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阪本順治監督『せかいのおきく』泥臭い人間喜劇



<作品情報>

「北のカナリアたち」「冬薔薇(ふゆそうび)」などの阪本順治監督が、黒木華を主演に迎えて送る青春時代劇。

江戸時代末期、厳しい現実にくじけそうになりながらも心を通わせることを諦めない若者たちの姿を、墨絵のように美しいモノクロ映像で描き出す。武家育ちである22歳のおきくは、現在は寺子屋で子どもたちに読み書きを教えながら、父と2人で貧乏長屋に暮らしていた。ある雨の日、彼女は厠のひさしの下で雨宿りをしていた紙屑拾いの中次と下肥買いの矢亮と出会う。つらい人生を懸命に生きる3人は次第に心を通わせていくが、おきくはある悲惨な事件に巻き込まれ、喉を切られて声を失ってしまう。

中次を寛一郎、矢亮を池松壮亮が演じ、佐藤浩市、眞木蔵人、石橋蓮司が共演。

2023年製作/89分/G/日本
配給:東京テアトル、U-NEXT、リトルモア
劇場公開日:2023年4月28日

https://eiga.com/movie/98522/

<作品評価>

75点(100点満点)
オススメ度 ★★☆☆☆

<短評>

おいしい水
タイトルを『せかいのきおく』だと勘違いしていました…だから壮大な話なのかな〜と思ってたらうんこの話でした。
厠からクソを買い取って農業用肥料として売る男たちの話なので全編クソだらけです。なるほどこれは確かにカラーだとエグいことになるかも…
どうも阪本順治とは合わない(『KT』は例外)のですが、思いの外面白かったです。短いのもありますが、かなり夢中で画面に釘付けになりました。
最初はギャグセンスがやっぱり合わないなーと思っていたのですが、物語が進むにつれてその笑いの裏にある感情が浮き出てきて上手いなと思えてきました。
例えば池松壮亮演じる矢亮の発するオヤジギャグが終盤では別の意味を持って響いてきたり、佐藤浩市演じるおきくの父が武士としての死の前に言う哀しいユーモアだったり。
そうした脚本もそうですが、阪本順治らしい撮影の工夫がみられ、カラーとの切り替えも上手いです。あれだけ全編クソまみれなのに美しいと感じることができるのはスゴいですね。
武士のしきたりが残りつつも、身分差や偏見のない「せかい」への希望がみえる江戸末期という時代を捉えた秀作です。

吉原
江戸末期の汚穢屋(便所のくみ取りを職業とした人)を題材にした作品。全編ほぼモノクロで描かれていましたが、一部のシーンではカラーが使われていました。糞便を豪快に映し出すためにモノクロが使用されたのか、それともノスタルジックな映像にしたかったためなのか、その意図ははっきりとしませんでした。
今ではボットン便所も少なくなり、このような職業の人々がいたことを認識しない時代になっていますが、映像で見ると本当にすごい職業だと感じました。ヴィム・ヴェンダースの「PERFECT DAYS」では公衆トイレの清掃をする人が描かれていましたが、どちらも非常に良い題材だと思います。
物語はあまり多くを語らず、淡々と進んでいきます。おきくと中次が惹かれ合う理由も明確には示されませんが、こうした静かな感情のやり取りが好みです。ただ、途中でおきくが声を失うという展開については、題材として少し盛り込みすぎかなとも思いました。もともと静かな話なので、この要素が展開上、必要だったのかは疑問です。
汚穢屋を演じた池松壮亮さんの演技は素晴らしかったです。彼がメインで出演している映画はあまり観たことがありませんが、有名どころの作品には手を出してみたいと思いました。

<おわりに>

 阪本順治監督が手掛けた江戸を舞台にした人間喜劇です。汚物がかなり出てくるので観るタイミングに注意です。

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