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【解説編】ポルトガル人サッカー監督ジョゼ・モウリーニョから学ぶ次世代リーダーシップ論

始めに

おかげさまで、大変多くの方々に読んでいただいた「ジョゼ・モウリーニョのリーダーシップ論」。私自身も、今回公開するにあたり、数年ぶりに全文を読み返しました。

やはり、大学生の頃に執筆した文章であるため、今読み返すともう少し丁寧な説明が必要な箇所や、より分かりやすい解釈・表現ができる箇所があると感じました。また、元々は卒業論文として執筆したものということもあってか、言いたい結論を導くための過程の説明とファクトの肉付け作業に重きが置かれており、肝心の結論部分については思考の深さが足りていないことを痛感しました。

全文を熟読してくださった方々には同情いただけるかもしれませんが、「変革的」「サーバント」「共創型」の3つのリーダーシップ手法を構成する要素ひとつひとつに、モウリーニョの名言及び他者からの評価を当てはめていく作業は、相当に骨の折れる作業でした。モウリーニョ関連本はすべて最低2周は読み漁り、ライン引きと付箋貼り、それらのカテゴリー分類をひたすら続ける途方のない日々を思い出します。この作業に多大な労力を費やしたことが、結論部分の思考の深さが足りなかった要因のひとつであると、今になって思うところです。

そのため本記事では、私自身ある程度の社会人経験を経て、ロジカルシンキングやリーダーシップを当時よりも学んだ現在の観点から、本論文の結論及び伝えたかったメッセージについて、補足説明と解説、そして再解釈をさせてください。ぜひ論文を片手にご覧いただけますと幸いです。(論文はスマートフォンでは読みにくいかと思います。個人利用であればプリントアウトしていただいて全く問題ございません)

本論文のキーメッセージ

本論文で最も伝えたかったキーメッセージは下記の3点でした。

①「リーダーシップ」の本質的な意味とは?
②激変の時代に求められるリーダーシップとは?
③ジョゼ・モウリーニョがリーダーとして優れている理由は?

①「リーダーシップ」の本質的な意味とは?

論文では、本質的なリーダーシップの定義について図を交えながら説明しましたが、この定義及び突如出現した下記の図が、理解しづらかったかもしれません。

リーダーシップ_旧図

左上の図で言いたかったのは、「フォロワーに対してリーダーが命令・指図をする行為は、リーダーシップとは言わない」。
左下の図で言いたかったのは、「リーダーがフォロワーの上位に立ち、彼らを従えて組織を推進する行為はリーダーシップとは言わない」。

対して、論文内では、右図を本質的なリーダーシップとし、「可変的な『リーダーとフォロワー』関係に発生する相互の価値交換であり、共有された意味を原動力に組織を推し進める集団的・社会的な行動様式」であると定義しました。この本質的なリーダーシップの定義を、より分かりやすく噛み砕いて補足・訂正した上で、再解釈します。

■「可変的な『リーダーとフォロワー』関係」
=①リーダーにもフォロワーにもなり得る両者の互換性、及び、②フォロワーとの関係性におけるリーダーのポジショニングの多様性
※「可変的」という単語が、ダブルミーニングになってしまったため、理解が難しかったものと反省しています。

論文では、本定義の前段に「誰もが所属する団体や置かれた状況によってリーダーにもフォロワーにも変動する」と記載しました。そのため、この「可変的な」というワードが、「リーダーは、リーダーにもフォロワーにもなり得る」という意味合いばかり強くなってしまい、それゆえに理解が難しかったものと推察します。

しかし同時に、個人的には、リーダーはどのような状況であってもリーダーである、とも考えています。その前提に基づき、この「可変的な」という文言が意味するところは、リーダーが必ずしもフォロワーとの関係性において「上」または「前」にいるわけではなく、「中心」(=共創型リーダーシップ)でも「下」「後」(=サーバントリーダーシップ)でも、どこにポジショニングしていてもリーダーであることに変わりない。つまり逆を言うと、リーダーがその特性やフォロワーとの文脈によってポジショニングを可変させるというのが、『リーダーとフォロワー』関係の重要な要素であるということ。なお、ポジショニングの違いとは、すなわち、リーダーシップ手法の違いに過ぎません。その上で改めて思うのは、この意味においての「可変的」は、「多様的」というワードの方がニュアンスとして正しいかもしれません。

