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書評 #41|暴虎の牙

 激しさの中に虚しさが込み上げる。柚月裕子の『暴虎の牙』は広島を舞台とした警察、暴力団、愚連隊による三つ巴の攻防を描く。

 光ではなく、影を選んだ人々の物語。破壊の衝動は連鎖し、膨張していく。泥沼のように燃え続ける怒りは象徴的な結末を迎える。時代の変遷と個人主義。ダークヒーローとして圧倒的な存在感を発揮する沖虎彦に、組織とは相反する個人主義の香りが漂う。

 非日常的な犯罪と暴力の世界に身を預けながらも、そこには日常の風景とのつながりが浮かぶ。そこには情けがあり、義理がある。そして、陳腐な言い方にはなるが、信念を軸に据えた人々の生き様がある。


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