#ショートショート
【SS】日本ダイエット/#毎週ショートショートnote
「元気にしてる?」
「まぁ、ぼちぼち。さみしいけどね」
「あの時、私を見て逃げ帰らなければよかったのにね」
「いや、ごめんって、あの時は俺も若かったんだよ。君だってあんなに怒ることなくないか?」
「それこそ私だって若かったもの。あんな姿見られるのは嫌だわ」
「まぁ、それもそうか」
「でもあなた、私と別れてからは1人でしょ?あの子たちも1人で産んだし」
「まぁね、末っ子には手を焼いたけどね」
「あの
【SS】二重人格ごっこ/#毎週ショートショートnote
『おかえりなさい❤︎お風呂にする?ご飯にする?』
やたらアニメ声のAIボイス。こんな前時代的な台詞、誰が決めた。有料オプションでイケメン彼氏ver.とか、優しいオカンver.とかにも変えられるらしいけど。
比較的新しい物件なら標準装備のAIお家管理システム。
声ひとつでその日の気分に合わせ、家の環境を整えてくれる。
最初はもの珍しくて、日替わりで「ご飯」「お風呂」と答えていた。
「お風呂」と答
【SS】違法の健康/#毎週ショートショートnote
「…あなた昨日、カップラーメンとビールを摂取しましたね」
「え、いやっ!」
「嘘ついてもダメですよ、この 健康検索機は、手をかざせば、3ヶ月分のあなたの詳細なデータが瞬時にわかるんです。何を食べて、何時間寝て、運動をして、どれだけ精神的に安定しているかまでね。」
「…はい…食べました…で、でも、普段はちゃんと気をつけてます!」
「健康でないことは法を破ることに等しいのだから気をつけて下さいよ」
【SS】感想文部/#毎週ショートショートnote
「感想文部にようこそ。」
私の前に並ぶは「感想文部」の部長と副部長そして部員が3名。
新入部員として紹介されながら、なんとも言えない違和感が拭い去れない。
帰宅部で通すつもりだったのに、どこかの部活に所属しないといけないなんて知らなかった。
運動は苦手だから、最初から除外。
改めて囲碁や将棋、カルタなんかを覚えたりするのは面倒くさい。
内申に有利と言われても、課外活動が多いボランティア部など
【SS】株式会社のおと/#毎週ショートショートnote
『株式会社のおと御中』
宛名を書いて、封をする。
せっかく内定を頂いたのに、お断りの手紙をしたためることになるとは思いもしなかった。
「書けた?」
「うん、一応ね。」
「ごめんね。」
「なんで謝るの?」
「せっかく内定もらったのにさ。」
「でもぎりぎりまで決まらなかったのは事実だし、もうどこでもいいから入りたい!みたいになってたところだから。」
「会社員の方が気楽だったかもしれないけど、でも付
【SS】タイムスリップコップ /#毎週ショートショートnote
ここにコップがある。
私にとっては時を忘れさせてくれるコップだ。
すなわち晩酌用のコップ。
持ち重りのする厚手のガラス。縁の部分が少し分厚く、口あたりが良い。上から2センチくらいに模様が入り、普段はその線より下、呑みたい日はその線より上まで注ぐ。
酒器にこだわる人からは笑われるだろうが、私はこのコップでないと、呑んだ気がしないのだ。
ビールでも、日本酒でも、ワインでも、ウイスキーでも、焼酎で
【SS】はじめての鬼/#毎週ショートショートnote
「せんせーい、まつのくんのおめんがないでーす」
「えっ、嘘!」
今日は節分。
子供たちが前々から作っていたお面をかぶって豆まきをするのが、うちの幼稚園の恒例行事。
鬼が豆撒くっていうのもなんか変な気がするけど、今年度入職したばかりの私がなにか言えるわけがない。
「松野くん、お面どうしたの?」
「おれこないだまでおやすみしてたもん、つくってないもん」
そうだった、松野くんはおたふく風邪になっち
