「潜在GDP」の定義を変更 | 日本国民を騙す罠

割引あり

日本において、潜在GDPの定義は大きく分けて2種類存在します。

日本政府は現在、平均概念の潜在GDPを使用しています。

  1. 最大概念の潜在GDP(~1985年)

  2. 平均概念の潜在GDP(1991年~)

平均概念の潜在GDPを使うことで、経済の状況を正しく分析できなくなり、財政判断を歪めていると考えられます。


1. 2種類の潜在GDP

最大概念の潜在GDPの定義:

  • 完全雇用:全ての就業者が雇用されている。すなわち、国内の労働力が全て使われている状態。

  • 稼働率100%:、資本ストックが100%稼働。道路、鉄道、ダム、通信施設、工場、機械、橋、研究開発など、あらゆる生産活動に用いられる耐久的な財がフル稼働になった状態。

  • インフレ圧力のない経済成長:経済がインフレを引き起こさずに達成できる最大の成長率を実現している状態

  • 供給側の最大値(GDPの上限):最大概念の潜在GDPは、経済の供給側の最大値を示しており、実物的な生産力の限界

  • 世界標準:日本を除く世界各国や経済協力開発機構(OECD)がこの指標を採用

  • 潜在GDP超過→インフレ:最大概念の潜在GDPを超過する需要(民間所得)がある場合、これ以上に供給を増加させることはできないため、代わりにインフレ圧力が高まり、インフレが発生する(インフレ率上昇)

  • GDPギャップ(産出量ギャップ、デフレギャップ):最大概念の潜在GDPと実際のGDPの差。『インフレギャップ』はインフレで埋まるため存在しない。

平均概念の潜在GDPの定義:

  • 平均GDP:景気循環を均した平均的な供給力を示す潜在GDP基準。過去の生産能力の傾向に過ぎない。(全く「潜在」ではない)

  • 日本だけ:1991年に日本政府は「最大概念の潜在GDP」から「平均概念の潜在GDP」へと「潜在GDP」の定義を変更した。日本独自の指標。

  • インフレギャップ:平均GDPは単なる過去のGDPの平均のため、実際のGDPが平均を上回れば、インフレギャップが発生する。しかし、MMTが説明するとおり、インフレギャップが発生しても、インフレしない。

2. 日本における「潜在GDP」定義の変遷

内閣府のサイトにある経済財政白書/経済白書から、潜在GDPの定義がどう変わっていったかを調べました。

どの年でも変わらないのは、GDP/GNPを推計する計算式を用意し、その計算式の変数に数値を代入するというものです。

変数が、実際の値ならば、実際のGDP/GNPが算出されます。

一方で、変数として供給の最大値を代入すれば、潜在GDP/GNPが算出されます。

代入する数値、その定義が非常が重要になっています。

3. ~1985年 まともな時期

1985年(昭和60年)の年次経済報告から潜在GNPの推計方法を引用します。

※この時期はSNA1968を推計基準として採用しているためGDP(国内総生産)ではなくGNP(国民総生産)です。「GNPとGDPの違い」についての説明は、本記事の付録に記載してあります。

(2) 潜在GNPの推計(第1-24図
完全雇用水準時の就業者L*, 総実労働時間の最大値h*, 最大稼働率s*を以下のように求める。
 $${L^{}=LN×(1-URF/100)}$$
  ただしLN:労働人口, URF:均衡失業率
 $${h^{}=h_{tr}+max(h-h_{tr})}$$
  ただし, htrはhのトレンドで以下の式で求めた。
   $${h_{tr}=1.0425-0.0041t}$$
     (224.12) (-7.57)
 $${S^{}=max S}$$
これらを元の推計式に入れ, 潜在GNP(YP)を求めた。
$${ YP=\hat{γ}e^{\hat{λ}t} {\lbrack (KS^{*})^{-ρ} + (1-\hat{δ}) (L^{*}h^{*}) ^{-\hat{ρ}} \rbrack} ^{-\frac{\hat{μ}}{\hat{ρ}}}}$$

