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「それぞれの椅子」「今日のつづきが未来になる」から五年

 私にとって、2016年5月25日は“転機”となった一日だ。方や、THE ALFEEのシングル『今日のつづきが未来になる』をお迎えした日。方や、乃木坂46のアルバム『それぞれの椅子』をお迎えした日。十代後半の私史において、欠かすことの出来ない二組の作品と最初に出逢った日である。

 アルフィーに関しては、「英雄の詩」と「Final Wars!」が正確な出逢い。でも、リアルタイムで初めて購入したのがこの日であることから、同じように括っている。

 この頃、めちゃくちゃしんどかった。高校入学後はクラスに馴染めなかったこともあって、ひたすら読書と創作に打ち込んでいた。哲学書やフランス文学に傾倒し、暇さえあれば音楽を聴く日々。中学からの流れで、J-POPや時代の洋ものを聴き漁っていく。何もなかった。

 授業が終わると逃げるように帰宅した。旧友に愚痴をこぼし、ウルトラマンを観るのが楽しみな高校生だった。前年放映にウルトラマンXは本当に面白かったし、ウルトラマンティガやウルトラマンタロウなど、観たい作品はたくさんあったから、別に友人関係を築く必要なんてなかった。諦めばかりが先行して、随分と醒めた高校生だったな……と今は想う。

 ある日、乃木坂46が好きな同級生に出逢った。その同級生はとても変なヤツだ。良い意味で。確か、最初の会話は「ツタヤにアイドルポップが一緒くたにまとめられていて〜」みたいな話だった。彼は自分の推しがきちんと並べられていなかったことに怒っていた。かくいう私も、前年の夏に観たアルフィーと乃木坂の共演で、彼女たちの良さは認識していた。2011年に船出した彼女たち。生駒里奈さんと白石麻衣さんと生田絵梨花さんくらいしか知らなかったけれど、これまでにない清楚で御洒落なアイドルが出てきたな……というのはデビュー時からの印象だ。

 まあ、買ってしまったんだよね。アルバム『それぞれの椅子』を。当時の小遣いからすると“勇気ある行動”だったけれど、『今日のつづきが未来になる』と一緒にカゴに入れていた。

 どんなバージョンが良いかなんて知らなかったから、きっとジャケットが一番気に入ったタイプを選んだのだろう。ちなみに、アルフィーの方は「1954年製のストラトキャスターと三人の写真がかっこいい」という理由で初回限定盤Bを選んだ。この頃から、ジャケ買いは常套手段として使っている。

 帰宅後、早速両方とも聴いてみたんだ。

 アルフィーはクルマの中で聴いてしまったと思う。当時はラジオを聴いてなかったので、本当に初見である。「英雄の詩」やアルバム『三位一体』で大仰なイメージが植え付けられていたため、人生ソングとも形容されるような作風はとても新鮮だった。坂崎さんのアコースティック・ギターの音色が本当に綺麗で。最近のアルフィーの作品はバンド感覚を大切にされているものが多いから、特に生楽器を強調した楽曲は隙間が際立つのよね。まだ2016年の私はあまり聴いてなくって、だから余計に新鮮だった。「風の翼」も疾走感溢れるハードロックで、こちらを表題にしても良いんじゃないかというレベルで最高だった。まあ、沼落ちしてしまったよね。

 乃木坂はボリュームもボリュームだったので、家で聴き通した。シングル曲は「太陽ノック」だけは知っていて、それ以外は完全に初見。「ハルジオンが咲く頃」の生ストリングスがめちゃくちゃ耳に残ったのは覚えている。何よりも、「きっかけ」と「太陽に口説かれて」の衝撃だよね。「きっかけ」は様々なミュージシャンにカバーされてるからご存知の方も多いと思うけれど、後者も個人的には驚きだった。もっと乃木坂はフレンチポップス的な楽曲をやるのかな〜って想像してたから。「ぐるぐるカーテン」や「おいでシャンプー」の頃のイメージが強くて、「命は美しい」や「太陽に口説かれて」のようなハードな曲を歌うことに度肝を抜かれた。

 何も知らなかったのが、逆に良かったのかな。乃木坂的に見れば、「キミ、今こそファンになれ!!」という全盛期だったよね。2016年の夏って。深川麻衣さんの卒業と、その先を見据えた2ndアルバムの発売。めちゃくちゃ脂が乗ろうとしていた頃。時期も最高だった。

 私の十代はTHE ALFEEと乃木坂46なしでは乗り切れなかった。欅坂46や大滝詠一さん、ほかの素晴らしいミュージシャンたちも大切な歴史の一ページだけど、いちばんキツかった時期を支えてくれたのが彼ら / 彼女たちの音楽。パフォーマンスだった。

 ちょうど創作を本格的に始めたのもこの頃。高見沢さんや坂崎さんの話をラジオで聴いて、大学で音楽を探求しようと決めた。乃木坂46のメンバーたちには、ひたむきに頑張ることの面白さを教えてもらった。アルフィーは平均年齢66.6歳になった。乃木坂も主要メンバーが大きく入れ替わって、同世代のメンバーが中軸を担うようになった。だが、輝きは今も少しも色褪せていない。むしろ、もっと輝いている。

 私は青春をこの二つのミュージシャンと過ごしてきて、本当に良かったと思う。そして、創作に出逢って、青春を捧げて、間違っていなかったと今なら自信を持って言える。

 “あともう少しだけ、頑張ってみようか。”

 つらい時、どうしようもない時、消えてしまいたい時、いつも助けてくれるのは我が愛しの素晴らしき音楽なのだ。

 2021.5.25
 坂岡 優

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