■「相互の価値交換」
=リーダーによるフォロワーへの働きかけ、それに対するフォロワーからリーダーへの反応

「命令」や「指図」がリーダーシップを成立させない理由は、リーダーからの一方的な働きかけに過ぎないからです。論文でも記載した通り、「リーダー」という言葉は「フォロワー」ありき。フォロワーからの反応・フィードバックがなければ、リーダーシップは成立しません。

最も分かりやすい具体的例は、「エンパワーメント」でしょう。リーダーがフォロワーに対して「能力開発」や「権限移譲」などの価値を与え、フォロワーがそれをもって「個人の成長」や「下層のリーダーシップ/リーダーシップの再生産」を達成し、組織・人材の成長という価値形態でリーダーにフィードバックする。このような双方向性が「相互の価値交換」の本質です。例えば、権限だけをあげてフォロワーが組織のために何も成し得なかった場合、リーダーはフォロワーに価値を提供しただけ。権限委譲の対象とするフォロワーを見誤ったか、いずれにせよ、リーダーシップは不成立と言えます。ちなみに、エンパワーメント以外に、「ビジョンを与える」こともリーダーによる価値の提供と言えるでしょう。

■「共有された意味を原動力に組織を推し進める集団的・社会的な行動様式」
=上記リーダーとフォロワーの価値交換によって組織を前に動かす行動

共有された「意味」としたことで、「価値」とは異なる用語を使用したのが、分かりにくくしてしまった要因だったと反省しています。「共有された意味」とは、上記「相互の価値交換」に内包されるため、あえて「意味」という表現を使用する必要性はありませんでした。なぜなら、組織の「意味」もしくは換言すると「目的」や「ビジョン」などをリーダーがフォロワーに共有する行為そのものが、リーダーからフォロワーへの「価値」の提供になるためです。その他の箇所は文字通りであり、リーダーとフォロワーが相互に価値を交換し、それを原動力に組織を前に進める集団的行為のことを、リーダーシップと呼びます。誤解されがちですが、リーダーシップとは、リーダーひとりによる「個人的な行為」ではなく、リーダーとフォロワーによる「集団的な行為」であるという点が、本論文のキーポイントです。

リーダーシップ_①

リーダーからフォロワーへの働きかけの矢印がリーダーシップであると誤認されがちですが、リーダーとフォロワーの双方向の矢印を燃料に組織を推進する矢印がリーダーシップです。つまり、フォロワーもリーダーへ価値を提供し、組織の推進に貢献することで、リーダーシップを発揮できます。その意味においては、前述の通り、両者の関係性は「可変的」であります。

上記の補足を踏まえて、改めてリーダーシップという言葉をより正確に定義すると「多様的かつ可変的な『リーダーとフォロワー』関係に発生する相互の価値交換を原動力に、組織を推し進める集団的・社会的な行動様式」となります。なお、前述の通り、「多様的」とは、リーダーのポジショニングの多様性を意味し、また、「可変的」とは、リーダーがフォロワーに、フォロワーであってもリーダーに、それぞれなり得る互換性を意味します。

リーダーシップ_②

②激変の時代に求められるリーダーシップとは?

論文中にも記載しましたが、長文に埋もれてしまった感があるため、再度解釈を掲載します。

変化の波がうねる現代において求められるリーダーシップとは、「激変の時代においてリーダーが持つべき基礎特性(論文中では10つの共通基礎特性として定義)を獲得したうえで、自らの個性を上積みして独自のリーダーシップスタイルを築くことで、パーソナリティ含め信頼にあたるリーダーであると認知され、環境の変化に晒されても揺るがない堅牢かつ柔軟な組織をフォロワーとともに構築・推進するリーダーシップ」です。

まず、10つの共通基礎特性について補足・再解釈します。

論文では、3つのリーダーシップ手法とモウリーニョの事例から、リーダーとしての10つの共通基礎特性を抽出しました。しかし、要素を羅列しただけで頭に入れづらい表現となってしまったため、より汎用的な文言、かつ、構造化された順序へ再解釈したいと思います。なお、構造化にあたっては、ベニス教授の著書の中で個人的に最も好きな言葉のひとつである下記の名言をヒントにします。