昭和60年 年次経済報告 - 付注2-3 CES生産関数の推計

完全雇用水準時の就業者L*, 総実労働時間の最大値h*,最大稼働率s*」の通り、完全雇用かつ資本がフル稼働していることを計算に入れているため、OECDや他国と同じ基準で最大概念の潜在GNPを算出しています。

4. 1986~1990年 記載なし

謎の沈黙。調べた限り年次経済報告に潜在GNPの記載はありませんでした。

もしかしたら、1985年8月12日の日本航空123便墜落事故が関係しているかもしれません。1985年の年次経済報告の公表は、事故3日後の8月15日です。次の年から政府の様子がおかしくなるのは時期的に一致します。

【衝撃】日航機123便墜落の真実 なぜ日本は未だに対米従属のままなのか? - YouTube


5. 1991年 「潜在」ではないし「平均」でもない奇妙さ

この1991以降、謎の沈黙を破り、意味のわからないことを書き始めます。政府の様子が非常におかしくなっています。

この年が一番おもしろいことになっています。

企業の生産活動では労働力と生産設備,それに原材料や動力・燃料が生産要素として使用されるが,生産額から原材料や動力・燃料などの中間投入額を差し引いた付加価値は生産要素としての労働と資本に帰属し,両者に分配される。したがって,国民経済全体としての付加価値生産額である実質GNPも,我が国の総就業者と総資本ストックを生産要素として生産されたものと考えることができる。こうした考えから,実質GNPを労働投入量と稼働資本ストックで説明する生産関数を推計し,右辺の労働投入量と稼働資本ストックの変数にその時々の「最大投入可能量」を与えることによってマクロの生産能力(潜在GNP)が計算されるが,この計算された生産能力と現実の実質GNPの差はマクロの供給余力の指標として,GNPギャップと呼ばれ,通常,生産能力に対する比率(%)で示される(詳細は 付注3-1)。一般に,景気拡大にともなって失業が減少し,また設備稼働率が上昇して,遊休している生産要素が全体として減少すると供給余力を示すGNPギャップは縮小し,逆に景気後退期にはGNPギャップが拡大することになる。

平成3年 年次経済報告 - 第1節 マクロの需給動向

上記の通り、年次経済報告の本文には、「最大投入可能量」を与えることによってマクロの生産能力(潜在GNP)が計算される」とあるので、付注3-1の計算明らかに潜在GNPだと書いてあります。

付注3-1から、「労働投入量と稼働資本ストックの変数」に代入される「最大投入稼働量」を引用します。

5.最大可能要素投入量
(1) 資本:稼働率に推計期間中のピークを与えて最大可能投入量を計算。
(2) 労働:①就業者数についてはUV曲線を利用して求めた構造的失業率と完全雇用女子労働者率(後述)を利用して下記の関係式により算出。
 L*=(1-U*)(RM・Lm+RW*・Lw)
但し、L*は完全雇用就業者数、U*は構造的失業率、RMは男子労働力率、Lmは男子15歳以上人口、RW*は完全雇用女子労働力率、Lwは女子15歳以上人口
②労働時間については、所定外労働時間の最大値に所定内労働時間の実績を加え、最大可能投入量とした。

平成3年 年次経済報告 - 付注3-1 GNPギャップの推計

5.1. ツッコミ1:「稼働率に推計期間中のピークを与え」←!?

資本の項目、「稼働率に推計期間中のピークを与え」て最大可能投入量を計算と書いてあります。

稼働率100%ではなく、「推計期間中のピークを与えて」ということは、推計期間中のピークが100%より少ない場合、最大稼働率になりません

例えば、「推計期間中のピーク」が最大100%中80%だったということもありえます。この場合、稼働率は80%で、20%の余力があることになります。

稼働率のピークが100%未満である場合、その数値を「最大可能投入量」として採用することは、過去にあった実際の使用状況に基づいた数値ではありますが、「理論上の最大稼働」を示すものではありません。

従って、「推計期間中のピーク」を潜在GNPの計算に使用するのは不適切です。本来、資本ストックの稼働率は、100%の数値を代入すべきです。さもないと、資本ストックが少なく計算されてしまいます。

5.2. ツッコミ2:理論値ではなく実際の値を代入してる!?

