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電子自動化と陽気なギャングたち

実家の庭でバイクを修理していたら、見慣れない車がズイっと敷地まで入ってきた。
中から満面の笑みで叔母が手を振っている。

姉である母に会いにきたのであろう、自分が会うのは2年ぶりくらいだ。


相変わらずの陽気さで、降りてくるやお前は舞台に興味あるか、
実は好きな俳優の舞台チケットを2枚購入したが急用で行けなくなった、
友人にあげようとしたが年末公演なので既に別予定が入っている者ばかりだった、
コロナの心配はもっともだが感染対策は充分なようだ、
1枚だけ使って一人で観るのもアリだ、いやそれは寂しいかと
寒空の下でまくしたてる。


まぁとりあえず、と居間に招いたら今度は母と叔母が揃いのネコポスをバリバリと開封し始める。
そして「手続きがわからないのよ困っちゃうねウフフ」と、何やらPCR検査キットに関する用紙をこちらによこす。


なにかWEB上での手続きが必要なのだろうが、その後は何を聞いてもニコニコと不思議な回答ばかり。

私達姉妹は祖母の看病をしに他県へ帰省するため、PCR検査を受けたい。
こちら側からのヒアリング、いやもうプロファイリングの域で情報を集めてようやくそれが判明した。



叔母や祖母には子供の頃からかわいがってもらっているし、2人からも命令ではなくお願いの姿勢は感じる。

私としても日頃、年配者には難解な有料オプションサービスを見た時などは
なんともいえなず切なくなったりもする。


けど…こちらがPCRを申し込んでいる横で「物忘れ」をテーマに変な合唱をしたり、満腹という声を遮って山盛りイチゴを4度も勧めてきたりするのが身内ではなくお客様だとしたら、手続きを代行する方はさぞ大変だろう。


しかも母は性格上、不明な請求を嫌うので家電量販店や携帯ショップもシビアな電卓を叩かれているはずだ。
まったく割に合わない。

きっと自動化が進み、便利と不明点が溢れる世になったとしても、
彼女達は開き直りと冗談の精神で元気に渡っていくのだろう。



結局15分ほどで申し込みを終えて2人から称賛を浴び、
続けざまに井戸端マシンガンも浴び、
「またわからなくなるはずだから連絡する」と謎の予告をされつつ解放された。

三日月を見上げ、そっとバイクにカバーをかけた。




これも令和のカラーなんだろうな。
いや、婆さんって昔からたくましい生き物か。

そんなことを思いつつ身をよじり、豪快に停められた叔母のプリウスを避けながら帰路についた。

サポートしてくださる方、心から感謝を申し上げます。 頂いたお気持ちを私達がどのように活かしたのか、記事でご報告させていただきます。 距離が義務付けられた時代に親愛の手を伸ばしてくれる貴方へ、2人から愛を込めて。