見出し画像

ローローの出エジプト日記③ - タクシーのドアが取れちゃったよ!


画像8

けんいちパンダさん (健一人民熊猫氏) 作


画像1


画像2


画像3



私も大勢の外国人同様に、当初はエジプトに浪漫を感じていました。何しろピラミッドの砂漠国ですから、神秘的な国だと思っていたのです。

しかし残念ながら、現実はそれほどロマンチックではありませんでした。

まず到着した空港には、右も左も分からない"お上りさん"の外国人観光客が出てくるのを今か今かと待ちわびている、目がギラギラしたタクシー運転手たちだらけだったのです。


実は私の父親は

「また留学するならスイスの花嫁学校にしなさい。もしくはどうしても変わった国に行きたいなら、せめてタイかインドネシア辺りにしなさい。」

と娘のエジプト行きを最後の最後まで反対しており、成田空港に見送りに来た時も

「まだ間に合う」とぎりぎりまで引き止め、涙を流しました。

でもどういうわけだが、何が何でもエジプトに留学したかった私は、三つも掛け持ちしたバイト代などを貯めて強行突破しました。

(↑ファラオの霊に憑依されていたとしか思えません。今なら迷わずスイスへ行きます)


しかしいざカイロに到着すると、鼻息が荒いタクシー運転手たちを見て怖くなり

「ああ、父親の言う通りせめてホテルまでの送迎は事前に付けておくべきだった」

と心底後悔し、がくがくぶるぶる震えました。(事前に送迎手配をするなど、海外慣れしていない人がやることで "ダサい"と思っていました...)


ちなみにカイロ空港のタクシー運転手たちは、到着したばかりの外国人観光客を見つけると、

自分がゴールドディガーになった気持ちになります。

そう、外国人観光客がゴールドに見えるのです。

だから私が大きな荷物をいろいろ持って到着ゲートから出てくるやいなや、

「俺の金塊が現れたぞ!」。

一斉に大勢の運転手がドバっと押し寄せてきて、危うく揉みくちゃにされそうになりました。後になってからは笑い話ですが、この時はとても恐ろしかったです。


カイロ空港から市内へ向かうと、意外に道路がよいのに驚きました。

立派な高速道路で、市内に入ると高架や立体交差もあります。だけど、そのうち気づきました。一部だけなんだ、立派なのはほんのごく一部なんだ、と。

主要幹線だって、ただ砂漠を平らにしてアスファルトを敷いただけ。片側一車線で、そこをロバやラクダも走れば、耕運機も走っています。

そして何よりも外国人観光客バスや外国人のVIP政治家が乗る車が通るような道路だけ、ちゃんと舗装されているのです。


カイロ市内を走るバスはどれもドアがついておらず、乗客は今でも落ちそうなほど"ぶら下がって"いました。

窓ガラスのない車や、中にはドアのない車さえもよく見かけました。

タクシーも窓ガラスがないのは当たり前でしたが、ドアが無かったことはまずなく、走行中にドアが外れてしまったことも、さすがにこの漫画の、カイロ到着の時が最初で最後でした。

画像9

↑車を運転する人だけでなく、車を引っ張る/押す人もよく見かけました。(イメージ画像はカイロではないです)


タクシーは走行中にエンストして停まってしまうことさえあり、運転はいつだって乱暴で、信号を無視してかなりのスピードで走っていました。

でもこれは一般の車も同じ。歩行者も信号を無視していました。

どんなにスピードを飛ばす車がびゅいびゅい走ってきても、エジプト人は例え太ったオバチャンでも、よぼよぼの老人でもひょいひょい道路を渡るのです。

バングルズが『Walk like an Egyptian 』という歌を歌っていましたが、あの歌詞の意味がカイロに来てやっと分かりました。

"♪エジプシャンのように歩こう、エジプシャンのように歩こう...♪"

画像12


カイロのタクシーはメーターが動いていないのが当たり前で、よくホテルの入口で目撃したのは、

事前に料金交渉をしていたのにも関わらず、降りる時になって

「もっと払え」と運転手に催促され、弱った外国人がホテルのポーターの仲裁をお願いする。

するとポーターが助け舟を出してくれたのはいいけど、

今度はそのポーターが「手を貸してやっただろ」、と法外なチップを請求し、また揉める...



