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【#雨は五分後にやんで】いつの時代も言葉と空は

起きて空を見上げてみた。
今日も雨だ。
もう感覚が麻痺しつつもある。
あの日から、最初に振り出したあの日から
雨は降り続けていた。

100日。
もう数えるを止めてしまったけど、
恐らく100日か、それ以上は雨のままだ。

そんな毎日でも、わたしは今日という日を
すごくすごく楽しみにしていた。
『雨は五分後にやんで』という名のフェスティバル。
見に行くために久しぶりの外出。

まだ晴れていた時の昨年のフェスティバル。
『異人と同人』の感動を忘れられない。
伝説のフェスティバルだった。

あの時の想いをまた。
もう昨年には戻れない。
それでも、こんな毎日に、
この沈んだ気分を照らし続けていた一筋の光。
どれだけ今日のこの日を待ちわびた事か。

久しぶりに着るズボンや洋服は一回り小さくなっていた。
それでも無理やり押し込んで、ぼぅとしていたら
時計が瞳に飛び込んだ。

支度をのんびりとしすぎていたらしい。
食べ損ねた朝食の代わりに冷蔵庫から
瓶のドリンクを取り出し、慌てて家を出る。


ギリギリで間にあった。
会場に到着すると入場5分前だった。

列は、かなり後ろになってしまったけど、仕方がない。
今日のフェスティバルを楽しむことができれば、それで私は大満足だった。

売店でコーラとホットドッグを買って席に座る。
席の感覚はゆったりとした幅が取られている。

やがて、ブザーが鳴りだんだんと照明が落ちてきた。
そう、懐かしいこの感覚。いよいよ、はじまるのだ。

1作目『あの僕の蒼を』が始まった。
取りの『東国の櫟』まで
今日の日を思い返せるように感想のメモを残しておく。

* * * * * * *

1、あの僕の蒼を
作者:浅生鴨

浅生鴨さんが浅生鴨さんである、そのような作品。
私は朱に染まる事を強要していないだろうか。
私は朱に染まりきっていないだろか。
内を見つめてみる。作品を見て考えた。


2、五分だけの太陽
作者:高橋久美子

『銀河鉄道の夜』のような世界観。
著書に絵本『あしたが きらいな うさぎ』が五月に発売されたばかりだけど、
読んでみたくなった。
脳裏に流れる15分の短編映画に登場人物がいきいきと躍動する。
そんな世界がどこかにあるような。


3、五分マン など 5作品
作者:ゴトウマサフミ

前作の『異人と同人』でもそうだったけど、
ゴトウマサフミさんの1ページ漫画が本気で好き。
『雨は五分後にやんで』にも五分マンを含めて全部で5作品ある。
幸せ。もうどれも好きだけど『そいつがルパン』と『まだない』が特に面白い。


4、ツーストローク
作者:山本隆博( @SHARP_JP )

王道の文芸作品。一人称が『ぼく』で統一された小説の世界観に
私には『夏目漱石』の姿が重なった。15分の短編映画。文豪作家が奏でる15分。
私は、もっと小説が読みたい。短編集でも長編でも。
終わったら探しにいきたい。


5、昼の個室に座って
作者:永田泰大

『ユーモア』と『敬意』
敬意の対象は、小説に出てくるような
『清掃の方々』や『今まで働いたビル(移転前)』そのものや
『一緒に働く社員さん』
主人公『ぼく』が登場するシーンに笑ってしまった。
そうきたか。面白いなぁ凄いなぁ。


6、啓蟄の日、きみに問う
作者:野口桃花

野口桃花さんの作品らしい、まっすぐな優しい世界観。
唐突に出てくる関西方言の文体も良い。
啓蟄は虫も花も春の到来を祝うかのように
姿をみせる時期。世界は様々な色で溢れている。
この作品にも様々な色がある。優しく美しい。


7、ピンクの象が窓から
作者:小野美由紀

短編映画。しっかりと作り込まれた短編映画。
この独特のSFと現実を繋ぐ世界観は凄いと思う。
私にはピンクの象が見えるだろうか。
見えてこないものは生み出すことはできない。
見えてこないものは書くことができない。