「RMは男子労働力率」という、実際の値を使っています。

女性の方は「RW*は完全雇用女子労働力率」と潜在GNPを算出するに正しい定義を示しています。

ならば、男性の方も「RM*は完全雇用男子就業者数」とすべきでしょう。訳が判りません。

「男子労働力率」という指標を調べると1991年付近は79%程になっています。労働力がおよそ2割ほど少なく計算されてしまいます。

統計局ホームページ/平成22年国勢調査 解説シリーズ 最終報告書「日本の人口・世帯」

引用元:第6章 労働力状態(PDF:932KB)https://www.stat.go.jp/data/kokusei/2010/final/pdf/01-06.pdf

以上のとおり、計算式も間違っていればに、間違っている数値を代入しています。本当に意味がわかりません。

6. 1992年 平均GNP登場

平成4年 年次経済報告の潜在GNPの推計に関して、以下の記載があります。

ここでは,資本と労働力を投入要素とする経済全体の生産関数(稼働率と労働時間の変化は考慮する。土地は除く。)を推計し,要素投入が生産要素市場の均衡条件を満たしているかを検討することにより,企業行動の最適化状況について調べる(生産関数の推計方法については, 付注1-1 参照)。

平成4年 年次経済報告 - 第3節 停滞する企業活動

どこか奇妙な文章です。ミスリードを誘っているような。

「GNP」「最大」「潜在」「完全雇用」などの潜在GNPの鍵となる用語を一切使っていません。あえて避けて使っていないかのような奇妙さがあります。

そして、肝心の付注1-1を見てみると、内容は見事に「平均GDP」となっています。コブ=ダグラス型生産関数に、平均値を代入しています。

3.要素投入量の計算
2②で推計された生産関数には、以下のような投入量を代入した。なお、平均値を求める際の期間は1985年第I期~92年第I期。
(1) 資本
①現実投入量・・(略)
②平均投入量・・稼働率の平均値を各期の資本ストックに乗ずる。
(2) 労働
(2)-1労働時間
①現実投入量・・(略)
②平均投入量・・所定外労働時間の平均値に各期の所定内労働時間(実績値)を加える。
(2)-2就業者数
①現実投入量・・(略)
②平均投入量・・現実の労働力人口に(就業者/労働力人口)の平均値を乗じる。

平成4年 年次経済報告 - 付注1-1 生産関数の推計

平均値を求める期間の始まりが「1985年」というのが、この年を起点に何かがあったんだなと邪推をさせます。

ただ単純に1985年まで正しい定義の潜在GNPを計算していたというだけかもしれませんが。

7. 1993~1994年 完全に平均GDPだと開き直る

1993年 年次経済報告1994年 年次経済報告における推計方法は、1992年のものとほぼ変わりません。平均のままです。

この年からGNPからGDPに変わりました。

平成5年 年次経済報告 - 付注1-11 GDPギャップの統計
平成6年 年次経済報告 - 付注1-16 GDPギャップの推計

ただ、年次経済報告本文が変化しています。

次に,基準となる経済活動水準との関係で経済の現状を評価する方法の一つとして,GDPギャップを考えてみよう。これは,いわば経済全体の稼働率のようなものであり,基準となる 「平均GDP」と現実のGDPのギャップをみたものである。平均GDPとしては,それぞれの時点における資本と労働が,過去における(ここでは,85年1~3月期以降をとった)平均的な割合で投入された場合(つまり平均的な,稼働率,失業率,所定外労働時間を仮定する)のGDPを考えている。

