ロック詩人・稲葉浩志(B'z)の歌詞の世界〜友情編〜
B'zは2人組である。
だからこそ、友情を描いた歌詞が真に迫るのかもしれない。
稲葉浩志の書く歌詞は恋愛に対してはウジウジしたものが多いのに、友情に関しては非常に男らしく、揺るぎない信念を感じるものが多い。
友情をテーマにした曲はB'zが持つオールドロックなイメージや音楽性と相性が良いため、ファンに人気の高い曲が多くなる傾向にある気がする。
RUN(1993)
周年記念ライブの終盤で歌われることの多い名曲。
後述の「Brotherhood」や「SURVIVE」等にも引き継がれる、B'zのブラザー&サヴァイブ感満載ソングの記念すべき一発目。
終始名フレーズ連発なのでどこを抜粋するか迷っちゃいますが、1番・2番共に「荒野を走れ」と謳うシンプルなサビに繋がるBメロの歌詞が良い。
まずは1番。
時の流れは妙におかしなもので
血よりも濃いものを作ることがあるね
同じ時、同じ瞬間を共有すると生まれる特別な絆ってありますよね。
そんな絆を稲葉は「血よりも濃いもの」と表現。
そして2番のBメロがこちら。
約束なんかはしちゃいないよ
希望だけ立ち上ぼる だからそれに向かって
"約束なんか"はしないって逆説的な表現と、言葉はいらない、同じものに向かって走るだけってシンプルさが男っぽくて良い。
ラストのサビ前のブリッジ部分は神がかっている。
人間なんて誰だって とてもふつうで
出会いはどれだって特別だろう
そう、人間は誰だって普通だ。
出会いが特別だからこそ、人は特別になれるのだ。
さらに続くのがこの名フレーズ。
だれかがまってる どこかでまっている
死ぬならひとりだ 生きるなら ひとりじゃない
ここまでシンプルで真理をついた歌詞があるだろうか。
稲葉はたった2行で人の生きる意味を、つながりの大切さを教えてくれる。
ミエナイチカラ~INVISIBLE ONE~(1996)
超余談ですが、この映像の時僕は会場にいます。笑
「地獄先生ぬ〜べ〜」ED。実はB'zとして初のアニメタイアップ曲である。
夢ならあるはずだ あなたにも僕にでも
Oh 見つかりにくいだけだ 忙しすぎて
この冒頭の歌詞に、既に稲葉の作詞センスの高さが滲み出ている。
別段すごいワードは使われていないのに、この導入のセンテンスがビンビン胸にくるのだ。
稲葉はリスナーのことを否定しない。
夢は誰にでもあると考え、あくまで"忙しくて見つかりにくいだけ"と言ってくれる。こんなに聴き手に対して優しい歌詞があるだろうか。
ミエナイチカラで だれもが強く繋がっている
何も大したことじゃないよ そばにいても離れていても
昨日 今日 明日と 笑顔のあなたはいつでも この胸にいるよ
この歌詞が稲葉の友情観を最も端的に表している気がする。
稲葉にとって友情とは無駄に一緒にいることではなく、距離や時間が離れようと同じ日々を過ごした仲間とは分かち合えるものであるということがよくわかる。
この考えはこの後紹介する「Brotherhood」にも相通ずるものがある。
You've got to be strong
歌詞の中で、主人公は友達に「強くなれ」と呼びかける。
助けるでも手を貸すでもなく、自分の力で立ち上がれと鼓舞する。
I never say die
「never say die」は"弱音を吐くな"という意味だが、ここでは主語が"I"、つまり主人公自身を指している。
これは「自分も弱音を吐かない。だからそっちも頑張れ」という、相手と信じ合う関係にあるからこその力強いメッセージだ。
Brotherhood(1999)
B'z史上1、2位を争う人気を誇るアンセム的楽曲。
たまにはしょーもないハナシで盛り上がろう
言いたいこと言えるから いつも最後は笑顔で別れられる
こういう何気ない関係にある人こそが一生ものの友達だったりするんですよね。
同じ道をゆくわけじゃない
それぞれの前にそれぞれの道しかないんだ
サビで、稲葉は声高に「同じ道をゆくわけじゃない」と歌う。
でもそれは冷たいことでもなんでもなくて、それぞれの人生はそれぞれの前にしかない、という現実だ。
どこかであいつがベソかいて
どこかでおまえがブッ倒れて
どこかでボクがヤケになってる
味方がいないと叫んでいる
みんな生まれも育ちも違ってるし
ベッタリくっつくのは好きじゃない
いざという時手をさしのべられるかどうかなんだ
そう、稲葉にとっての友情は「ベッタリくっつく」ことじゃなく「いざという時に手をさしのべられるかどうか」なのだ。
だからこそ、稲葉は最後にこう歌う。
道は違っても ひとりきりじゃないんだ
本当最高の曲だな、これ。
HOMETOWN BOYS' MARCH(2007)
B'zにしては珍しいシャッフル系の楽曲。
通りを歩けば 誰かに出会う
コンビニ 交差点 バス停
別に どうってことない毎日
冒頭はどうってことのない情景描写。
誰もが自分が生まれ育ったような田舎の町並みを思い出すはず。
もうすぐ おまえは 出てゆくんだよ
ここにゃない 夢かなんか かなえに行くんだろ
ここで珍しいのは、田舎町を出て行く立場ではなく見送る人間が主人公ということ。
例えば、Mr.Childrenの「星になれたら」やマッキーの「遠く遠く」なんかも上京ソングだけど、主人公は街を出て行く側の人間だ。
しかし稲葉は、街に残る方を主人公とし見送る立場の目線で歌詞を書いている。これは非常に珍しい視点と言える。
また、稲葉らしい言い回しの一つが「ここにゃない夢かなんか」の「なんか」の部分だ。
どうでも良い感じを装っている、男らしい"ゆるさ"を演出している。
頭のずっと奥のほうで 同じ景色をもってるやつが
いつもどこかにいる それはかけがえのない本当
稲葉は友情をテーマにした楽曲の中でほとんど綺麗事を言わない。
この歌詞もまさしく「かけがえのない本当」で、同じ景色を見て育った仲間がどこかにいるという事実だけを描写している。
事実だからこそ、聴いている僕ら側にも高い温度で響くのだ。
これまでのB'z歌詞レビューはこちら。
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