8、かえってきたうちゅうじんさぶろうさん
原作:田中奏延
漫画:浅生鴨

強い(笑)。前作『異人と同人』の強烈な再現。
かえってきちゃったよ。
私の大好きな漫画『こち亀』で原稿を燃やしてしまい、
残りの少ないコマで無理やり漫画にする話がある。
これは、憶測だけど全ての原稿が揃ってから、
ページの残りを合わせる為に後から浅生鴨さんが作っていると思う。


9、生活
作者:岡本真帆

岡本真帆さんの様々な短歌。
私が好きなのは、
『美しい付箋を買った美しい付箋まっすぐ貼れない私』と
『何者かにならなきゃ死ぬと思ってた三十過ぎても終わらない道』
美しさ、儚さ、希望。短歌も小説もあってこの本は素晴らしい。
表現の多様性。


10、坂井、殴る。
作者:今野良介

家族愛に溢れている小説。
『音楽が人生に与える影響』は、やっぱり大きいと思っている。
歌詞や音が作る世界観、自分自身が何で構成されているか。
私は家族と音楽の比率が高い。
思い出に流れる音楽。短編映画。自伝的映画。アガペー。


11、いつかの道を車で
作者:浅生鴨

僕はいつだって、集中と決断ができない時があって、
思い切って踏み込んでジャンプすれば楽なのに、
その決断ができなくて、できない自分を責めることがまた嫌になる。
風景と思い出は一緒にあってその場所に行くと思い出す。


12、米ンドフルネス~米粒の気持ち~
作者:山田英季

妄想をする時がよくあって『物や植物や絵』などの
『話さないもの』に言葉があって話かけてきたら、
たぶんこんな風に考えているだろうと思ってニヤニヤしている時がある。
たぶんそれは愛。米に語りかけてみる。


13、ナンバークロスワード 時のパズル
作者:山下哲

『ジカン』からはじまるクロスワードパズル。
挑戦もできていなくて申し訳ない。
印刷して、実際に挑戦してみたい。
山下さんは、渋谷のほぼ日の北の国から展でお会いできた。
次にお会いできたら色々と話してみたい。


14、耳をすませど
作者:スイスイ

脳が痺れる。
前作『異人と同人』もそうだったけど
スイスイさんの映像化への透明度が凄すぎる。
流れる映像とライブの歌声が脳で反芻する。
愛と青春、愛とオーロラ。

スイスイさんのページの裏にある詩は
誰が書いたものだろう刺さる。


15、なにしよん
作者:今泉力哉

恋愛映画を撮影することが多い今泉監督の小説。
会話のやり取りだけで6ページに跨がる、
長回しの1シーンなどが脳裏で映像化された。
個人的に昔の自分との共通点もあって
やっぱり恋愛映画。恋愛小説。
あの時の私は何してるだろうか。


16、できたものしか見ない
作者:浅生鴨

自分の仕事はIT系にも分類されるのに、
私には時代錯誤な所があって
合理化だけでは無い行動をする時がある。
人と会うことを大切に思ったり。
メールなら簡単なのに。
自分の中の美学を見つめよう。
それが品格。生き方。


17、ヴォルケ森の虹トースト
作者:小野美由紀

小野美由紀さんの作品で漫画。
優しい絵本のような世界観。
遠い星の物語。大切にするものは何か。
最後のページ『編集部からのお知らせ』が面白い。
続きは『異人と同人Ⅲ』で見られるだろうか。
連載希望したい。


18、黒船襲来!
作者:河野虎太郎

思わずニヤリとしてしまう皮肉やユーモア。
それでも読んでいる人は、これはあれで、あれはこれでと
映像化しながら私と同じようにニヤニヤしていると思う。
サゲがまた凄く良かった。
脳裏に浮かんで笑ってしまう。テレビと報道、問題点。


19、走馬灯をコントロールしたい
作者:幡野広志

幡野さんの死生観、やっぱり凄くて。
私も本や連載を見て幡野さんを知る前と後だと
死生観が大きく変わっている。
もっと自分に素直にやりたいことを。
何を大切に生きるか。学ぶことが本当に多く今回も。


20、季節違いにナイフ
作者:よなかくん

スイスイさんが発売前から絶賛されていて、
楽しみの期待値が上がっていたにも関わらず
大きく飛び超えていった。凄すぎる。
この作品がビタっとハマるツボの人はきっと多い。
そんな人には凄い衝撃だと思う。


