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面罵と酒反吐


「今日は俺の奢りだ。好きなだけ飲み食いしろやお前ら!」
社会人になって一回やってみたかったことを今やっている。好きなだけ金を使う。それも人のために。素晴らしいことだ。
後輩を連れて、繁華街を歩いていた。
俺は、この街に来るのは数え切れないくらいだ。どこの居酒屋も空いていない。
こいつらまごついてやがる。どうしょうもねえ野郎だ。夜の街の歩き方知らねえのか?と怒りを募らせながら、近くにいたキャッチの野郎を捕まえて、店を探させる。普段キャッチなんて使わないんだが、最終手段だ。
「お兄さん!見つかりましたよ!どうぞ!案内しますので、ついてきてください!」
「おう、頼むよ。そういえばこの仕事長いの?」
「半年くらいですね!」
「おもしろい?俺やってみようと思ってるんだけど。」
「おもしろいですよ!精神力養えますし。」
「いいな、おもしろい。俺にぴったりかもしれん。」
後輩二人は、ダンマリでなに考えてるのか分からねえ。最早、いつもの一人飲みにモードチェンジしていた。
「お兄さんたち!着きました!こちらです!席は既に取ってありますので、店員さんについて行ってください!」
「おう、ありがとうよ。がんばれよ!」
入店して矢継ぎ早に店員に促され、席に着く。忘年会シーズンだってことを忘れていた。周囲を見るとサラリーマン姿のおっさんたちが、ビール片手に仕事の話をしている。
俺たちもビールを頼み乾杯をする。
「お前ら仕事はどうよ。」
「あ〜なんとか慣れてきました。」
「本当かよ。そういえば夜の街とか歩いたことあるの?」
「あんまりないですね。秋葉原歩いてたら、泥酔した女がいて、助けるか無視するか友達と悩んでた時がありました。」
「くだらねえな。ヤッちまえばよかったのに。」
「できないですよ。」
「だから、ダメなんだよ!そういうところ仕事の面でも出るぞ。狩られる前に狩るんだ!社会は、弱肉強食だぞ!」
「わかりました...」
おれは、酒が入ると、熱い男になるのだ。仕方ない。
「そういえば、お前ら悩みとかねえの?」
ただの暇つぶしで、解決する気なんてない。
「慣れない先輩がいて...」
「あ?さっき仕事慣れてきたって言ってたろ?嘘なのかよ。」
「いえ...」
「そういうとこだよ。てめえの嫌いなところ。」
「はぁ...」
「なんかウジウジしてんだよな。陰気なんだよ。さっき自慢げに彼女いるとか嘯いてたけど、嘘だろ。てめえみてえな根暗な奴に女なんてついてくるわけねえよ!それかマジで彼女いるなら、よっぽどくだらねえ女だな!写真見せてみろよ!ハメ撮りの1つや2つだろだろ?」
「ないです。」
「写真もねえのかよ。くだらねえホラ吹き野郎だ!」
酒の勢いで、哄笑と共に、後輩が閉口するまで、罵詈讒謗を吐き捨ててやった。
「おせえな!早く料理持ってこいや!」と怒鳴り声と共に、ベルを連打してやった。実のところ、ベルが鳴ってるかわからないので、会話の最中も押しまくっていた。
店員が急ぎ足で駆けてきた。
「お客様、あまりベルを鳴らされると、壊れてしまいますし、こちらとしても料理をご用意しているので、お待ちください。」と半ば怒り気味に対応してきた。流石にこの対応に業腹だったので、言い返してやった。
「鳴ってるかわからねえクソチャイム置いてんじゃねえよ、ロクでもねえ店だな、料理してるんだったら、早く持ってこいブス。」もう言ってることが支離滅裂である。
これには、店員はカチンときてしまったらしく、無言で引き下がった。
去り際に、俺はトドメの一言を吐き捨てた。
「マスク越しでもブスだな。整形したほうがいいぞ。」
周囲のお客さんたちの顔が、引きつっていた。待っても料理が来ることはなかったので、店を出ることにした。会計は3万。クソ高い。風俗行ったほうが良かった。

店を出たところで、運良くキャッチの兄ちゃんがいた。
「おい!兄ちゃん!がんばってっか!」
「はい!どうでした?お店は?」
「ああクソマズかったな。愛想も悪いし、二度とこねえわ。てめえも、こんな下劣なところ紹介するような仕事してるんじゃ、ゴミを食い漁ってるネズミたちと一緒にくたばったほうがいいぜ。おい後輩ども、なにしてんだよ。突っ立ってんじゃねえよ、いくぞ。」
「はい!」
「クソが、てめえら、奢ってもらったからって、これで終わりだと思ってんじゃねえだろうな。次は新宿二丁目いくぞ。俺の行きつけのゲイバーがあるからな。」
「はい...」
気付いたら横にホームレスのおっさんがチューハイ片手に、ついてきてた。
「%#&¥@@/:!!」
「何言ってんだおっさん!早く死ね!」
矢継ぎ早にスマホを取り出して、行きつけのゲイバーの翔ちゃんに電話をかける。席を予約してあるとのことで、歩いて10分ほど。
歌舞伎町とは相反して、新宿二丁目は、静かすぎるほど居心地がいい。そして、男同士が抱き合ってたりするので、あまり夜遊びをしないものにとっては恐怖だろう。翔ちゃんが手を振っていた。
「よう。久しぶり!」
「おひさー!後輩ちゃんたちよろしくねー!」
「よろしくお願いします...先輩...帰ってもいいですか?」
「なんでだよ。翔ちゃんが来てくれたのに失礼だろ。」
「帰ります。」そして足早に二人とも帰っていきやがった。
「クソどもが!てめえら奢ってやったのに、無礼極まりねえな!さっさとくたばれや!」
閑寂な夜の街に罵言がこだまする。
俺は翔ちゃんに抱きついて、一ヶ月ぶりとなるゲイバーで2、3時間飲み、懐に入っていた2万の金を使ってしまった。
気付いたら、時刻は、終電間際。帰るしかない、明日も仕事である。
電車に乗ると酔っ払いが、線路に飛び込んで瞬く間に肉片と化していた。俺はその光景を笑い飛ばして、吐瀉物をぶちまけてやった。そして、野次馬どもは、スマホを片手に覗き込んでいる。

人生は、吐瀉物のように、吐き捨てられる。

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