B'z「LOVE PHANTOM」の魅力を末代まで語り継いでいきたい
J-POP史の中でも燦然と輝く大傑作を語らせてほしい。
今年活動35年を迎えるB'zの楽曲の中で、最も完成度が高いと思わされるのがこの曲。
本当、一曲通して完璧な構成です。
まず、この曲と言えば1分30秒あるイントロですよ。
『イントロの壮大さランキング』みたいなものがあれば殿堂入りだろ。
オペラとか始まるんじゃないの?っていうぐらい壮大なコーラスと不気味なギターサウンド、そこに絡んでくるストリングス。
醸成された荘厳な雰囲気に不穏なピアノサウンドが入り込み、曲の雰囲気をドラスティックに変えていく。
男性による英語の語りが始まると、そこに歪んだギターサウンドとドラムが参加。一気に楽曲の持つスピード感が加速していく。
やがて「LOVE PHANTOM」というタイトルフレーズが呟かれると、満を持して稲葉の力強いボーカルが殴り込み。
しかも、いきなりサビ。リスナーの盛り上がりが最高潮に達した時、TAK先生渾身のキャッチ―なサビメロがこちらの耳を打ち抜くのだ。
…イントロだけで300文字も語ってしまったぞ。
ほら、聴きたくなってきたでしょう?笑
そして、このサビに稲葉氏が乗っける歌詞がまた良いんですよ。
何せ、こんな破壊力抜群のメロディに
ですからね。
冒頭からいきなり自暴自棄の頂点。
この曲の主人公、相当溜まっちゃってます。
魂が君(おそらく主人公の想い人)を探し彷徨ってますし、時間を止めて叫びたがってる。要するにもうヤケクソ状態。
挙句の果てには「僕を全部あげよう」ですよ。
相手が欲しがってるかどうかを確認したのかが気になるところ。
パンチのあるサビに続くAメロはサラッとしたフレーズなのに、なぜかメロディはしっかり覚えやすい。
歌詞は何気ない感じですけど、結構メッセージ性が強いです。
まず、これだけ壮大な楽曲に「せわしい街のカンジ」というTHE・コモンセンスな歌詞をぶち込む稲葉氏の小市民感が(いい意味で)ヤバい。
普通ならメロディに引っ張られて大きなことを語ってしまいそうなんですけどね。これが彼の歌詞の素晴らしいところです。
個人的には、『途中の人』というワードがポイントだと思っています。
『夢に向かい交差点を渡る』、つまりまだ夢までまだ道半ばである人を『途中の人』とカテゴライズしているわけですが。
これは、主人公の『夢』がもう終わっていることを示唆しているんじゃないでしょうか。
ここにおける『夢』とは一体何なのか。
僕は、『好きな人に会いに行くこと』だと解釈しています。
主人公は、もはや自分の『夢』を叶えることができない。
それは、想いを寄せている人との関係が既に破綻しているからなんじゃないかと思います。
2回目のサビでは、彼女と付き合っていくうちに暴走していく主人公の内面を描写。
『ふたりでひとつになれちゃう』、これは肉体的にも精神的も、という意味だと思うんですが。
主人公はヒロインと一緒にいる多幸感に溺れるうちに、少しのズレも許せなくなっていく。
二人の気持ちがぴったり一緒な完璧さを求めるようになってしまっているんですね。
サビに続くのはラップのような早口歌唱のパート。
ここでは、主人公のヒロインに対する依存具合が際立つワードが並ぶ。
『君がいないと生きられない』
『ねえ、 2人でひとつでしょ』
この辺り、言われると怖いと思う人も多いはず。
稲葉氏はサラリと歌唱していますが、割とドギツい内容。
さらに、このパートの直後に女性のコーラスで
というフレーズが入っています(カッコ書きは歌詞カードのまま)。
これ、稲葉氏が歌う男性ボーカルへの返答という形になっているんですよね。
つまり、主人公の狂信的な執着に彼女が限界を迎えていることを示しているわけです。
しかし、主人公は構うことなく彼女への想いを叫び続ける。
ヒロインの存在が主人公にとっていかに大きいものか見て取れる歌詞。
『花』とは、”生きがい”の比喩でしょうか。
『濡れる体』『溶けてしまうほど』というワードが並ぶと、どうも性的ですけど。
ただ、この時期の稲葉氏の歌詞って基本ちょっとエロティックなので。
別に、主人公と想い人が昼も夜もセックスしていたという表現ではないと思います。笑
ここで言いたいのは、主人公が愛していた相手は『昼も夜も離れずに』いれる程相性が良かったということ。
そんな時間を一緒に過ごしたはずなのに、今の相手の気持ちは知ることができない。
だからこそ、『あの時間ってホントだったのかな?』とまで思ってしまっているという。切ないですね。
やがて、『君の名前』を叫ぶことで魂が肉体を抜け出し。
カラになった主人公の体が街を歩いていく。
ここ、何気に凄い表現ですよ。
日本に失恋や悲恋の曲は多いと言えど、魂が飛び出した挙句残された体が勝手に街を歩くという歌詞を書いたのはこの人ぐらいなのでは?笑
この後はTAK先生の見せ場、ギターソロ。これも良いんです。
ゴリゴリに早引きで引き倒すんじゃなく、シンプルにフレーズのカッコよさで魅せているのが素晴らしい。
落ちサビの歌詞こそ、この曲のキモだと思っていて。
愛することを忘れて自分のことばかり考えて生み出してしまった『万能の君の幻』。
これこそが「LOVE PHANTOM」の正体、ということなんでしょう。
やや大げさな表現ではありますけど、これって誰にも結構ありがちなシチュエーションだと思います。
好きな人の存在を美化し、それにどんどん依存して。
なんでも自分の思い通り、理想通りになってくれることを期待するようになる。
結局、主人公は最後まで報われることなく。
『僕を全部あげよう』と己を捧げ続けますが、身を亡ぼすかのような激しいギターソロの後途切れるような印象を残して楽曲は終わる。
今のヒット曲も失恋ソングは多いですけど、ここまでしっかりしたバンドエンドって中々ないでしょう。
この曲は切なさというより、破滅的な衝動の方が目立ちますからね。
通常のヒット曲のフォーマットには全く乗っかってないわけです。
こんな楽曲が186万枚も売れちゃうのが、B'zが持つアーティストパワーと90年代という時代が持っていたエネルギーの凄さですよね。
冒頭でも書きましたが、この曲はB'zの最高傑作のひとつでありJ-POPの歴史にも残るであろう名曲です。
B'zに興味がない方でも、この曲だけは聴くことをおススメします。
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