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【読書感想文】誰でも/何でもできる時代~人間は結構簡単に道を外してしまう

本谷有希子『静かに、ねぇ、静かに』

・"創造しようとして模倣になっている人"

最初に収録されている短編「本当の旅」が狂おしいほど気味が悪くて、怖くてたまらないのに読み進める手が止まらなかった傑作😰
本谷有希子作品のファンなら誰もが憑りつかれる得体のしれない凶暴さがあらわになっています。

登場人物3人全員が"創造しようとして模倣になっている人"。
そして神の視点から彼らの自意識が酷烈に皮肉られています。
そう、「創造」の対義語は「模倣」。

・自己肯定感と他者への依存

SNSに依存している人は皆、常に自分の価値判断を他者に委ねている。
いや、今作の場合、他者は他者ではなくなっている。
「自分のイエスマン」だ。

いいね数だったり、フォロワー数だったり……
人と人とが簡単に繋がれる道具を手に入れた分、とにかく自分を肯定してくれる人を求めている。
自分にとって都合の悪いものからは目を背けるし、他責にする。
耳障りのいい言葉だけを掬ったり、自分と同じ思想の信者を簡単に作れたりする。
自分の中の仮説が意図も簡単に補強され、無意識のうちに思い込みを確信に変えられてしまう。

・偏見を常識にすりかえられる世界

でも、しょうがないっちゃしょうがないのだ。
だってSNSって、自分の好きなもの・興味のあるもの・共感できるものを選別できてしまうんだもん。

しかも"自分で選別している"と思いきや、アルゴリズムやらマーケティングやらで選別"させられている"から恐ろしい。
広告収入や視聴者からの”投げ銭”で、信じられないほど大金を儲けることもできる。

だから自分を正当化しやすくて、同調圧力が強くなったり、正義の暴走ができたりしてしまう。
勧善懲悪って結局、主観でしかないと痛感する。

誰でも/何でもできる分「ん?これはおかしくない?」と線引きする道徳や倫理観を見失うと、人間は結構簡単に道を外してしまう。
迷惑系YouTuber、バカッター、過激な謳い文句を掲げる人、過度な誹謗中傷なんかはれっきとした犯罪

・何者でもない人が神様になれる恐ろしさ

同質な仲間を傘下に入れ、むやみに群れたり、比較したりするだけでは異質なものを排除しようとする、いわゆる優生思想が加速していってしまう。

心身にハンデを抱えている人。
生きづらさに違和感を抱く人。
経済的に困窮している人。
一人で抱え込んで壊れてしまう人。

どんな人にでも居場所があり、仲間がいると寄り添えるのは救いだ。

だからこそ違う意見、立場、年齢、肩書の人の意見も吸収し、価値観を刷新していける人が真の多様性を理解できる人になっていくのだと思う。

・本谷有希子の神髄

本作の得体のしれない業の深さ、ゾクゾク感は本谷有希子作品の神髄で圧巻!
目を背けたくなる、逃げ出したくなるような興奮が襲ってくる。
この何もかも見透かされたような、いたたまれなさや気持ち悪さをここまでネットリと、執拗に突いてくる底意地の悪さ……本谷有希子おおおお!!!!ってなる🤣🤣
安易にこの言葉を使うのはそれこそ模倣なんだけど、天才だ……

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