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展覧会は「バイキング会場」だと考えてみる鑑賞法 【美術展の巡り方について】

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美術鑑賞のプログラムを行っていると、「展覧会場でどう作品を見ていったら良いのか?」ということを聞かれることがある。そんな時、私はバイキング会場に例えておすすめの見方を紹介している。

「バイキング」は、たくさんの料理から好きなものを選んで食べられる食事の形式だ。私は出張先のホテルで食べる朝バイキングが大好きなのだが、料理が並べられている様子を眺めていると、たくさんの作品が展示されてる展覧会と似ているなと思うことがある。

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ちなみに「バイキング」という食事形式は、名前も形態も日本独自のもの。日本初の食べ放題の店名が、映画の中でヴァイキングが豪快に食事するシーンから「バイキング」と名付けられた事が由来だそう。

バイキングを楽しむには、たくさんの料理の中から自分の好きなものを「必要な分だけ」選んで皿に取って味わうのが大切だ。同じように展覧会でも、たくさんの作品から「必要な分だけ」取り分けて楽しむというのが、私がおすすめする巡り方だ。

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要するに、見る作品を選んでじっくり味わうというのが、今回紹介する鑑賞の方法。シンプルでなんて事ない方法だが、これがなかなかできなかったりする。

自分にも苦い経験がある。美術の展覧会に行き始めた頃は、決して安くはない入場料や交通費の元をとってやろうと、展覧会の隅から隅まで見ようとしていた。

主催者のご挨拶に始まって、展覧会のコンセプト、生家の周りの地図や、親友に送った手紙、記録映像・・

会場にあるありとあらゆるものを、全部目の中に入れようと頑張った。が、いつも半分くらい会場を巡ったところで、疲れて集中力がなくなり、あとは図録を買って確認すればいいかと、本末転倒な形で会場を後にした記憶がたくさんある。

今振り返ってみても、やはりこれは良い巡り方だったとは思えない。(でも良い経験だったとは思う。)

自分の集中力や体力には限界がある。そして残念ながら、その大きさは自分の思っているより、だいぶ容量が少ない。

その容量の事を考えずに、隅から隅まで展覧会を見ようとするのは、バイキングの料理を端から端まで皿に取ってゆくようなものだ。皿を使いまくって料理を取るだけ取ってくることはできても、胃袋の大きさは決まっているので、結局は食べ残してしまうだろう。

展覧会でも作品をとにかく全部目の中に入れることはできるが、その全てにじっくり感じ入ったり、後々まで記憶や印象に残すことは難しい。

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そんな欲張りな振る舞いは一旦諦めて、腹八分目の巡り方をするのはどうだろうか。

バイキングを腹八分目で楽しむ方法。これだったら、多くの人がもう知っているはずだ。そのイメージを展覧会にも応用して、食べ残しなく味わう方法を考えてみよう。

バイキングを腹八分目で楽しむなら、まず会場にどんな料理があるのか全体を確認する必要がある。サラダに肉、魚、スープ、和食、洋食・・どの料理をどれだけ腹に入れるかペース配分を考えることが重要だ。

これと同じように、展覧会でもまず入り口から出口までざっと通して鑑賞し、どんな作品や展示物があるのかを全体を確認する。まだしっかりと見なくて良い。気になる作品のチェックと、会場構成を確認するのが目的だ。

第1室は若い頃の作品、第2室は同世代の他の作家の作品、第3室に今回の目玉作品があって、第4室は晩年の作品か・・と、全体がどんな構成で、どこが混んでいるかとか、ここで座って休めそう・・なんてことをざっくり把握する。さらにその中で、自分が気になる作品、後でじっくり見る作品をいくつか目星をつけておく。

そうやって出口まで来たらまた入り口に戻って、さっき気になった作品をじっくりと鑑賞する。
*一旦会場の外に出る場合は、再入場が可能か確める必要がある。NGのところもあるので注意。

今度は全体の構成が分かっているから、ここは空いてるから穴場だとか、疲れてきたらこの椅子で休もうとか、関連した作品が先の方にあったから見てこようとか、疲労や集中力とうまく付き合いながら鑑賞することができるだろう。

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こうすれば、自分の疲労が溜まり切る前、集中力がなくなる前の腹八分目の良い気分で美術館を後にすることができる。

全体をよく確認して、腹八分目で楽しめる容量を意識しながら楽しむ。
これが『展覧会は「バイキング会場」だと考えてみる鑑賞法』だ。

もちろん、見ようと思っていた隣の作品以外もふらっと見るような、迷い箸的な鑑賞も良いだろうし、思った以上に疲れてしまったら、一旦カフェでコーヒーを飲んだり、外の公園を散歩しても良い。

また、強靭な体力と集中力、記憶力を持った方も持った方もたくさんいるだろう。そんな人には今回の提案はそぐわないと思うので、「なんか違うな〜、楽しめないな〜」と思ったら、やりたい方法で楽しんだら良い。

お腹が膨れるわけでもないしモノが手に入るわけでもない、展覧会に行くというのは、映画を見に行くように、コンサートに行くように、すごく精神的に豊かな行いだ。

今回の方法では、ほとんど見ない作品もたくさんあって、せっかく行ったのにもったいない!という気持ち確かにもある。けれど、そもそも心に豊かなことをしに来てるんだから、そこは時間や感覚も贅沢に使っちゃって良いんじゃない?と思うのだ。

豊かなことは豊かな気持ちで。


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