【SS】フシギドライバー/#毎週ショートショートnote
さっきから君が首を傾げている。
「おかしいなぁ」
「なに、どうしたの?」
「いや、これさ、説明書通りに作ってるのにうまくできないのよ」
君の前にあるのはいわゆるカラーボックス。
「なにがうまくいかないの?」
「いや、これさ、この1番の板と2番の板を合わせるじゃん?」
説明書を見ながら君がその通りにやってみせる。
「うん、合ってる。出来てるよ」
「で、これをフシギドライバーで止めるって」
「は
【SS】チャリンチャリン太郎/#毎週ショートショートnote
「初めまして、金林様、この度は弊社でのご施工お考え下さり、誠にありがとうございます。」
「あ、黒川さんですか?おひさしぶりです」
え?今日初めてお伺いしましたよね?なんて口が裂けても言えやしない。
自分はしがない住宅メーカーの営業。
目の前にいるのはベンチャー企業の若手CEO様。
この不況下に新居建築のご予定、羨ましい、いや何よりです。
「あれ?黒川さんですよね?名刺にもそうあるし。」
先ほ
ビール傘③/毎週ショートショートnote
急な雨に慌てて、シャッターの下りた軒先に駆け込む。
時計を見ると夜の10時過ぎ。
また今日もこんな時間。諦めて濡れて帰ろうか。
ふと横を見ると、傘立てがあり、何本か傘がある。
借りて帰ってしまおうか。
早めに返しておけばわからないだろう。
そう思って手を伸ばした。
チカッ!…ガシャッ…
小さな稲妻が走ったかと思ったけれど、雷の音もせず、明るいまま。
防犯用のセンサーライトか。
ちょっと驚い
【SS】ビール傘②/#毎週ショートショートnote
「昨日、ビールがさ」
通り過ぎる人の声が一部分だけ耳に止まった。
雨がぱらつく夕暮れ時。
傘にあたる水の飛沫の間に聞こえた、たぶんもう一度会っても分かりっこない通りすがりの人の声。
きっとあの人は昨日ビールを買うか飲むかしたのだろう。
ただそれだけとわかっていても、頭の中には「ビール傘」とインプット。
ビール傘……
いったいどんな傘だろう。
「雨傘」は雨を避けるもの。
「日傘」は日差し
【SS】ふりかえるとよみがえる②/#毎週ショートショートnote
「あれ?どうしたの?」
「別に」
その言い方も素振りも、確実に怒っている。
でも残念ながら心当たりがない。
ここで「いや怒ってるよね?どうしたの?」なんて聞いたら大変だ。
「なんでもない」とイラついた声のトーンが上がり、部屋の空気はずんと重くなること間違いなし。
さて、なんとか察しなくては。
あからさまにきょろきょろするのも感じ悪いので、目線だけであたりを伺う。
あ、あの隅っこ、埃溜まって
【SS】ふりかえるとよみがえる/#毎週ショートショートnote
私の後を、彼女は本当についてきているのだろうか。
ある時、黄泉の国に妻は連れ去られた。
私は狂ったように泣き、憔悴し、妻が戻ってくるのであれば、何でもすると、古今東西全ての神に祈りを捧げた。
気がつくと私は見渡す限りの闇の中にいて、どこからともなく声が響いた。
「お前が決して振り返らずに、真っ直ぐ帰れたら、よみがえるだろう。」
神話か何かで聞いたことがある。
本当にそんな奇跡があるという
【SS】サラダバス②/#毎週ショートショートnote
最近、彼女は“CicPoc“かなんとかで紹介されている美容法にハマり中。
「〜beauty food cosme〜食べられるもので、体の外からも綺麗になれる!」
また見てる。
彼女のスマホから聞こえてくるのは、明るいハイトーンボイス。
あまりに早口すぎて声だけ聞いてると、あの頭にバンダナ巻いた眼鏡でショートカットのあの愛好家みたいだな。
「今日はまず、オイル!サラダ油はダメ!オリーブオイルが