21、特殊と一般
作者:浅生鴨

誰が言葉を作っているのだろうか。
『不要不急の外出を避けて』というが今いち分かりにくい。
食料品買い出しや通院・診療など生命維持に
重要な支障をきたすもので無い限り
自宅にいてくださいの方がわかりやすい。
言葉を飲み込む努力。


22、浅生鴨さんに5分間で訊きたい50のこと。
作者:古賀史健

古賀さんが浅生鴨さんにインタビューしている記事。

好きなものに
たこのお寿司とか。
筒井康隆さんとか。
えび満月とか今まで聴いた物もあれば、
新しいことも色々とわかった。
異人と同人Ⅲも楽しみ


23、北極星の日々
作者:岡本真帆

岡本真帆さんの様々な短歌。
『誕生日の数字の秘密を暴いたと月の浮かんだ塾の階段』
『無駄こそがすべてと思う消えていく雲に名前をつける夕暮れ』
凄いなぁ。綺麗だなぁ。
情景が浮かぶ。
他の星は移動するが移動しない北極星。


24、リベットと鞄とスポーツカー
作者:浅生鴨

浅生鴨さんの『リベットと鞄とスポーツカー』の小説は
著書『だから僕はググらない』でも紹介されている
『9マス』の方法で作られた小説だと思う。たぶん。
中心を考えると予想は【事件】
→失踪→疾走→スポーツカー
事件→身代金→鞄
事件→締め→リベット


25、どん兵衛四天王
作者:ちえむ

めちゃくちゃかわいいイラスト。
『漫画家ちえむ』さんが浅生鴨さんの呟きに
即興で書いたイラストが凄い。
日清食品さんは公式でお仕事の相談依頼しましょう。
ファン開拓できます。
連載漫画書かれているみたいなので、後で読みに行く。


26、東国の檪
作者:高島泰(田中奏延)

どのぐらいの1次資料にあたったのだろうか。
【理】とは何か。人生観と想い。

感激した。嬉しかった。小説を読むことができた。
前作『異人と同人』もしも印刷が間に合えば
私はこの物語をもっと早く知っていただろうか。
正史と演義。
これからも読むことができるだろうか。

居敬窮理、姿勢が大事だ。

* * * * * * *

取りの『東国の檪』が終わると、
あとがきとエンドロールが流れてきた。
このフェスティバルの参加作者(異人)の紹介だ。

エンドロールが流れるのに合わせて、うたが聴こえてくる。
このうたは、「にじ」だ。


庭のシャベルが一日ぬれて 雨が上がってくしゃみを一つ
雲が流れて光が射して 見上げてみればラララ

気づけば、私も歌詞を口ずさんでいた。
ひとり、またひとりと口ずさむ歌詞。

それは会場全体で合唱になった。


虹が虹が空にかかって 君の君の気分も晴れて
きっと明日はいい天気 きっと明日はいい天気


この雨はいつか、止むのだろうか。
それでもきっと、その日を信じて。

エンドロールも、聴こえていた「にじ」のメロディーも終わり
最後の文字が流れ終わっても会場の照明は点灯しない。

唐突に大きな一行の文字がスクリーンに表示された。
一番最後の最後に私たちに向けられたメッセージ。

暗闇の中、しかたなく席を立ち出口に向かい
歩き出そうとした人の足が止まる。

パチパチ。どこかから拍手が聴こえる。
パチパチ。パチパチ。会場に響く拍手の音。
そしてそれは大きく会場を包み込んだ。

どれぐらいの余韻を楽しんだのだろうか。
会場を名残惜しく出た私は空を見上げる。
変わらず雨は降っている。
でも。それでもきっと。

いつの時代も空はそこにあって、
多くの人が空に映る景色を想いを伝えたいと思う事があって
空に映る景色に想いをのせて、言葉で伝えて。

空も言葉も、わたしは明るいものにしたくて
この空をみて、あの人はどのように感じるだろうか。
いつの日にかまた、同じ場所で同じ景色をみて言葉で直接に伝えられるだろうか。


虹が虹が空にかかって 君の君の気分も晴れて
きっと明日はいい天気 きっと明日はいい天気


「にじ」を信じて、その日を信じて
わたしは呟くように歌い歩き出した。


空を見つめた。空もまた、わたしを見ていた。

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