1993年 平成5年 年次経済報告 - 第6節 今回の景気調整過程の特色

GDPギャップは,現在の経済活動の水準が,基準となる経済成長経路に沿った活動水準からどの程度かい離しているかを示したものである。GDPがあるトレンドの回りで循環的に変動するという考え方を前提とすれば,その大きさは資本,労働などを総合したマクロ的な需要と供給のかい離の度合いを示すことになる。ここでは,資本と労働の要素投入が85年以降の平均的な値をとった場合のGDPを「平均GDP」とし,現実のGDPと平均GDPとのかい離をGDPギャップと定義している。

1993年 平成5年 年次経済報告 - 第6節 今回の景気調整過程の特色

ここで、「GDPギャップ」という言葉が登場し、「平均GDPと現実のGDPのギャップ」と定義しています。

清々しいほど開き直っています。

8. 1995~1997年 またもや記載なし

謎の無記載期間です。理由は不明。

9. 1998~2000年 意味不明な言い訳が追加される

1998年 平成10年
平成10年 年次経済報告
平成10年 年次経済報告 - 付注2-1-1 GDPギャップの推計
平成10年 年次経済報告 - 第2-1-1図 

1999年 平成11年
平成11年 年次経済報告
平成11年 年次経済報告 - 付注1-7-1 GDPギャップの推計
平成11年 年次経済報告 - 第1-7-1図

2000年 平成12年
平成12年 年次経済報告
平成12年 年次経済報告 - 付注2-2-3(2) GDPギャップの推計
平成12年 年次経済報告 - 第2-2-3(1)図

この3年間は、付注に意味不明な言い訳が追加されています。

4.潜在生産能力に対応したGDPと平均GDPの関係について
潜在生産能力に対応したGDP(潜在GDP)とは、資本を完全に稼動し、労働を完全雇用した場合のGDPをいい、生産要素をフルに利用したら潜在的にはどのような生産が可能か、を意味している。また、生産要素のフル利用とは、通常、稼働率は中長期的に維持達成可能な正常水準、失業率は均衡失業率の状態を意味する。
資本や労働の平均的な稼動状況は、上記の稼働率や均衡失業率とは違うため、その下で達成されるGDP(平均GDP)の水準は、潜在GDPの水準とは異なる(例えば労働については完全雇用水準ではない状態での推計になる)ものの、中長期的に見た場合、平均GDPは潜在GDPとおおむね同様の動きを示すと考えられるため、本試算では平均GDPを用いて潜在GDPの動きをみることとした。

平成10年 年次経済報告 - 付注2-1-1 GDPギャップの推計

一文一文検証してみましょう。

9.1. 1文目←その通り

潜在生産能力に対応したGDP(潜在GDP)とは、資本を完全に稼動し、労働を完全雇用した場合のGDPをいい、生産要素をフルに利用したら潜在的にはどのような生産が可能か、を意味している。

平成10年 年次経済報告 - 付注2-1-1 GDPギャップの推計

ここまでは、最大概念の潜在GDPの定義としては合っています。

9.2. 2文目←1991年定義の再来

また、生産要素のフル利用とは、通常、稼働率は中長期的に維持達成可能な正常水準、失業率は均衡失業率の状態を意味する。

平成10年 年次経済報告 - 付注2-1-1 GDPギャップの推計

これ、最大概念の潜在GDPの定義から外れました。フル利用と書いてあるのに、稼働率は平常水準、失業率は均衡失業率としています。前述の通り、アメリカもOECDもそんな定義は採用していません。ガラパゴス化している定義です。命題で表してみると以下のようになります。

生産要素のフル利用 ⇒ (稼働率=正常水準)∧(失業率=均衡失業率)

均衡失業率=構造的失業率+摩擦的失業率 です。構造的失業率については1991年のツッコミ2で言及しました。摩擦的失業率とは、労働者が新しい仕事を探す時や、雇用者が適切な労働者を探す時など、仕事と労働者が完全に一致しないために生じる一時的な失業のことを指します。

