いまだにあなたのことを夢に見る
今日、車でちょっと遠くまで仕事にいきました。
帰りにご飯でも買うかと寄った初見のスーパー。知らない町の知らないスーパーって楽しいですよね。意気揚々と入店しました。
ひとしきり店内をうろつき品物を手に取ってレジに並んでいたところ、突然後方からものすごい勢いで順番を抜かされました。
気が付いたら抜かされていた、というわけではありませんでした。抜かされるその1秒前、助走をつけて進む瞬間が視界に左端に入っていたのです。50歳くらいの女性でした。
その女性が、さながらチョロQかのように、一瞬後ろに引いて助走をつけターボ状態でその勢いで私を抜かしていったのです。
なので抜かされる瞬間「あ、抜かされる」と思ったのですがが、そこは相手も手練れのチョロQ、時既に遅しでした。
ちなみにレジは2台あったのですが客の列は一列、いわゆるフォークスタイルですね。その先頭に私は立っていたのですが、先ほどの説明通り、さらっと抜かされました。
ただ、私はそこまで急いでおらず、「まあ、そういうこともあるか」と野生のチョロQに対して寛容な態度をとっていました。つまり何も言わなかったのです。というよりも、初めての土地で起こったあまりのサプライズに、「ああ、ここはそういう土地柄でしたか」と自分に言い聞かせて平静を装っていたのかもしれません。
するとですね、ひしひしと視線を感じるんですよ。私の後ろに並んでいたお客さんたちからの目線を。
(なにスルーしてんだよ)
(お前が注意すんだよ)
(先頭の役割だろうが)
届くんです…直接脳内に…抜かされたものたちの悲痛な声が…
無数の悲しみがそこにゆらゆらと渦巻いていました。その負のエネルギーが一手に私の背中にのしかかってきます。
(はやく言えよ…)
(一番近くにいるんだからよ…)
(先頭の役割だろうが…)
まあ、全部私の幻聴だと言われればそれまでなんですが、どう思います、皆さん。実際これ先頭の役割なんでしょうか。
普通に店員さんの役割だと思うんですけどどうでしょうか。
店員さんが「列お並びください~」って一言言ってくれたら円満に解決するのではないでしょうか。
そんなもやもやを抱きながら、じっと店員さんに祈りをこめていた私。
さて、結果はどうだったのでしょう。
店員さんは若い男の人でした。米津玄師さんみたいに前髪をしっかりめに伸ばした影のある方でした。
見た目に反してハキハキと喋るタイプなどではなく、静かに淡々と最低限の接客コミュニケーションだけをとるタイプに見えました。
正直、注意してもらうことは期待できない…私はもちろん後ろの群衆も同じことを思っていたはずです。
ダメか…とおもったその刹那。
「順番ス…」
米津がつぶやいたその一言がはっきりと聞こえたのです。その瞬間、店内は鮮魚コーナーの呼び込み君すらも黙るほどの完全なる静寂に包まれました。圧倒的緊張感。沈黙。宇宙。虚無。
どれほどの時間が立ったかはわかりません。それくらい永遠に感じられる時間でした。永遠の中で、彼の「順番ス…」はその女性客に届いたのでしょうか。
「あ~~~ん、そうなの?」
そう一言残し、女性客は列に並びなおしていきました。
素直な女性でよかった。変な人じゃなくてよかった。
「そうなの?」ってレジは並ぶものである、ということを知らずに育った人間にしか出ないセリフだったことは気になるけど、問題は解決しました。
米津玄師のおかげで、スーパーの治安は守られたのです。
ありがとう、米津玄師。感謝のピースサインを心の中で彼に送りました。
ようやくレジの順番を迎えた私でしたが、会計のときに電子マネーが使えないことを知り全速力で車に財布を取りに戻りました。
その間、私のレジはストップし、他のお客さんにとんでもない迷惑をおかけしていたのは言うまでもありません。
夢ならばどれほどよかったでしょう。
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