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【短編小説風】3人寄ればいつまでも

2016年の春。
26歳の僕は猛烈に体調を崩していた。
よりにもよって、友達の結婚式の前々日に。

結婚式が行われるのは熊本県。
仕事が終わったら、僕は飛行機で東京から熊本に向かう予定だった。

しかし、このままでは空港どころか最寄り駅までたどり着ける自信もない。
仕事を終えた僕はなんとか近くの病院に向かった。

受付を済ませ、検温すると”38.8”の文字。
数字を見た瞬間、自分の体が更に重くなるのを感じた。

診察室に入った瞬間、僕は医者に懇願した。

「死んでもいいんで、明後日までに熱が下がる薬ください!」

優しそうなお医者さんは、困り顔で解熱剤を処方してくれた。
僕は解熱剤と荷物を手に、必死の形相で空港に向かった。

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「本当バカだな、お前」

前日の医者との会話を話すと、雄介はゲラゲラ笑った。
こっちは死ぬぐらい辛かったというのに、失礼な奴だ。

頭痛は残っていたけど熱は下がったので、友人の雄介と合流して馬刺しを食べに来た。雄介は中学1年生からの付き合いで、親友だ。
今回の結婚式に、僕と一緒に新郎側の友人として参加することになっていた。

「しかし、あの佃田が結婚か。時間の流れは怖いなあ」

雄介の言葉に、僕は思わず頷いた。

佃田は、僕の高校の中では比較的やんちゃなやつだった。
お坊ちゃん揃いの僕らの学校で、ケンカや器物破損でしょっちゅう呼び出されていた奴なんて他にいない。

僕と雄介と佃田は、高校3年間同じクラスだった。
そんな腐れ縁もあって、いまだに仲が良い。

佃田が医療系のメーカーに入社し、3人の中で一番早く結婚するなんて当時は誰も想像していなかった。

僕はどこともなく呟いた。

「人って変わるんだよな、やっぱ」

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結婚式は楽しかった。
佃田の結婚相手は、彼には勿体無いくらい素敵な女性だった。
写真でしか見たことないはずの僕らの名前を完璧に覚えていて、フレンドリーに話しかけてくれた。
二人はきっといい夫婦になるだろう。

けど、何より驚いたのは結婚式での佃田の様子だった。
新郎挨拶をそつなくこなす彼の表情は、僕が知ってるものよりずっと大人だった。

「しっかりしたなあ」

僕が思わずそう呟くと、雄介はこう言った。

「…ほんと、人って変わるんだな」

僕の勘違いじゃなければ、雄介はちょっと寂しそうだった。

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2次会が終わって、僕と雄介はどこに行こうか迷っていた。
佃田は会社の同僚たちにすっかり囲まれてしまって身動きが取れなさそうだったので、僕らは少し離れた場所に移動してお店を探していた。

すると、派手なスーツの男が猛スピードでこっちに走ってきた。

「なんで逃げたんだお前ら!?」

佃田だった。
というか、二次会終わって言うことがいきなりそれかい。

「いやいや、俺らは気を遣ったのよ。お前が同僚の皆さんに囲まれてたから」

気持ちを雄介が代弁してくれた。さすが親友。
佃田は雄介の言葉には答えずに、僕らに質問を投げかけてきた。

「お前ら、何で俺らがずっと一緒のクラスだったか知ってる?」

雄介が僕を見る。僕も特に思い当たることがなかったので、首を横に振った。
すると佃田が、ニヤッとしながら答えを教えてくれた。

「あれ、先生が仕込んでたんだってよ。お前らといると俺が大人しくなるからって」

その話は初めて知ったけど、理由には合点がいった。
確かに、佃田は僕たちと一緒にいるときは悪さをしなかった気がする。

僕は、頭に浮かんだことをそのまま口に出した。

「なんで佃田は俺らといるときは大人しかったの?」

佃田は何言ってんだこいつ、といわんばかりの表情でこう言った。

「そんなの、お前らと話してる方が楽しいからに決まってるだろ」

僕と雄介はキョトンとして顔を見合わせた。
佃田は、そんな僕らを気にする様子もなく言葉を続ける。

「お前らが急にいなくなるから困ったわ。俺同僚苦手なんだよ…別にいつでも会えるし、今そんな話したくないし」

それを聞いて、雄介が噴き出した。
連られて、僕も笑い出す。
今度は佃田がキョトンとする番だった。

「なんだよ、急に」

僕は、笑いをこらえながら答えた。

「いや、お前ちっとも変わってないなあと思ってさ。自分勝手なところが」

それを聞くと、佃田は「うるせえな!」と笑った。

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時間が経てば、人は変わっていくだろう。
僕も、周囲から見れば昔と違って見えるのかもしれない。
もっと歳をとれば見た目も変わるだろうし、行動や発言も落ちつくのだろう。

でも。
3人で集まれば、いつまでもあの頃に戻れる気がする。

あの頃の思い出だけは、今後一生変わることはないだろう。
3人寄れば、いつまでも。

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