従って、この定義は先ほど説明した、1991年の潜在でも平均でもない奇妙な定義に近いものです。

最大概念の潜在GDPならば、以下のような命題になります。

生産要素のフル利用 ⇒ (稼働率=100%) ∧ 完全雇用

9.3. 3文目の前半←まだわかる

資本や労働の平均的な稼動状況は、上記の稼働率や均衡失業率とは違うため、その下で達成されるGDP(平均GDP)の水準は、潜在GDPの水準とは異なる(例えば労働については完全雇用水準ではない状態での推計になる)ものの、

平成10年 年次経済報告 - 付注2-1-1 GDPギャップの推計

潜在生産能力に対応したGDP=(稼働率=正常水準)∧(失業率=均衡失業率)
平均GDP=(稼働率=平均)∧(失業率=平均)

「潜在でも平均でもない奇妙なGDP」と「平均GDP」を比較して、違うものだと主張しています。確かにそのとおりです。

9.4. 3文目の後半←平均を選んだ

中長期的に見た場合、平均GDPは潜在GDPとおおむね同様の動きを示すと考えられるため、本試算では平均GDPを用いて潜在GDPの動きをみることとした。

平成10年 年次経済報告 - 付注2-1-1 GDPギャップの推計

稼働率について、「稼働率は中長期的に維持達成可能な正常水準」と「平均」を比較したら、確かに大差無いと思われます。

失業率について、「均衡失業率」と「失業率の平均」比較して、完全雇用と乖離が大きく、実際の失業率に近い値になる「失業率の平均」をとりました。

平均GDPは、実際のGDPの単なる移動平均線です。

平成22年度 年次経済財政報告 - 第1-1-24図 均衡失業率の推移

10. 2001年~ 平均概念の潜在GDP 登場

平成13年 年次経済財政報告書で、いよいよ現在まで使われている「平均概念の潜在GDP」が登場します。

このときの担当は、経済財政政策担当大臣、竹中平蔵です。

潜在GDPを計算するために関数に代入する、潜在投入量を見てみましょう。

年によって、表記が少しずつ変わっていっていますが、内容はほぼ同一です。「潜在投入量」の部分に注目してください。

2.具体的変数について
(1) 資本投入量

現実投入量:民間製造業資本ストック(取付ベース前期末値)に製造工業稼働率を乗じたものと、民間非製造業資本ストック(同)に非製造業の稼働率を乗じたものの合計。民間非製造業の稼働率には、「第3次産業活動指数/非製造業資本ストック」からトレンドを除去したものを試算し使用。
資本ストックの89年以前は、68SNAベースの系列と接続。
NTT・JRの民営化、新幹線の民間売却については断層を調整。

潜在投入量:製造業・非製造業の稼働率を被説明変数として、おのおの「日銀短観」の「生産・営業用設備判断DI」で回帰し、景気要因を除去したものを潜在稼働率とし、潜在投入量を求めた。

(2) 労働時間

現実投入量:所定内労働時間と所定外労働時間の合計(30人以上の事業所データ)

潜在投入量:所定内労働時間は、労働基準法改正による時短を踏まえて振れを除去した値を使用。
所定外労働時間は85年第1四半期以降の平均を使用

(3) 就業者数

現実投入量:就業者数。

潜在投入量:「(現実の労働力人口)×(1-構造失業率)」。
構造失業率は、第1-1-14図参照。80年代は平均失業率を使用。

平成13年 年次経済財政報告書 - 付注2-4 潜在成長率の推計方法について

10.1. 資本ストック→平均稼働

潜在投入量:製造業・非製造業の稼働率を被説明変数として、おのおの「日銀短観」の「生産・営業用設備判断DI」で回帰し、景気要因を除去したものを潜在稼働率とし、潜在投入量を求めた。

