書評 #20|女のいない男たち
村上春樹の『女のいない男たち』を読みながら、「女のいない」という状況が何を意味するか考えた。六つの短編小説を読み終え、僕は「感情の揺り動かされた」状態と解釈した。
本作は感情の「振れ幅」の物語である。登場する男たちに似た特徴はない。しかし、精神の奥深くでつながっているような感覚を覚える。男たちは内にある感情を演技で隠し、違う自分になろうとし、場合によっては制御できない感情の渦に飲み込まれる。自我と世界との間に位置する女性たち。彼らは女性たちを通じて、世界と結びつく。
口当たりのいい文体は炭酸水のような爽やかな読後感を与える。その一方で、差し出される描写の数々は懐かしさももたらす。感情に蓋をすること。過去を否定し、新たな自分を希求する気持ち。突き詰めれば自分一人の孤独な世界の中、時に感情を抑え、時に爆発させる。それは忍耐であり、破滅でもある。しかし、視点を変えれば、後者は自我への誠実さとも言える。本作は人の成長過程を描いているとも感じた。
作中で「女」との交わりは「現実の中に組み込まれていながら、それでいて現実を無効化してくれる特殊な時間」と形容される。個人は感情によって世界とつながり、その先には他者が存在する。人間という器に盛られた感情。その感情を内と外でどう扱うかを決めながら、人は生を全うしていく。女と男の遠く先にある深みに手が触れたような気がした。
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