独特で秀逸だと思います。
劇中の息子はまあ人間性を疑うようなことを言い散らかすんですが、親の影響というのはあるんだろうでしょうね。あそこで車から降りられたというのは一縷の望みを見出だせます。本当は内気で繊細なんだろうね。
考えてみると子どものいる女性と結婚したのも、自分が親から感じられなかった愛を感じられるからなのでしょう。
人を選ぶとは思いますが個人的にはとても興味深く観ることができました。

吉原
この映画は、キャラクターに共感性を求めるかどうかで評価が分かれると思います。事故を起こした人物の母親という事件においては加害者でも被害者でもない視点から描かれる一方で、息子を思うあまり、しばしば行き過ぎた言動をすることがあり、そこにはあまり共感出来ないかもしれません。
事件には直接関わっていないにも関わらず、家族としてその責任を負わざるを得なくなったという視点では、銃乱射事件の被害者及び加害者の両親4人による会話劇である「対峙」という作品と同じものを感じました。
被害者遺族を目の前にして、息子の話ばかりをする姿は第三者視線からすると「何をふざけているんだ!遺族はもっと辛いんだぞ!」と思わずにはいられませんが、ルミニツァ・ゲオルジウの迫真の演技によって、こちらの感情もかき乱され、いつの間にかどっちに肩入すべきなのかわからなくなってしまいます…
なので、この映画を観るに際してはキャラクターの誰かに「共感」することは諦めてほしいです。決して気軽に観られるような内容の作品ではないですが、非常に見応えのある作品であり、私の心の中にズッシリとした何かを残してくれうような作品でした。

<おわりに>

 金熊賞らしい変わった作品です。気がついたら心に何かズシンとくる作品です。

<私たちについて>

 映画好き4人による「全部みる」プロジェクトは、映画の可能性を信じ、何かを達成したいという思いで集まったものです。詳しくは↓


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?