平成13年 年次経済財政報告書 - 付注2-4 潜在成長率の推計方法について

資本の潜在投入量について、難しく書いてあるので要約すると以下のようになります。

「製造業と非製造業の実際の稼働状態から景気の波(好況や不況など)を取り除いた、理論上の平均的な稼動状態での資本の使用量」

最大概念の潜在GDPを算出するならば、製造業および非製造業の稼働率を、現実の稼動状況ではなく、「理論上の最大稼働率」として設定します。

これは、全ての資本ストックが完全に活用されている状態、つまり100%稼働していると仮定することになります。

10.2. 労働時間→平均時間

潜在投入量:所定内労働時間は、労働基準法改正による時短を踏まえて振れを除去した値を使用。
所定外労働時間は85年第1四半期以降の平均を使用

平成13年 年次経済財政報告書 - 付注2-4 潜在成長率の推計方法について

労働時間の潜在投入量について、まとめると以下のようになります。

  • 所定内労働時間に関しては、労働時間短縮の法改正による変動を取り除いた平均的な時間

  • 所定外労働時間に関しては、1985年以降のデータの平均値

つまり、平均値です。

最大概念の潜在GDPを算出するならば、「総実労働時間(所定内労働時間+所定外労働時間)の最大値」を採用します。

但し、労働基準法やその他の規制によって許される最大の所定内労働時間を想定します。この場合、法律や規制で定められた最大労働時間を基準にしますが、実際には健康や安全を考慮した合理的な限界を設ける必要があります。

10.3. 就業者数→実際の値と平均

潜在投入量:「(現実の労働力人口)×(1-構造失業率)」。
構造失業率は、第1-1-14図参照。80年代は平均失業率を使用。

平成13年 年次経済財政報告書 - 付注2-4 潜在成長率の推計方法について

この部分は、現実の労働者数を代入しています。80年代に関しては、平均失業率を使っています。

最大概念の潜在GDPを算出するならば、完全雇用就業者数を採用します。例えば、構造失業率を今までに一番0に近い、低い数値にします。。

10.4. どこが「潜在」なのか?

  • 潜在投入量

  • 潜在成長率

  • 潜在GDP

のとおり、「潜在」という言葉を使っているので、いかにも正しく潜在GDPを算出しているかのような雰囲気を感じさせます。

しかし、現実は単にGDPの平均値を計算しているにすぎません。ただの移動平均線です。

11. 「平均概念」と「最大概念」の潜在GDP

平均概念の潜在GDPの定義は、

  • 資本:平均稼働

  • 労働時間:平均時間

  • 就業者数:実際の値

一方で、最大概念の潜在GDPは、

  • 資本:最大稼働率

  • 労働時間:総実労働時間の最大値

  • 就業者数:完全雇用

となり、全く違うものです。

これまで、説明した通り同じ「潜在GDP」と言っていますが、内容は全く違います。

日本以外では、後者の「最大概念の潜在GDP」を採用しているので、国際標準に合わせるべきでしょう。

なぜ「平均概念の潜在GDP」なんてものを考案して使っているのかといえば、平均概念の潜在GDPは、実際のGDPと近い値になるからです。

最大概念の潜在GDPと実際のGDPでGDPギャップを算出したならば、日本がとんでもないデフレであることが、国民にバレてしまいます。

だから、GDPギャップの数値が小さくなる平均概念の潜在GDPを採用していると考えられます。

更にを邪推するならば、状況証拠的に日本政府は「日本が大きなデフレであることを国民から隠し、緊縮財政、プライマリーバランスの黒字化を達成したい」と考えているのでしょう。

このことを多くの人に広め、減税と積極財政を実現し、日本経済の復活を目指しましょう。

付録. 国内総生産(GDP)と国民総生産(GNP)の違い

以前は経済成長の度合いの指標としてGNPが使われていましたが、1993年(平成5年)に国民経済計算の体系が変更されたため、現在はGDPが使われます。

統計表(国民経済計算年次推計) : 経済社会総合研究所 - 内閣府

国内総生産(GDP)と国民総生産(GNP)の違いは以下の式で表されます。

$$
\begin{align}{}
GNP&=GDP+\text{海外からの純要素所得} \nonumber \\
&=GDP+\text{海外からの要素所得受取}-\text{海外への要素所得支払}  \nonumber
\end{align}
$$

要素所得:労働や資本を使って得られた所得、給料。

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