アラビア語もタクシー料金の相場も覚えてからは、私もだいぶんカイロのタクシーを使いこなせるようになっていましたが、

それでも彼らはいつも

「燃料価格の高さで大変なんだ、大都市での生活費は恐ろしくかかるんだ。子供が大勢いるんだ」

などえんえんと訴え出し、適性料金よりも高い料金を要求するものでした。

よってちょっと短距離をタクシーで移動しよう、と気軽に思っても、

いつだってタクシー利用には時間と精神力と忍耐が必要でした。



運転中のタクシー運転手の喫煙問題(車内は運転手のタバコ煙でモクモク)、そしてセクハラ問題も毎回でした。

こういったカイロのタクシーのトラブルあれこれは、1980年代のガイドブックにも、1990年代そして2010年代に出版されたガイドブックにも細かくあれこれ書かれています。

昔から、カイロに飛んで来る外国人たちはいつだってタクシー問題を抱えていたわけです。



ところで数年前、私はちょっとカイロに飛びました。

空港までは知人が車で迎えに来てくれることになっていたので、安心していたのですが、リュックサックを背負う若者外国人旅行者たちを横目で見て思わずニヤニヤしました。

「タクシー運転手たちの"鴨"だな。空港で揉みくちゃにされ料金で揉めるな、見物だな」。


ところが、おや?

リュックサック外国人若者集団は、英語の案内看板を見て、ひょいひょい進んでいる。

空港からどうやって市内に出たらいいのか、タクシーはどれに乗ればいいのか、なんて誰も途方に暮れていません。


それもそうで、シャトルバス! シャトルバスができているのです!心底驚きました。

恨めしいです、なんで私が留学していた時にはなかったのだ、と本当に恨めしい。


近年はシャトルバスだけではありません。

UberとCareemのモバイルアプリケーションによる、事前タクシーオンライン予約システムも生まれました。これだと個人タクシーと違い、ぼったくりがないといいます。

また、ぼったくり問題解消だけでなく、セクハラ問題も解消されました。

Uberのドライバーは、さまざまな種類のセクハラについての研修を受け、不適切な行動をとらないように徹底的に教えこまれたのです。(2015年)

なお最近のエジプト女性の権利センター(ECWR)の報告によると、エジプトの女性の83%と外国人女性の98%が何らかの形でセクハラを経験していることが明かになったといいます。

だから、タクシーだけでもセクハラがなくなったというのは、全ての女性乗客にとって嬉しいニュースです。

もっともセクハラといっても、せいぜい身体をちょっと触ってくるとか、あとはしつこく年齢や既婚有無を聞いてくるぐらいで、いわゆるレイプも強盗もまずきいたことがない、皆無(だったはず)でしたが、

どうせなら、タクシー運転手たちだけでなく、エジ男君全員にセクハラ研修を受けさせればいいのに..!



UberとCareemに乗客を取られた個人タクシー運転手たちは怒りまくり、いろいろ縄張り問題などを始め、トラブルは起きているようですが、

もしかして時代の流れで、いずれカイロの街からもぼったくりタクシーが完全消滅するかもしれません。

でも運転手と乗客の怒鳴り合いの光景が全くなくなるのも、寂しいかも!? それはまさにカイロの風物詩の一つでしたから。

激しい身振り手振りをしながら大声でわめくと、必ずその辺の誰かが仲裁に入ってくれるものだったので、タクシー運転手相手にそういう人ををみると、

「ああまた"ぼったくり"で喧嘩しているな」

と思ったものでした。本当に実に頻繁に見かける、"カイロらしい" 光景でした。


そうそう、意外ですがエジプトの初の女性タクシー運転手誕生は1970年です。

調べると日本でも、初の女性タクシー運転手は同じ1970年に誕生しています。ちょいちょい、日本とエジプトは、謎の共通点があったりします...

そして東京も、タクシーは全般的に非常に品行方正になりましたネ...

けんいち🎈人民熊猫1号さん、上海のタクシー事情はどうですか? 笑


画像8

画像13

↑交通公社『中近東 エジプト』(1982年)ガイドブックより

画像9

画像7

画像10

↑実業之日本社『エジプト』(1995年)ガイドブックより

画像11

↑エジプト初の女性タクシー運転手のアリさん。やはり男性社会で、ものすごく苦労したらしいです。


画像7

この横浜中華街で買ったペット用中華帽子を、本当は猫に被らせて写真撮りたかったけど、激怒。やむを得ずテディベアに被らせました。私のエジプト漫画を描いて下さっている上海のけんいち🎈人民熊猫1号さん、ロックダウン頑張ってね!🙏


参照
www.cairoairporttransfer.com/

https://www.cairoairporttransfer.com/what-makes-our-service-more-convenient-than-regular-local-taxis-in-cairo/

https://dailynewsegypt.com/2018/12/27/first-female-taxi-driver-in-egypt-overthrows-social-norms/

https://egyptindependent.com/cairo-white-cabs-reap-harvest-bad-service/


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?