夕凪

ものがたりを中心に自由気ままに創作活動をしています。 不慣れですがよろしくお願いします。

夕凪

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最近の記事

小話:願い

神社の真っ赤な鳥居が見えてきた。いつもは犬の散歩しかいない閑散とした境内も元旦ともなれば、新年の願いを捧げる人で賑わう。空を見上げれば、雲一つなく、新しい年に希望を託す人々の気持ちを映し出すようだった。 神社の入り口にはずらりと人が並んでいる。家族や恋人、友人と共に談笑しながら並ぶ様は有名料理店かはたまた某大型遊園地の人気アトラクションの列を髣髴させる。 「うわ、今年も混んでるね」 隣で夫が目を見張った。 「そうだね。去年もすごく並んだもんね」 と同意の言葉を述べな

    • 小話:世界が広がる瞬間

      何もする気が起こらない。体から魂が抜けてしまったような気がした。大好きな絵も描く気が起こらなかった。私は公園のベンチに腰をかけ、背もたれに脱力してしまった体を預けながら空を見上げた。私の沈んだ気分に反して夕暮れの公園は憎たらしいくらい美しい。 好きな画家の個展を訪れた。あまり有名な画家ではないけれど、Twitterで人目見た時、一瞬で心が惹きこまれた。曖昧な世界の中に陽だまりのようなあたたかさのある絵が私は好きだ。目を閉じると個展で見た木の絵が浮かんで来た。真っ暗な闇の中で

      • 三題噺:眠り・夕焼け・線路

        空が燃えるように赤い。太陽はもう山の端に沈みかけていて、激しく懐かしいオレンジ色だけを空に残していた。見ているだけで寂しく泣きそうな気持ちにさせられる。 「もう卒業だね」 夕日が射しこむ線路沿いの道。遠い過去に引きずり込まれるようなこの景色がそう言わせたのだろうか。隣を歩く彼女が静かな声でつぶやいた。 「そうだね」 と同じようなトーンで私も呟く。彼女と高校で出会って、この三年で随分仲良くなった。初めは無言が怖くて色々とくだらない話をしたのに、今では何も言わなくても心地

        • 毎日noteに挑戦してみたい気持ちはあるけれども、書くことが思いつかない。

        小話:願い

          徒然なるままに#3 角川武蔵野ミュージアムのすすめ

          東所沢駅から徒歩10分。住宅街をひたすら歩いた先に角川武蔵野ミュージアムはある。住宅街の真ん中に不思議な形をした建物がそびえたつ。本やマンガ好きなら一日中楽しめること間違いなし。今回は角川武蔵野ミュージアムのすすめを綴ってみようと思う。 ① 建物 角川武蔵野ミュージアムに着くとまず目に入るのが特徴的な建物である。およそ神社とは思えないガラス張りのスタイリッシュな社は左右非対称で、近代的なのにどこか神秘的にも感じられる。 ところどころ出っ張ったり凹んだりしている石のような

          徒然なるままに#3 角川武蔵野ミュージアムのすすめ

          小話:夏への手紙

          拝啓 気持ちのいい秋風が吹き渡るころとなりました。貴方はどこでいかがお過ごしでしょうか。またマレーシアにでも行って海を温めているのでしょうか。 今年の夏はあまり貴方を感じる機会がなかったように思います。夏の風物詩である花火もなく、お祭りもなく、海に出かけることもなく。貴方に逢える機会が減ってしまったようで少し寂しく思います。 一方で、燦燦と差し込む日差しや朝起きた時に騒ぎ立てる蝉の声、空にもくもくと聳え立つ入道雲に貴方を思い出すこともありました。そういえば、あまりの暑さに

          小話:夏への手紙

          徒然なるままに#2 秋を感じる

          夏を象徴する蝉の声が消え、秋分の日も過ぎると、秋の訪れを感じる機会が多くなる。毎年、秋を感じさせるものが私の中でいくつかある。 一つ目は金木犀の香りだ。オレンジの小さな花の集まりを見つけるより先に香りを見つける。朝、駅までの道を歩いているとふっと香る甘さに、秋の訪れを感じる。香りを見つけてから、はてどこかに金木犀があったかと辺りを見回して、ようやく晴れやかな秋色の花に目をとめる。北海道出身の友人曰く、北の大地には金木犀はなく、金木犀に秋を感じるのは本州の感覚らしい。 二つ

          徒然なるままに#2 秋を感じる

          マスカラ 第二話

          第一章 仁海との出会いは決して劇的なものではなかった。 大学のアカペラサークルだ。僕がサークルに入った時の新入生は例年十人ほどだがその年は二十人と多く、仁海も僕もそのうちの二人にすぎなかった。初めての出会いはおそらく自己紹介の時だったのだろうが、その時の仁海のことを僕は覚えていない。二人で話すようになってから他愛もない話題の一つとして「初めて会った時のことを覚えているか」と話したこともあったが、お互いに覚えていなくて思わず笑ってしまった記憶がある。 僕の彼女についての最初

          マスカラ 第二話

          小話:まどろみ

          ふと気がつくと私の意識は夢と現の狭間をさまよっていた。隣の学生がペンを走らせる音、パソコンのキーを叩く音、クーラーが空気を吐く音と様々な音が遠いようにも近いようにも響く。 頭がとんでもなく重い。図書館は寝る場所ではないと思い直し、姿勢を正す。それでも瞼は床に近づこうと落ちていく。 頭の奥で「眠ってしまえ」と何者かがささやく。なお抗い続けるために手のひらをむにむにと揉んでみる。外部からの刺激に少し目が覚めるものの害意がないからなのか、すぐまた眠りへと誘われる。 つん、と唐

          小話:まどろみ

          徒然なるままに#1 片付けの楽しみ

          【徒然なるままに とは】 日常で考えたことを考えたことを綴ってみようと思い始めました。自分の中で考えていることは言葉にしないときっと忘れてしまう。言葉にすることで頭の中でなんとなく思っていることを形にできるのではないかと思いながら、少しずつ言葉にしていこうと思います。 【片付けの楽しみ】 試験期間が終わると私は宝物を探すように部屋中の箱を開ける。片付けの時間だ。片付けは私にとってのちょっとした楽しみである。三つの喜びがそこに眠っているからだ。   一つ目が「思い出の箱

          徒然なるままに#1 片付けの楽しみ

          マスカラ 第一話

          序章 「もう好きじゃなくなったの」 仁海の声が頭の中に何度も流れる。目を閉じるとその時の部屋の様子が脳裏に浮かび上がっている。ソファーの上に乱雑に置かれた枕、テレビから流れるニュース、鏡の前に置かれたマスカラ……。「だから別れよう」と続けた彼女の言葉にあまりの衝撃に回らない頭で「そっか」と辛うじて返事をした。声も部屋も鮮明に覚えているのに、彼女がその時、どんな表情だったのかだけが思い出せない。 彼女が去った部屋で僕は抜け殻のようにソファーに座っている。心は空っぽなのに頭

          マスカラ 第一話

          noteはじめました

          はじめまして。夕凪と申します。 いままで小説やマンガ、音楽……とさまざまなコンテンツが紡ぎ出すものがたりに支えられてきました。辛い時に小説を読んで涙したり、音楽を聴いて勇気をもらったり、ものがたりには人の心を支える力があると思います。 自分を支えてくれたものがたりに対して何かできることはないだろうかと考えた時、自分で表現することによって伝えられるものがあるのではないか、自分も何かを創り出してみたいという考えに至りました。 そんな私ですがnoteを通して、いろいろなものが

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