カールマルクスが渋谷に転生した件 13 マルクス、若者に期待する
マルクス、若者に投げる
「さて」マルクスが会議室のホワイトボードの前で髭を撫でる。「在留資格も得たことだし、いよいよ政党設立に...」
「あの」木下が心配そうに。「その前に確認したいことが」
「なんだ?」
「政党の代表者には、被選挙権が必要で...」
「ほう」マルクスが頷く。「つまり日本国籍が...なるほど」
一同、マルクスの反応を心配そうに見守る。
「ははは!」
意外な笑い声が部屋に響く。
「マルクスさん?」さくらが心配そうに。
「いや」マルクスが嬉しそうに髭をひねる。「むしろ好都合というべきかもしれん」
「え?」
「考えてもみろ」マルクスが椅子に座り直す。「そもそも私は、理論家として生きてきた。実践的な政治運動の前面に立つのは、常に若き同志たちだった」
「まさか」ケンジが目を見開く。「最初から...?」
「ああ」マルクスが満足げに。「私は諸君を支える理論的支柱となる。実際の運動の主体は、この時代を生きる諸君たちであるべきだ」
「でも」さくらが躊躇いがちに。「私たちだけで...」
「なに!?」マルクスが立ち上がる。「諸君を見くびってはいけない。Das Kapital TVの企画も、現代の搾取への告発も、技術的な実現も、全て諸君たちが...」
「確かに」木下が考え込む。「企画からシステム開発まで、私たちで回してきた」
「そうだ!」マルクスの目が輝く。「私は理論的示唆を与えただけだ。実践的な知恵は、全て諸君たちが...」
マルクス、若者に託す
「で、当面の目標は?」
マルクスが腰を落ち着けて尋ねる。今や完全に聞き役に徹していた。
「はい」木下がプレゼン画面を映す。
『共創党 2024年度目標』
「まず、全国10都市での実態調査」さくらが説明を始める。「アプリに寄せられる告発を地域ごとに分析して...」
「労働組合や市民団体との連携も」ケンジが補足。「既に何件か打診が...」
「おお」マルクスの髭が興味深げに動く。「具体的だな」
「そして」木下が画面を切り替える。「来年の統一地方選に向けて...」
「待て」マルクスが真剣な表情になる。「諸君たちの中から、立候補者を?」
「はい」さくらが決意を込めて。「まずは区議会から。私が...」
一瞬の沈黙。
「素晴らしい!」マルクスが声を弾ませる。「理論と実践の結合、ここにあり!」
「マルクスさんには」木下が続ける。「政策アドバイザーとして...」
「むしろ」マルクスが静かに微笑む。「諸君たちの師ではなく、同志として議論させてほしい」
「え?」
「私の理論は19世紀のものだ。現代への適用には、諸君たちの実践的知恵が必要不可欠なのだ」
「でも」さくらが心配そうに。「私たち、まだ経験も...」
「経験?」マルクスが立ち上がる。「諸君たちは既にやってきたではないか!」
ホワイトボードに書き出していく。
1. オンラインでの問題提起(Das Kapital TV)
2. 実態調査と可視化(告発アプリ)
3. コミュニティの形成(100万人の視聴者)
4. 具体的な解決実績(個別の労働相談)
「これらは全て、諸君たちが築き上げてきたものだ」
三人が黙って見つめる。
「そして何より」マルクスの声が熱を帯びる。「諸君たちには、私には決してできない何かがある」
「何ですか?」
「この時代に生きる感覚だ。この現実を、皮膚感覚として理解する力が」
「マルクスさん...」
「私は」マルクスが珍しく謙虚な声で。「諸君たちの活動を、理論的に補強する。それが私の役割だ」
「具体的には?」木下が尋ねる。
「まず」マルクスが髭をひねる。「『現代の搾取』を定義し直す必要があるだろう。プラットフォーム資本主義における...」
「あ」さくらが慌てて遮る。「長くなりそうなので、その話は、また後日…」
続く