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【SS】ビール傘②/#毎週ショートショートnote

「昨日、ビールがさ」
 
通り過ぎる人の声が一部分だけ耳に止まった。

雨がぱらつく夕暮れ時。
傘にあたる水の飛沫の間に聞こえた、たぶんもう一度会っても分かりっこない通りすがりの人の声。
きっとあの人は昨日ビールを買うか飲むかしたのだろう。

ただそれだけとわかっていても、頭の中には「ビール傘」とインプット。

ビール傘……
いったいどんな傘だろう。

「雨傘」は雨を避けるもの。
「日傘」は日差しを避けるもの。

じゃあ「ビール傘」なら?

ビールを避ける?
まさかそんな。
降ってくるわけじゃあるまいし。

ビール降ってきたらどうしよう。
でも大雨でも100ミリとかなんだから、呑むには足りないよね。

ああ、ビール傘とか考えてたら、どうしようもなくビール呑みたくなってきた。

ビールビールビール。

あ、コンビニ。
よし、ビール買って帰ろう。

「いらっしゃいませー」

あれ?ビールが…

「あー、すみません、ビール全部売り切れちゃったんですよ」

そんな…。
手に握った傘を見る。

お前…実はビール傘だったのか。

(423字)

2作目参加させていただきました。
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