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神様でも許さない。強い想いが滲むMr.Children「永遠」

Netflix限定配信作品「桜のような僕の恋人」主題歌。
この映画のための書き下ろし楽曲であり、先日発売されたベストアルバム『Mr.Children 2015-2021 & NOW』で初めてCDに収録された。

しかしまあ、よくもここまで作品に沿った素晴らしい楽曲を作れるものだと思う。

「桜のような僕の恋人」は、ある青年と人より早く年老いていく”早老症”を患ってしまった女性とのラブストーリー。

脚本を読んで世界観を浮かべた時、この曲を生み出すことができる。紛れもなく、桜井和寿は天才なんだと思う。

ただ、まず注目すべきはイントロとアウトロ。
つまり編曲なわけですが。
ここを手掛けたのがもう一人の天才・小林武史。

この曲のイントロとアウトロ、驚くほど楽曲にぴったりハマっている。
でも、実は曲の中に出てくるメロディをなぞっているわけではなく。まったく別個のメロディなのだ。

にも関わらず、なぜこんなに曲に調和しているんだろうか。
これはもう、ひとえに小林武史がすごいとしか言えない。

そして、その素晴らしいイントロに続くAメロ。

桜舞う遊歩道
花火あがる夜の浜辺
ヒラヒラ キラキラ
記憶の中で光ってる

この辺りの歌詞は、映画の筋によく沿っている。
物語の序盤から半ばに登場する主人公二人のデート風景そのものだ。

レンズを向けるたび
顔を背けていたのは
照れてるだけだと
理解しようとしてきたんだ

“レンズ”は、映画でもキーワードとなる。
映画で中島健人が演じた主人公・晴人はカメラマンであり、カメラや写真は物語の中でも頻繁に登場する。

歌詞的に言うと、最後の「理解しようとしてきたんだ」がうまい。
この一言だけで絶妙に不穏な空気が漂う。

独りきり
シャッターを押す人差し指
そのレンズの先には
必死で何かを僕に伝えようとしてる
あの日の君が見える
一瞬でさえも逃したくなくて
夢中で追いかけるよ
今はもう
ここにはいない君の笑顔を

このサビ。メロディも歌詞も素晴らしい。

まず、”ひとりきり”という部分のメロディの持つ意味合いがすごいと思うんですよ。
壮大なサビに向けての助走というか、美しい繋ぎの役割を果たしてますよね。言葉にするのが難しいですけど、グワっと上がっていく感じ。

桜井氏のファルセット混じりの歌唱も美しい。
低音と高音、一聴しただけではどちらが主旋律か分からないようなハーモニーは、まるで分岐していく主人公二人の運命を暗示しているよう。これも編曲の小林武史の仕事なんだろうか。
どういう制作過程でこのアレンジにたどり着いたのか知りたいものである。

君を知る人から
君について聞かれるたび
どうしていいのか
その場から立ち去るだけ

2番では、ヒロインがこの世を去った後の主人公の人生が歌われる。

語らえば語らうほど
気持ちから遠く言葉は無意味になる
強力な恋の魔法がまだ解けてないから
幸せとすら感じる

2番Bメロは逆説的な表現。

亡くなった彼女のことを語る時は、当然幸せな思い出ばかりが溢れてくる。
それは主人公が感じている絶望とは似ても似つかないもので、言葉だけが一人歩きする。
幸せな思い出を語った言葉が浮遊している間、主人公は幸せすら感じてしまう。
なぜなら、『強力な恋の魔法』がまだ解けていないから。

僕はこんな感じに解釈しましたが、人によって捉え方は微妙に違うでしょう。ただ、ニュアンスはほぼこの方向性に近いんじゃないでしょうか。
細かい解釈は人によって分かれそうだけど、要旨は同じに捉えさせるという匙加減が非常にうまい。

そして、この曲の歌詞の中で最も注目すべき場所がラスサビ前。いわゆるCメロです。

時は行き過ぎる
そこになんらかの意味を
人は見出そうとするけど
冗談が過ぎる
たとえ神様であっても
死ぬまで許さない

この歌詞、中々に挑戦的です。
「たとえ神様であっても死ぬまで許さない」

ここまで神に喧嘩を売る歌詞、これまでJ-POPの長い歴史の中にもあんまりなかったんじゃないかな。
というか、ミスチルほどのビッグネームになるとここまで思い切った歌詞って世に出しづらいと思うんですよ。

でも、この言い切りによってこの楽曲における主人公の置かれている状況や絶望感が浮き彫りになる。
時の流れの理不尽さに対する怒りが、これでもかというくらいに伝わってきます。

2番のサビで登場する

凄いスピードで逝ってしまう君に
必死で追い縋る

という歌詞も中々に直接的で、耳心地の良いいつものミスチルの歌詞とは一線を画しているイメージ。

このように、歌詞ではかなり強い表現が用いられている本楽曲ですが。
美しいメロディと柔らかい雰囲気のボーカルワークがそれをうまく和らげており、一聴するとそこまで尖った曲には聴こえません。
この辺りのバランス感は、さすがヒットメーカーたる所以。
映画主題歌という外してはならない場面でぴったりな主題歌を提供しつつ、しっかりとバンドとしての自己表現をしているのがプロの技というか、大人の余裕というか。

ミスチルが死別を歌った名曲といえば2017年の「himawari」がありますが、「永遠」もそれに勝るとも劣らない出来。

デビュー30周年でこんなに若々しく挑戦的で、それでいてちゃんとメインカルチャーど真ん中を外さない曲が書けちゃうのはやっぱすごい。ベテランの凄みです。


この曲が主題歌となった「桜のような僕の恋人」のレビューはこちら。


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