「18、19の時付き合ってた人と結婚する人って多いよね」
大学生の時、付き合ってた彼女に言われた言葉。
結局実現することはなかったけど。
彼女とは、大学時代に同じ部活に入ったことがきっかけで出会った。
ただ、出会ってすぐ好きになったわけじゃない。
一緒にいるうちに彼女の優しさや笑顔に触れて。
いつの間にか好きになっていた。
大学で初めて出会ったけど、お互いの家が歩いて10分ぐらいのところだったことにも運命を感じた。
大学2年生の春。
出会ってから9ヶ月程経った頃、僕は彼女に告白した。
場所は、彼女の家の近くの公園。
女子校育ちの彼女は、告白されたのが初めてだったらしく。その上、僕の気持ちに1mmも気付いてなくて。
両手で顔を抑えて照れていた。
1週間後、彼女に呼び出されて言われた。
「多分、oilくんの気持ちが100だとしたら私の気持ちは60ぐらい。それでも大丈夫?」
すげー質問だな。
本当にカッコ良い男なら、多分「60の気持ちなら付き合っちゃ駄目だ」っていうかもしれない。
でも、僕も当時は若くて見苦しかった。
だから、彼女の返事にこう答えた。
「今は60でも、俺がいつか100にするよ」
そう答えると、気まずい沈黙が訪れた。
カッコつけ過ぎてスベったのか。
当時はそう思ったけど、もしかしたら彼女は断るつもりで自分の気持ちを60だと言ったのかもしれない。
僕は沈黙に耐えられなくて、もう一言足した。
「それに、俺の気持ちさっき100って言ったよな?」
「うん」
「もっとあるから…6万ぐらい。いや、6億かも」
今考えたら、我ながら更に恥ずかしいことを言ったなーと思う。
でも、彼女はクスクス笑ってくれた。
僕の出した数字があまりに右斜め上過ぎて面白かったのかもしれない。
そして、こう言った。
「6億なら、幸せになれるかもね」
こうして僕らは付き合うことになった。
それから、2人で色んなところに行った。
地元の公園や百貨店。
京都では一番の都会、四条河原町。
神戸の中華街。
大阪の色んなところ。
USJ。
そして、2人で行った東京旅行。
学生でお金がなかった僕らの交通手段は夜行バスだった。
帰りのバスの座席に座った時、彼女が何気なく言った。
「18、19の時付き合ってた人と結婚する人って多いよね」
その言葉を聞いた時、僕は死ぬほど嬉しかった。
僕の6億の気持ちが届いて、彼女の気持ちが100になった。
そんな気がした。
彼女を幸せにできるのは、きっと僕だけだ。
そう思っていた。
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彼女とは、その後1年半ほどで別れた。
付き合った期間は、トータルで3年ぐらい。
別れのきっかけは、まだ子供だった僕にはどうしようもないもので。
直接会うこともなく、あまり良くない別れ方をしてしまった。
それから3年ほど経った頃。
彼女が結婚したと友達から聞いた。
僕は安堵した。
彼女は、今も幸せに生きている。
そして、思った。
「18、19の時付き合ってた人と結婚しなくて良かったね」と。
彼女を幸せにできる人は、ちゃんと僕の他にいたのだ。
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実家に帰ると、彼女に思いを伝えた公園を通りがかることも多い。
僕が彼女に告白したベンチには、子供がいたり親子がいたり、カップルがいたり。
遊具も建て替わってしまい、見える風景も随分変わった。
それでも、その景色を見る度に思い出す。
あの時感じた喜び、悲しみ。
嬉しさ、寂しさ。
瑞々しい感情と記憶。
あの日、あの時。
僕の6億の気持ちは、間違いなく彼女に向かっていて。
彼女の100の気持ちは、きっと僕に向けられていた。
その事実だけで僕には充分。
初恋でも、最後の恋でもない。
未練がある訳でもない。
実際、その後何度か恋もした。
でも、僕はあの頃の気持ちを忘れないと思う。
彼女は、人を好きになることの尊さを僕に教えてくれた。
もう伝えることはないだろうけど、今ならあの時言えなかったことが言える。
僕と付き合ってくれて、ありがとう。
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