「すぐれたリーダーは、能力とビジョンと美徳をほぼ完璧なバランスでそなえている。ビジョンと美徳を伴わない能力や知識は、官僚を生みだす。ビジョンと知識を伴わない美徳は、空論家を生みだす。そして、美徳と知識を伴わないビジョンは、扇動家を生みだす」

リーダーシップ_③
リーダーシップ_④

次に、リーダーシップの手法やスタイルの違いについて補足します。

論文では、変革的リーダーシップ、サーバント・リーダーシップ、共創型リーダーシップの3つのリーダーシップ手法すべてにモウリーニョの事例を当てはめていきました。この趣旨は、モウリーニョを含むすべてのリーダーシップ手法に上記10つの共通要素があることを示すためです。決して、モウリーニョが3つのリーダーシップ手法いずれかに該当するという意味ではありません。

その中で、100人のリーダーがいれば100通りのリーダーシップがあるように、共通基礎特性の「色の濃淡」によって、リーダーシップの手法が変わるのです。論文でご紹介した3つのリーダーシップ手法と、「モウリーニョ・リーダーシップ」の4つのリーダーシップについて、共通基礎特性の色合いの違いを比較すると下記のようになるでしょう。(※色の濃淡は、定量的な指標はなく、個人の感じ方によって違いがあるもの)

リーダーシップ_⑤

10つの共通基礎特性がリーダーを形作り、その色の濃淡がリーダーシップ手法を形成し、そこに上積みされる個性がリーダーその人自身の魅力と評判を決定付け、ひいてはフォロワーの感情・エモーションを突き動かすリーダシップを生み出します。例えるならば、10つの共通基礎特性がリーダーシップの「骨格」であり、個性がリーダーシップの「皮膚」であると言えるでしょう。モウリーニョの場合、チームに伝染する自らの「自尊心」とそれをチームに植え付け続ける「一貫性」などが彼のリーダーシップ手法を支え、「規律」「感情」「普通の人間」という個性が、彼のリーダーシップスタイルをこの世で唯一無二のものとしています。

リーダーシップ_⑥

③ジョゼ・モウリーニョがリーダーとして優れている理由は?

ここまで見てきたように、モウリーニョがリーダーとして優れている理由は下記の通りです。

■激変の時代に求められるリーダーの共通基礎特性をすべて備えている
■その上で、基礎特性の色合いと個性によって、独自のリーダーシップスタイルを築き、フォロワーからも世間からもOnly Oneのリーダーとして認知されている
■それを自覚した上で、自らのリーダーシップスタイルを武器にフォロワーへ働きかけ、変化の波に晒されている組織を強固に結束させ、プラスの方向に推し進めている

ベニス教授が、「リーダーになること=自分自身になること」と述べているように、共通基礎特性の色の濃淡とそこに上積みする個性の2点は、独自のリーダーシップスタイルを築き、フォロワーや世間から唯一無二のリーダーとして認知されるためには不可欠です。この2つを高度に融合させ、モウリーニョにしかできない「モウリーニョ・リーダーシップ」を築き上げているからこそ、モウリーニョは世界でも有数のリーダーなのです。

ちなみに、モウリーニョはエンパワーメントによる「リーダーシップの再生産」の重要性を十分に理解しています。「チームにリーダーがいれば、私はコーチングに集中できる」。モウリーニョが世界有数のリーダーであることを端的に示した発言でしょう。「リーダーとマネジャーの違い」論争にも類似するこちら「リーダーとキャプテンの違い」のインタビュー動画は必見です。

最後に

アイキャッチ画像には、直近のモウリーニョ関連のエピソードで、個人的に最も心を動かされたシーンをチョイスしました。モウリーニョとこの少年は「リーダーとフォロワー」の関係性ではありません。それでも、モウリーニョが優れたリーダーである事実が濃厚に凝縮された一枚となっています。

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本論文でも引用したリーダーシップ学の古典は、以下の3書が代表作となります。興味を持たれた方は、ぜひ読んでみてください。


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