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マスカラ 第二話

第一章

仁海との出会いは決して劇的なものではなかった。
大学のアカペラサークルだ。僕がサークルに入った時の新入生は例年十人ほどだがその年は二十人と多く、仁海も僕もそのうちの二人にすぎなかった。初めての出会いはおそらく自己紹介の時だったのだろうが、その時の仁海のことを僕は覚えていない。二人で話すようになってから他愛もない話題の一つとして「初めて会った時のことを覚えているか」と話したこともあったが、お互いに覚えていなくて思わず笑ってしまった記憶がある。

僕の彼女についての最初の記憶は桜が散り、花の色に隠れていたが葉の青々とした色が目立つようになる五月の頃だ。大学の授業終わり、サークル棟に向かう途中で僕を呼び止める声が聞こえた。

「今からサークル?」



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